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②
宰相の執務室にはオノリースとギーだけがいた。
「どうして麦角病の報告が儂の所に上がってこなかったのだ。」
「陛下が陳情書をご覧になられて、その場で部下に任せたと聞きました。汚染麦を回収すればそれでよいと考えておられたようです。実際市場にあった麦は全て回収したと聞きました。売れてしまった物までは追跡しなかったようです。それで閣下のところには話が上がってこなかったようです。」
「調査が甘かったのだ。周知もしていなかった。ゆえに汚染麦が早々にわが領に入ったことに気付かれずひどいことになった。ガートルからの抗議の手紙が来なければ未だに気が付かなかったかもしれぬ。待ち望んでいた跡継ぎが死んでしまった。このままでは何百年と続いたブラスバン家が絶えてしまう。仕方ない、この際伯爵家あたりから適当な女を選んでおいてくれ。」
オノリースはガートルの手紙をグシャリと握りしめた。
今やガートルは足を失った寡夫になってしまった。
ウイリアム殿下があんなに改革を進めたいと言わなければ、儂はアーサー王子に『王冠の乙女』を与えなかった。
まさか、アーサー王子がこんなに愚劣な王になるとは思いもしなかった。
王妃にうつつを抜かし仕事時間も減らしてしまい、王の印が押されぬ種書類が溜まっていると聞く。
あんなに偉そうに理想論を述べていたのに。
これでは前王の方がまだマシだった。
気が弱くいいように利用されたりしていたが、仕事だけはしていたから。
それに…儂の所に来る仕事がどんどん減ってきている。
儂が苦言を呈することを嫌がっているのだろう。
まさか…儂を切るつもりで仕事を減らしているのか?
「閣下、ネージュ子爵令嬢はどうされますか?陛下が暴力を振るわれたとなると王子宮に置いておくとかえって良くないのでは?」
「そうだな…。でももう少しだけ考える。今は天候も収まっているからな。」
しかし、我が家に伝わる口伝のように『王冠の乙女』を害すると天罰が下るのだな。
ヨーク家の嫡男が死ぬとは…。
となるとアーサー王も同じ道を辿るのでは無いのだろうか?
代わったばかりなのに次の王を考えなければならないとは…どうしてこのようなことになった?
とにかく王位継承権の順番と誰が良いのか考えなければ。
オノリース・ブラスバンは自分が一番『王冠の乙女』を害したことに気が付いていなかった。
本来自ら選んだ愛する男に嫁ぎ、妻として力になるのが『王冠の乙女』である。
なのに、口伝で伝えられた事柄にはいつしか抜けたところがあり『名実ともに愛し愛され妻となる事』その根本を、勝手に好意があって体が繋がればよいという中途半端な解釈に履き違えていたのだ。
そして、謀略のもとに人の命まで奪ったその傲慢な行いを『王冠の乙女』はもう知っているのだ。
「どうして麦角病の報告が儂の所に上がってこなかったのだ。」
「陛下が陳情書をご覧になられて、その場で部下に任せたと聞きました。汚染麦を回収すればそれでよいと考えておられたようです。実際市場にあった麦は全て回収したと聞きました。売れてしまった物までは追跡しなかったようです。それで閣下のところには話が上がってこなかったようです。」
「調査が甘かったのだ。周知もしていなかった。ゆえに汚染麦が早々にわが領に入ったことに気付かれずひどいことになった。ガートルからの抗議の手紙が来なければ未だに気が付かなかったかもしれぬ。待ち望んでいた跡継ぎが死んでしまった。このままでは何百年と続いたブラスバン家が絶えてしまう。仕方ない、この際伯爵家あたりから適当な女を選んでおいてくれ。」
オノリースはガートルの手紙をグシャリと握りしめた。
今やガートルは足を失った寡夫になってしまった。
ウイリアム殿下があんなに改革を進めたいと言わなければ、儂はアーサー王子に『王冠の乙女』を与えなかった。
まさか、アーサー王子がこんなに愚劣な王になるとは思いもしなかった。
王妃にうつつを抜かし仕事時間も減らしてしまい、王の印が押されぬ種書類が溜まっていると聞く。
あんなに偉そうに理想論を述べていたのに。
これでは前王の方がまだマシだった。
気が弱くいいように利用されたりしていたが、仕事だけはしていたから。
それに…儂の所に来る仕事がどんどん減ってきている。
儂が苦言を呈することを嫌がっているのだろう。
まさか…儂を切るつもりで仕事を減らしているのか?
「閣下、ネージュ子爵令嬢はどうされますか?陛下が暴力を振るわれたとなると王子宮に置いておくとかえって良くないのでは?」
「そうだな…。でももう少しだけ考える。今は天候も収まっているからな。」
しかし、我が家に伝わる口伝のように『王冠の乙女』を害すると天罰が下るのだな。
ヨーク家の嫡男が死ぬとは…。
となるとアーサー王も同じ道を辿るのでは無いのだろうか?
代わったばかりなのに次の王を考えなければならないとは…どうしてこのようなことになった?
とにかく王位継承権の順番と誰が良いのか考えなければ。
オノリース・ブラスバンは自分が一番『王冠の乙女』を害したことに気が付いていなかった。
本来自ら選んだ愛する男に嫁ぎ、妻として力になるのが『王冠の乙女』である。
なのに、口伝で伝えられた事柄にはいつしか抜けたところがあり『名実ともに愛し愛され妻となる事』その根本を、勝手に好意があって体が繋がればよいという中途半端な解釈に履き違えていたのだ。
そして、謀略のもとに人の命まで奪ったその傲慢な行いを『王冠の乙女』はもう知っているのだ。
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