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ギルバートの話
01
しおりを挟むおれの産まれた街はルピシエ市といって、国の西海岸に位置しているらしい。
らしい、っていうのはおれは実際にこの街を出た事がなくて分からないからなんだけど。
おれがこの街に対して分かるのは2つ、ここがその昔王都として栄えていた歴史ある古都であったこと、そして首都が移った現在は国内唯一の特別行政区として異質な立ち位置にあるということ。
何故特別行政区となったのか、説明すると簡単な話で、君主制だったこの国にも時代の流れが到来して王が廃され国全体が民主化へと舵を切ったのだ。でもそこで猛反発したのが王のお膝元で富を築き上げた貴族達。
その有力な貴族達がごろごろと住んでいたのがここ、ルピシエ市というわけ。
もうなんだか見えてくるでしょ?
民主化に反発した貴族たちの反乱を、歴史の先生は『女王への忠誠心から貴族達が蜂起した』なんて美談の様に解説していたけど、そんなのは所詮綺麗事だって平民のおれにも分かる。
貴族達の頭にあったのは自分たちの優雅で贅沢な暮らしを守る事、下々の平民が自身と"同等の権利"を得たせいで富が逃げる事が許せなかったのだと思う。
結果を言うと、自由を掲げ王を廃したはずのこの国は早々に貴族らに折れた。
こういうのを巨悪って言うんだろう。
貴族達が意地でも手放さなかっただけはあるというか、十数世紀をかけて築かれたその地位、その金と権力は莫大で、生まれたばかりの新政府にとって強力すぎたのだと思う。
新政府は貴族達の望む古き良き社会を与える他なかった。
大多数の国民が自由と平等の元で生きる為に、貴族の巣食うルピシエ市は切り離され、こうして国内最後の身分格差が残る、時代の止まった特別行政区ルピシエ市は完成した。
ちなみにこの決断が下されたのは、今から半世紀くらい前の話。
酷い話だって、誰もが思うだろ?
でも、平民身分のおれから言えばここはそこまで悪い街でもないと思う。例えば税金。桁外れの金を作る貴族様のお陰でおれらの負担はほぼ0に等しい。
こんな優遇された街は国のどこを探してもないらしいじゃないか。
つまりおれら平民は、格差社会の下であり続ける限り楽が約束されている。
とまあ前置きが長くなったけれど、これがおれの住むルピシエ市という街。おれが警察をしながら兄と2人暮らし、平々凡々な生活を送っている街だ。
それも今では過去形で、正しくは"していた"になるんだけど。
…これから話すのは、こんな貴族の街でなんの特徴もない平民警官の1人が死ぬまでの話だ。
だからまあ、どこから話始めようかと悩んだ挙句が街の成り立ちなんてお堅い話をしてしまったんだけど。話した後で言うのもなんだけれど、あれは忘れても大丈夫な内容。おれの人生において行政なんてものはあまりにも程遠く、関係がなかったと断言出来るから。
それこそ貴族なら自伝の構成くらいありそうだけどただの平民の人生なんて最初から盛り上がりに欠けている。だから署長のスピーチみたく長ったらしい話にならないよう、なるべく簡潔に済ませたいと思うんだ。
なにせ誇れる人生とも言えなかったから。
…そうだな、決めた。
おれが警備課に配属になってから4年目を迎えた年から始めよう。まあ5年目は訪れないのだけど。
これはおれの遺書のつもりだ。
こんな馬鹿な事をしたおれでも、誰からも理解されなくたっていいから生きた証としてなにか残したいって、そう思うんだ。
書き始めは……
そうだな、
振り返れば、おれの人生の中心にはいつも決まって兄がいた。とか。
ep.1 ギルバートの話
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