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1話 吾班は猫である
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市民の家が爆ぜたのもまた、その悪魔のような薬物による犯行だった。
規制線の張られた現場は一言で言うと消し炭、だろう。
家は見るも無惨に瓦礫と化して、運良く生き残った支柱が数本、焼け地に突き刺さっている。
灰と化した光景に、男が一人踏み込んだ。
焦げた何よりも漆黒な制服に身を包んだ刑事のキースは、頭痛すら覚える匂いの中、一歩一歩 家の残骸を踏み潰し進んで行った。
そしてふと足を止める。
見つけてしまったのは、人の大きさもある黒い炭の塊。焼死体だ。三体の、人間だったもの。
人の姿をギリギリ保ったそれらは、身体の先をひん曲がらせながらも、重なり合うように倒れていた。
恐らくこの"親"は、屋敷が爆発する瞬間に"子"を庇おうとしたのだろう。
善良な市民が日々命を散らしている。
キースの眉間にシワが寄る。
人には想像も及ばない絶大な力を前に、抵抗する術もなく彼らは死んだのだ。"悪魔"を目の前にした彼らは、怒りすら忘れる程の計り知れない恐怖を感じたままに息絶えたのだろう。
「可哀想に…」
いとも簡単に命を踏み躙られた焼死体を前に、キースは膝をついた。そして目を伏せ、黙祷を捧げる。最早それくらいしか出来ることは残っていなかった。
こんな惨劇が、当たり前のように繰り返される街になってしまった。
これがこの街で横行している、悪魔による犯罪……いや、悪魔ならばまだよかったのに。
全ては、一瞬で全てを燃やし尽くす炎を操り、なんの躊躇もなく他人を屠れる悪人と、
そんな術を人に与えてしまう摩訶不思議な薬のせい。
血が通い、人の痛みを知り、善悪の判断の取れる人間が、力を得た事でこんなにも、酷い犯罪を繰り返す。
それは悪魔なんかよりももっと罪深い……
「キース刑事課長」
呼ばれて、キースは振り返る。どうやら後処理仕事の邪魔をしてしまったらしい、心配そうな表情を浮かべる部下がそこにはいた。
上司の訪問を知り、駆けつけてきたらしい。
「馬車の中で待っていてください。この惨状は酷でしょう」
「大丈夫だよ、こんなのは慣れっこさ。それより君ねえ、ふふふ」
「なにか、面白いものでも……?」
クスクス笑うキースを怪訝そうに眉をひそめる部下。こんな悲惨に何を笑う事があるのかと、面食らった様だった。
もちろん面白い事なんて何一つない。ただ、この現場でずっと仕事をしていた彼の、煤で真っ黒にさせた顔を目にしては、自然と笑ってしまった。
「いやね、煙突掃除でもしたみたいな汚れっぷりだと思ったのさ」
「っ!失礼しました!」
「いいよ、頑張った証拠じゃないか。ご苦労様」
ハンカチを差し出せば、「受け取れません」と首や手を振られるが、お構い無しに握らせた。
「で、顔を洗いながら聞かせて欲しいんだけれど、ここの服用者は確保出来たかい?」
「ええ…」
制服で荒く顔を拭いた部下は首肯する。どうやら上司の物を汚すわけにはいかないと、思ってしまったらしい。
これでは何の為にハンカチを渡したのか分からないな、なんて思いながら眺めていると、まだら顔になっていく部下の顔に曇った影を見つけた。
きゅ、と口を結び、なんだか不満げなのである。
「服用者は、逮捕したんだよね?」
「はい、もう護送車です。解除薬も投与しました」
「…なにか問題でもあったのかな?」
「いいえ、ですが…」
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