王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
206 / 494
第8章 女王の日常と南の国々

30 三カ国合同作戦

しおりを挟む
 目が覚めた私は、重い身体を起こす。
 部屋のカーテンを開けると既に日が高く登っていた。
 思ったよりも長く眠っていたようだ。

 身支度をして艦橋へ向かうと、皆揃っていた。

「おはよう」

「「「おはようございます陛下」」」

 私に気付いた皆が挨拶を返す。
 そして代表してシクスタスが一歩前に出た。

「現状敵影はありません。また昨夜に指示された内容についてですが、こちらをご確認ください」
 空中に映像が投影されると大陸の一帯を示す大きな地図が表示された。

 昨日のうちに出した指示は二つ。より広範囲の観測とエインスレイス連邦とドラコロニアの状況確認だ。

「まずエインスレイス連邦とドラコロニア王国の戦況ですが両国ともやや優勢のようです。数で負けているものの砦などへの篭城戦や地形を生かした奇襲などが功を奏したようですね。国境線は死守できています。そして周辺観測の結果は地図に表示していますが…拠点や敵影などは見つかっていません」

 周辺観測には探知用の特殊弾頭が使われている。
 魔術省が開発した探知魔術と通信魔術が込められた戦艦用砲弾。撃ちだしてから着弾するまでの間、魔術通信によって探知結果を送るという代物。砲弾自体が炸裂しなくても質量によって着弾箇所を破壊するため味方や住民が居る場合では扱えないが、今回のような場合では気にせず使えるだろう。
 そんなわけでナイトメア軍のみ居ると想定される方面に適当に数発撃ったわけだ。

「目視による観測は範囲に限りがあるし、こちらの船の位置が露見する。しばらくはこのまま撃ち続けて探知するしかないわね。敵の性質上、補給路が存在しないけれど拠点を潰すことができればこちらの有利になるわ。わたくしとしては前線を少し押し上げておきたいけれどどうかしら?」

 補給を必要とせず魔力さえあれば不死身に近い敵。
 ただでさえ数的不利なこの状況は、早急にどうにかしたいと考えていた。今のようにいつでも攻めて来れる状態は避けたいところだ。

「いいのではないか?国境沿いの防衛戦は戦いやすいが不安も残るのは、エスペルト王国でもよく実感しているからな」

「そうですね…エインスレイス連邦にせよドラコロニア王国にせよ、いつまでも避難民を抱えたままというわけには行かないでしょう。十中八九、侵略された領地を取り返すという方針を目指すと思います」

 アドリアスとシクスタスも同意した。残るイリーナも「最善でしょうね」と言ってエクハルトも首肯する。

「ではその方向で進めるわ。両国に書簡を送っておいてね」



 それから数日かけてナイトメア軍拠点への広域索敵が行われた。探知魔術の砲弾や渓谷上空を飛空船の限界高度まで上げての観測。

 それらの情報を分析し敵拠点、行軍位置の座標を割り出していく。そして位置情報を両国に伝えた翌日、緊急通信が入った。

「急な通信でありながらエスペルト王国、ドラコロニア王国おもに応じてくれたことに感謝します」

「いえ。防衛戦は現状やや有利といったところ。一先ず防衛には成功しているけれど、ずっとこのままというわけにも行かないわ。わたくしとしても良いタイミングでした」

「こちらも同じく。もうそろそろ次の一手を打ちたいと考えていた」

 レオンからの通信で始まった会談。
 私も一度、話し合いを持ちたいと考えていた。

 そもそも敵の位置情報を集めていたのは、戦況を変えるための一手が欲しいからだ。戦術的に勝利を重ねている今だからこそ、戦略的一手を撃ち戦況を一変させる必要がある。
 そして私以外の二人も同じような考えだったようで内心で安堵する。

「では私から提案を。我がエインスレイス連邦とエスペルト王国、ドラコロニア王国の三国合同での反攻作戦を行いたいのです。エスペルト王国からの状況で敵位置、構成等の把握が進んでいます。三カ国で協力し、元ロニア国、セレーナ王国、アルカイド連合国まで取り返したいと考えています」

 ロニア国、セレーナ王国、アルカイド連合国の三国は、エインスレイス連邦とドラコロニアの南側に隣接していた国だ。
 奪還することができればナイトメアと隣接しなくなるだろう。

「こちらも同じ考えだ。三カ国からの避難民と王族などの代表はこちらに居る。殿を務めた兵士以外もだ…奪還作戦となれば彼らも協力してくれるだろう」

「ええ。それに避難民の中には集落に住んでいた者も多い。協力を得られれば心強いでしょうな」
 基本的にこの世界で魔物が入ってこない平和な場所は、城壁などに囲まれた都市くらいだ。
 集落にも魔物避けの植物などが存在するが、魔物の浸入を完璧に防ぐことはできない。
 日々の生活を魔物と共に過ごす住民は、都市に住む駆け出しの冒険者よりも強い。

「援軍を送るのは防衛が厳しいときのみ。本来であれば反攻作戦には援軍を出さないところだけど…戦線を下げるまでは厳しい状況と見なせるわ。エスペルト王国からも、今展開している軍はそのまま作戦に参加する」

 合同作戦を行うことが決まったことで、詳細の内容を詰めていった。

 作戦決行日は二日後。
 それぞれの砦から軍を南下、拠点を奪還しつつ補給路を構築していくことになった。
 エスペルト王国は今回の戦闘で殲滅した南側中央部の防衛。そしてアウトレンジからの砲撃による支援と物資の運搬を担うことに決まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...