王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
224 / 494
第8章 女王の日常と南の国々

47 裁定と決着

しおりを挟む
「フィンの考えは分かった…ラティアーナ陛下、フィンの扱いはどうしましょうか?」

 グライアス侯爵が私に尋ねたのはフィンの罪の扱いについてだ。フィンは平民なため裁判権は領主にある。しかし王族に対して危害を加えた場合などは、裁判権が国王となるからだ。

「国王としていたわけでないから王への反逆には問わないつもりよ。侯爵に委ねるわ」

 私の場合はいつも通りの対応をする。それを聞いた侯爵が「ではお言葉に甘えて…」と呟いてフィンを見た。
 フィンも裁定が下されるのを感じて、背筋をぴんと伸ばした。

「フィンよ。グライアス侯爵領の領主として其方に裁定を下す。今回の行動は領主への反逆となるが、最良ではないものの私たちのためにもなる行動でもあった。これからも領地に誠心誠意仕えることで罪を償うように」

 それは実質の無罪宣告。フィンを許し、これからも筆頭魔術士として扱うと言うもの。

 グライアス侯爵の裁定にフィンは良く理解できないようだった。何度か瞬きしてようやく言葉の意味を理解する。信じられないとでも言うような表情で口を開いた。

「私は反逆したのですよ。それなのに…」

「構わん。領主として罪を裁くには、全ての事実詳らかにし、関わった者全てを真実を見極なければならない。フィンの行動だけを見れば反逆と言えるだろう。しかしフィンにとっての真実は、領地を傷つけないようにコーネリアの命を守ろうとしたという事。であれば領主として答えなければならない、それだけのことだ」

 グライアス侯爵の言葉には重みがある。建国初期から存在し長い歴史を誇るグライアス侯爵家。その領主として侯爵として、貴族社会の荒波を乗り切ってきただけのことはある、そう感じるものだった。

「ありがとうございます。この命、グライアス侯爵領のため、そしてエスペルト王国のために使いたいと思います」

 フィンは頭を深く下げた。隷属の呪いから解放された今、組織からも解放されたも同然だ。ようやく自身の意思で歩みを進めることができるだろう。
 師として慕っていたコーネリアも言葉にこそしないものの、安心したように笑みを浮かべてほっと息をつく。

「ではフィンの扱いが決まったことで早速本題に入りましょうか。まずは現在判明していることについて、私から申し上げましょう」

 ニコラウスが話題を変えると映写の魔術具に手をかざす。調査結果が空中に投影された。

「ノワール商会自体は国外に本店があるため詳細までは掴めませんでした。ですがエスペルト王国内に進出したのは半年ほど前になりますね。侯爵家に潜入していたのはフィンを除いて3人。ただし誰も組織の人間と直接会った事のある者はいないようです」

 組織と繋がっていた人間は執事のほかにも侍女と料理人に1人ずつ。ただし組織からは隷属の呪いを経由して言葉が送られてくるため顔も知らないらしい。

「5年以上前からとは、随分と念入りな計画になりますな。我が侯爵領を狙っていたのか、あるいはエスペルト王国自体を狙っているのか…」

「正直なところ目的がよく分からないのよね…ここは大都市だし流通の要所でもあるけれど代替が効かないわけじゃない。国防の要所でもないし、ね」

 私はため息を吐きながら口にする。他の皆も怪訝な表情をしているが、そもそも目的が分からない。
 少しの間考えていると、ニコラウスが「もしかしたら…」と言葉にした。

「根拠はないですが今回の件も邪教が絡んでいるかも知れませんよ?5年前くらいから度々事件を起こしてますし、大陸の南側は元々邪教信徒が多いらしいですからね」

「邪教ねぇ…」

「怪しい組織ではありますね…」

 私と侯爵があり得るかもしれないと考えていると、今まで静かに聞いていたコーネリアが「邪教ってなんなのでしょうか?わたくしも名前は聞いたことがるのですが…」と言う。

「邪教と言うのは生物の本質を邪とする信仰ですね。魔物のように本能のままに生きることを正として欲のために行動する、と言う思想らしいです」

 この大陸にある宗教は大きく分けると2つにある。エスペルト王国も含め多数の国家に根付いている精霊教。そしてもう1つが邪教だ。
 邪教は精霊教と違い教会のような組織はない。あくまで純粋な思想だけのものだ。
 孤児院長の時は邪気による強化を、バルトロスの時は悪獣の復活を目的としていた。思想が同じだとしても目的は人それぞれとなる。

「結局、事が起こってから対応するしかなさそうね。ニコラウスはノーティア公爵家と協力して警戒だけはお願いね」

「かしこまりました。お任せください」

 残りの調査をニコラウスに任せることにした。不明な部分は多いがグライアス侯爵領については、事態を解決できたと考えていいだろう。



 それから1日ほど滞在して私たちは王都への帰路に着く。今回の事件だけでなく地下鉄道や流通についても話をすることができたため、とても有意義な時間にすることができた。

「グライアス侯爵。此度の話はとても有意義でした。王国貴族として、これからも期待しているわ」

「こちらこそありがとうございました。今後もエスペルト王国のため力を尽くす所存です」

「ええ、あなたの忠誠しかと受け取ったわ」

 侯爵と挨拶を交わしているとコーネリアと目が合う。この滞在期間の中で協力を仰いだエデンを除けば1番濃い時間を過ごしたのが彼女だ。

「コーネリアも元気でね」

「ありがとう存じます!」

 私たちは王都へと帰還した。
 その後、事件についてはエスペルト王国内を隈なく調査した。痕跡こそ見つかるものの正体までは辿り着かない。
 目的も正体もわからない以上、警戒を続けるしかないだろう。


 そして約3年が経つ。私は17歳になった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...