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第12章 私を見つけるための旅
1 雨の森で
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それから少しの時間。
私は紫陽の隣で温もりを感じていた。
互いに無言でいたため、葉や石に水が落ちる音だけが聞こえてくる。徐々に強くなっていく雨音だけの聞こえてきて、まるで世界に二人しかいないようにさえ感じた。
「おはよう……何かあったのか?」
しばらくすると黒羽が起きてきた。黒羽は私と紫陽を交互に見ると不思議そうに首を傾げている。
「ちょっと話していたけど……どうして?」
「いや……ティアの雰囲気が変わったと思ってな。何と言うか張り詰めた空気が若干薄れたような?」
黒羽は離れたところで寝ていて話は聞こえていなかったはずだ。だというのに一目見ただけで察するのは流石だと感じる。
「紫陽のおかげかな。悩んでいたことが少しだけ晴れた気がするから」
改めて言葉にするのも難しいので曖昧に答える。
すると黒羽も「そうか。良かったな」と優しく微笑みを浮かべるのだった。
その後、携帯用食料で朝食を済ませた私たちは片づけをして洞穴を後にして探索を開始した。
この悪天候のなか未知の森を探索するのは危険が大きいが、物資に限りがある状態で何日も探索できないからだ。
この天候もスコールのように過ぎ去るのなら待てる。けれど、何日続くか分からないのに時間を無駄にすることはできない。
「おわっ!?」
黒羽を先頭に私、紫陽と続くように歩いていると後ろから悲鳴と鈍い音が聞こえてきた。
「紫陽様!?」
「大丈夫?」
慌てて振り返ると紫陽が岩場に尻餅をついている。
どうやら、盛大に滑ったようで涙目になって「いたた……」と呟いていた。
私が手を差し出すと申し訳なさそうに握り返してくる。
「すいません。足が滑りました」
「雨だし慣れてないだろうから仕方ないよ」
悪天候での行軍は訓練を積んでいない者には難しい。しかも、実戦を重ねた状態で数日もの間、夜営と行軍をしているのだから仕方のないことだろう。
そう考えながら紫陽を引き起こした瞬間。
背筋に悪寒が走った。
「っ!?」
咄嗟に紫陽を突き飛ばして片腕を嫌な気配がしたほうへ突き出す。
すると、ほぼ同時のタイミングで鋭い痛みと大きく揺るがすような衝撃が私を襲った。浮遊感に包まれて吹き飛ばされ背中を強く打ったことで漸く動きが止まる。
「「ティア!?」」
「ぐっ!?げほぅ……」
二人の驚いた声が重なるなか私は岩から滑るように落下した。あまりの衝撃に思わず咳き込むと口から血が溢れる。
慌てて先ほどまで私が居た場所に視線を移した。そこは爆発したかのように土煙が舞い踊っていて、煙の中からは小柄の人影が見え隠れしていた。
「何者だ!?答えろ!」
黒羽は距離を取って刀の柄に手を当てながら問いかける。
紫陽は立ち上がると様子を窺いつつ私の元にやってくる。
「ちっ……今ので一匹仕留めたつもりだったが存外やるらしい」
煙の中から聞こえてきたのは若めの男の人の声だった。徐々に土煙が晴れてくると、黒い装束を纏っていて小柄の容姿が見えてくる。
けれど、普通の人間とは違い頭からは鋭い耳があり尻尾が見えていた。
「その姿!狼人族ですか……」
「それはお前たち人間が勝手につけた纏めた名前だ。俺たちは銀狼種。狼人の中でも最上位の種族だ!」
よく観察していると腕や足の一部が鋭く硬そうな毛に覆われている。その色は黒銀を基調にした剛毛のようだった。
その様子を見た黒羽は抜刀の構えをして問いかける。
「なるほど……では、ここはアルスタリア。だが聞いて呆れる。誇り高いと言われる狼人が、このような不意打ちしかできないとはな」
「勘違いするなよ?誇りっていうのは対等な相手にしか見せないんだよ。お前たち人間だって虫や家畜相手に誇りなんて持ち出さないだろう!」
敵は一瞬で黒羽との距離を詰めた。そのまま鋭い爪で体を貫こうとするが間一髪のところで桜陽の鞘を間に滑り込ませる。
ガチガチと大きな音を響かせて鞘と爪が拮抗した。
「速いだけじゃない……力も強い!」
「魔術に頼るお前たちとは素が違うんだよ!」
黒羽も身体強化を使って耐えようとする。しかし、高速で振るわれる腕や足についていけなかった。何度目か打ち合った後に敵の足が黒羽の鳩尾に命中する。
「ぐぅ……」
黒羽はあまりの衝撃に耐えきれず、血を吐きながら吹き飛ばされる。地面を転がりながら勢いを殺すが視界が明暗してすぐに立ち上がることができない。
「黒羽っ!?……雷槍!」
紫陽は傷ついた黒羽を見て駆け寄るか逡巡する。
けれど、敵がどう動くかわからないこの状況で治療を行うことはできない。仕方がなく霊術による牽制を放つが敵は意に介した様子を見せないでいた。
「温い……自然界で強く生きる俺たちが、この程度の雷でやられるはずがないだろう!」
敵は腕を払うだけで雷の槍を霧散させた。そして紫陽に視線を向けると一瞬で距離を詰めてくる。そのまま爪を突き出すような形で襲いかかってきた。
その直前に紫陽と敵の間に割り込むように体を滑り込ませる。私の勢いと全体重を乗せた足蹴りが敵の爪と激突した。
「っぅ……紫陽!黒羽を連れて下がって!」
咄嗟に魔力を纏ったものの敵の爪が想像以上に鋭い。魔装の一部が貫かれて痛みが走るが私は気にせずに足を蹴り上げた。敵の腕ごと上へ逸らしてゼロ距離での魔力弾を放つ。
「さっきよりは強い。だが軽い」
ドカンと重い音が響くが敵は無傷のまま立っている。足元に轍ができていて、少しだけズレただけのようだった。
私は紫陽の隣で温もりを感じていた。
互いに無言でいたため、葉や石に水が落ちる音だけが聞こえてくる。徐々に強くなっていく雨音だけの聞こえてきて、まるで世界に二人しかいないようにさえ感じた。
「おはよう……何かあったのか?」
しばらくすると黒羽が起きてきた。黒羽は私と紫陽を交互に見ると不思議そうに首を傾げている。
「ちょっと話していたけど……どうして?」
「いや……ティアの雰囲気が変わったと思ってな。何と言うか張り詰めた空気が若干薄れたような?」
黒羽は離れたところで寝ていて話は聞こえていなかったはずだ。だというのに一目見ただけで察するのは流石だと感じる。
「紫陽のおかげかな。悩んでいたことが少しだけ晴れた気がするから」
改めて言葉にするのも難しいので曖昧に答える。
すると黒羽も「そうか。良かったな」と優しく微笑みを浮かべるのだった。
その後、携帯用食料で朝食を済ませた私たちは片づけをして洞穴を後にして探索を開始した。
この悪天候のなか未知の森を探索するのは危険が大きいが、物資に限りがある状態で何日も探索できないからだ。
この天候もスコールのように過ぎ去るのなら待てる。けれど、何日続くか分からないのに時間を無駄にすることはできない。
「おわっ!?」
黒羽を先頭に私、紫陽と続くように歩いていると後ろから悲鳴と鈍い音が聞こえてきた。
「紫陽様!?」
「大丈夫?」
慌てて振り返ると紫陽が岩場に尻餅をついている。
どうやら、盛大に滑ったようで涙目になって「いたた……」と呟いていた。
私が手を差し出すと申し訳なさそうに握り返してくる。
「すいません。足が滑りました」
「雨だし慣れてないだろうから仕方ないよ」
悪天候での行軍は訓練を積んでいない者には難しい。しかも、実戦を重ねた状態で数日もの間、夜営と行軍をしているのだから仕方のないことだろう。
そう考えながら紫陽を引き起こした瞬間。
背筋に悪寒が走った。
「っ!?」
咄嗟に紫陽を突き飛ばして片腕を嫌な気配がしたほうへ突き出す。
すると、ほぼ同時のタイミングで鋭い痛みと大きく揺るがすような衝撃が私を襲った。浮遊感に包まれて吹き飛ばされ背中を強く打ったことで漸く動きが止まる。
「「ティア!?」」
「ぐっ!?げほぅ……」
二人の驚いた声が重なるなか私は岩から滑るように落下した。あまりの衝撃に思わず咳き込むと口から血が溢れる。
慌てて先ほどまで私が居た場所に視線を移した。そこは爆発したかのように土煙が舞い踊っていて、煙の中からは小柄の人影が見え隠れしていた。
「何者だ!?答えろ!」
黒羽は距離を取って刀の柄に手を当てながら問いかける。
紫陽は立ち上がると様子を窺いつつ私の元にやってくる。
「ちっ……今ので一匹仕留めたつもりだったが存外やるらしい」
煙の中から聞こえてきたのは若めの男の人の声だった。徐々に土煙が晴れてくると、黒い装束を纏っていて小柄の容姿が見えてくる。
けれど、普通の人間とは違い頭からは鋭い耳があり尻尾が見えていた。
「その姿!狼人族ですか……」
「それはお前たち人間が勝手につけた纏めた名前だ。俺たちは銀狼種。狼人の中でも最上位の種族だ!」
よく観察していると腕や足の一部が鋭く硬そうな毛に覆われている。その色は黒銀を基調にした剛毛のようだった。
その様子を見た黒羽は抜刀の構えをして問いかける。
「なるほど……では、ここはアルスタリア。だが聞いて呆れる。誇り高いと言われる狼人が、このような不意打ちしかできないとはな」
「勘違いするなよ?誇りっていうのは対等な相手にしか見せないんだよ。お前たち人間だって虫や家畜相手に誇りなんて持ち出さないだろう!」
敵は一瞬で黒羽との距離を詰めた。そのまま鋭い爪で体を貫こうとするが間一髪のところで桜陽の鞘を間に滑り込ませる。
ガチガチと大きな音を響かせて鞘と爪が拮抗した。
「速いだけじゃない……力も強い!」
「魔術に頼るお前たちとは素が違うんだよ!」
黒羽も身体強化を使って耐えようとする。しかし、高速で振るわれる腕や足についていけなかった。何度目か打ち合った後に敵の足が黒羽の鳩尾に命中する。
「ぐぅ……」
黒羽はあまりの衝撃に耐えきれず、血を吐きながら吹き飛ばされる。地面を転がりながら勢いを殺すが視界が明暗してすぐに立ち上がることができない。
「黒羽っ!?……雷槍!」
紫陽は傷ついた黒羽を見て駆け寄るか逡巡する。
けれど、敵がどう動くかわからないこの状況で治療を行うことはできない。仕方がなく霊術による牽制を放つが敵は意に介した様子を見せないでいた。
「温い……自然界で強く生きる俺たちが、この程度の雷でやられるはずがないだろう!」
敵は腕を払うだけで雷の槍を霧散させた。そして紫陽に視線を向けると一瞬で距離を詰めてくる。そのまま爪を突き出すような形で襲いかかってきた。
その直前に紫陽と敵の間に割り込むように体を滑り込ませる。私の勢いと全体重を乗せた足蹴りが敵の爪と激突した。
「っぅ……紫陽!黒羽を連れて下がって!」
咄嗟に魔力を纏ったものの敵の爪が想像以上に鋭い。魔装の一部が貫かれて痛みが走るが私は気にせずに足を蹴り上げた。敵の腕ごと上へ逸らしてゼロ距離での魔力弾を放つ。
「さっきよりは強い。だが軽い」
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