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第12章 私を見つけるための旅
36 懐かしき王都
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「いつまでも、こうしてはいられないか……」
懐かしさで少しだけ瞳が潤んだ私だが、このまま呆然と眺めているわけには行かない、と街の中央へ向けて歩き出した。
目指す先は、この領都にある王立鉄道の駅だ。
南側の国境に面しているこの街から王都までは、乗り合い馬車を使っても早くて約10日ほど掛かる。前であれば馬車を使うか歩いて向かうかの二択しかなかったため、王都までは一際大変な旅だった。
しかし、今のエスペルト王国には王立鉄道があった。当初は王都を中心に東西南北の十字に広がる計画だった鉄道も、今では王都を中心に八方に広がっていて、王国の外周と中央辺りを一周するように円を描くようにして繋がっている。イメージとしては雪の結晶が近いだろう。
最初は貨物を運ぶだけだったが、今では1日に5本くらいの頻度で人を運ぶ列車が運行するようになっていた。
鉄道を使った場合、ここから東にある国境都市サウスガーデンで王都行きの列車に乗り換えることで、およそ半日程度で着くそうだ。
運賃は最低でも小金貨1枚とかなり高額となっているが、当日以内に移動できる時間短縮と魔物と遭遇することのない安全性は十分に価値があるだろう。
私は小金貨1枚を支払って専用の切符を受け取ると、そのまま列車に乗り込むことにした。
それから、王都に到着したのは列車に乗り込んでから半日くらい経った黄昏時だった。
列車を降りて階段を昇り駅の外に出ると、赤く染まった低い日差しが眩しく照らすが、目を細めて周りを見渡すと大きく変化はしていないように見えた。
「ここは……中央広場……」
王都の東側には、露店や商店などが立ち並ぶ広場や大通りがいくつかある。ここはその内の一つで商業区の中で一番大きい広場だった。
中央には季節の花が咲き誇る花壇と大きな噴水。周りには露店が並ぶ人が集まる区画の一つだ。
「ふふ。この辺りは良くリーナと買い物に行ったっけ」
ラティアーナだった頃は王女の時も、女王に即位した後もお忍びで出掛けることが多かった。この辺りは侍女だったリーナと二人でよく訪れた場所だ。
過去に思いを馳せていると不意にリーナを初めとする懐かしい人たちに会いたくなってきて瞳が滲んでくる。どうやら、前よりも涙腺が弱くなったようだが、表情を取り繕う必要もないかと考えて思わず笑みを浮かべた。
『なんだか楽しそうね』
『それはね……色々な国、色々な街を見て好きだと感じた場所は多いけど、やっぱりこの国が、この王都が一番私の故郷だと思えるから……家族も親友も仲間も、多くの人を残してきたと思うけど、やっぱり今でも大切なんだって思うの』
プレアデスに改めて言葉を返すと尚更確信を持てた。少なくとも、前世のことを伝えなくても少しくらいは関係を持とうかなと思うくらいには、内心の整理もできているらしい。
『そういえば表に出てきている状態でも安定しているけど、何かしてくれたの?』
ここ最近の連戦の影響もあって私の負担にならないようにプレアデスが私の中で力を抑えてくれていた。だが、今のプレアデスは実体化こそしていないものの精神体のまま近くにいる。
『特になにも。ただ、この場所というか、貴女の故郷に来てから魂が安定しているの。普通の生活をする分には、私の力で抑えてなくても大丈夫そうよ』
『それは良かった。プレアデスにも好きにして欲しかったから』
『本当に……そんなことを言うのはティアくらいよ』
『だって、その方が楽しいじゃない』
プレアデスと会話をしつつ街を眺めながら目的の場所に向かうことにした。目指すのは、王都の北側にある家が立ち並ぶ区画だ。
平民の住む区画は、主に王都の北側に多く存在し、基本的には中心から離れるほど安く住むことができる。街の景色も中心から離れるに連れて豪邸から普通の屋敷、大きめの集合住宅、一つ一つが狭い部屋の集合住宅と分かりやすく移り変わる。
記憶を頼りに半刻ほど歩いていると見覚えのある建物が見えてくる。少し風化していて塀の周りには苔が生えているが十分に綺麗な2階建ての屋敷だ。
門の前で足を止めるとプレアデスが『ここが目的地なの?』と問いかけてくる。私は無言で頷くと門の近くに鍵穴に魔術で造った氷の鍵を差し込んで回した。
『ここは私のお忍びように買っていた家の一つ。私だけが知っている個人的な非常用の拠点だね。色々な物を置いてる倉庫にもなってるの』
建物の中は10年前と変わっていない。建物を保護する結界や清潔さを保持する結界のおかげで室内は綺麗なままだ。
食糧などは買わなければならないが、生活するには困らないだけの家具が揃えてある。むしろ魔術具による水道やお風呂なども完備しており、そのあたりにある宿よりも生活レベルは高かった。
一通り家の中を見て回るが魔術や術式に問題はなさそうだ。収束用の術式を刻んでいたため大気中の魔力を集積する仕組みもあるが、流石に残りの魔力は少なくなったため結晶に手を当てて少しだけ魔力を補充する。
その後、隠し扉を開けて地下に降りた私は予備として置いといた魔法袋に魔力入りの宝石、各種薬品などを詰めていく。
ついでに刀や短剣といった武具も、合わせて整理して早めに休むことにした。
懐かしさで少しだけ瞳が潤んだ私だが、このまま呆然と眺めているわけには行かない、と街の中央へ向けて歩き出した。
目指す先は、この領都にある王立鉄道の駅だ。
南側の国境に面しているこの街から王都までは、乗り合い馬車を使っても早くて約10日ほど掛かる。前であれば馬車を使うか歩いて向かうかの二択しかなかったため、王都までは一際大変な旅だった。
しかし、今のエスペルト王国には王立鉄道があった。当初は王都を中心に東西南北の十字に広がる計画だった鉄道も、今では王都を中心に八方に広がっていて、王国の外周と中央辺りを一周するように円を描くようにして繋がっている。イメージとしては雪の結晶が近いだろう。
最初は貨物を運ぶだけだったが、今では1日に5本くらいの頻度で人を運ぶ列車が運行するようになっていた。
鉄道を使った場合、ここから東にある国境都市サウスガーデンで王都行きの列車に乗り換えることで、およそ半日程度で着くそうだ。
運賃は最低でも小金貨1枚とかなり高額となっているが、当日以内に移動できる時間短縮と魔物と遭遇することのない安全性は十分に価値があるだろう。
私は小金貨1枚を支払って専用の切符を受け取ると、そのまま列車に乗り込むことにした。
それから、王都に到着したのは列車に乗り込んでから半日くらい経った黄昏時だった。
列車を降りて階段を昇り駅の外に出ると、赤く染まった低い日差しが眩しく照らすが、目を細めて周りを見渡すと大きく変化はしていないように見えた。
「ここは……中央広場……」
王都の東側には、露店や商店などが立ち並ぶ広場や大通りがいくつかある。ここはその内の一つで商業区の中で一番大きい広場だった。
中央には季節の花が咲き誇る花壇と大きな噴水。周りには露店が並ぶ人が集まる区画の一つだ。
「ふふ。この辺りは良くリーナと買い物に行ったっけ」
ラティアーナだった頃は王女の時も、女王に即位した後もお忍びで出掛けることが多かった。この辺りは侍女だったリーナと二人でよく訪れた場所だ。
過去に思いを馳せていると不意にリーナを初めとする懐かしい人たちに会いたくなってきて瞳が滲んでくる。どうやら、前よりも涙腺が弱くなったようだが、表情を取り繕う必要もないかと考えて思わず笑みを浮かべた。
『なんだか楽しそうね』
『それはね……色々な国、色々な街を見て好きだと感じた場所は多いけど、やっぱりこの国が、この王都が一番私の故郷だと思えるから……家族も親友も仲間も、多くの人を残してきたと思うけど、やっぱり今でも大切なんだって思うの』
プレアデスに改めて言葉を返すと尚更確信を持てた。少なくとも、前世のことを伝えなくても少しくらいは関係を持とうかなと思うくらいには、内心の整理もできているらしい。
『そういえば表に出てきている状態でも安定しているけど、何かしてくれたの?』
ここ最近の連戦の影響もあって私の負担にならないようにプレアデスが私の中で力を抑えてくれていた。だが、今のプレアデスは実体化こそしていないものの精神体のまま近くにいる。
『特になにも。ただ、この場所というか、貴女の故郷に来てから魂が安定しているの。普通の生活をする分には、私の力で抑えてなくても大丈夫そうよ』
『それは良かった。プレアデスにも好きにして欲しかったから』
『本当に……そんなことを言うのはティアくらいよ』
『だって、その方が楽しいじゃない』
プレアデスと会話をしつつ街を眺めながら目的の場所に向かうことにした。目指すのは、王都の北側にある家が立ち並ぶ区画だ。
平民の住む区画は、主に王都の北側に多く存在し、基本的には中心から離れるほど安く住むことができる。街の景色も中心から離れるに連れて豪邸から普通の屋敷、大きめの集合住宅、一つ一つが狭い部屋の集合住宅と分かりやすく移り変わる。
記憶を頼りに半刻ほど歩いていると見覚えのある建物が見えてくる。少し風化していて塀の周りには苔が生えているが十分に綺麗な2階建ての屋敷だ。
門の前で足を止めるとプレアデスが『ここが目的地なの?』と問いかけてくる。私は無言で頷くと門の近くに鍵穴に魔術で造った氷の鍵を差し込んで回した。
『ここは私のお忍びように買っていた家の一つ。私だけが知っている個人的な非常用の拠点だね。色々な物を置いてる倉庫にもなってるの』
建物の中は10年前と変わっていない。建物を保護する結界や清潔さを保持する結界のおかげで室内は綺麗なままだ。
食糧などは買わなければならないが、生活するには困らないだけの家具が揃えてある。むしろ魔術具による水道やお風呂なども完備しており、そのあたりにある宿よりも生活レベルは高かった。
一通り家の中を見て回るが魔術や術式に問題はなさそうだ。収束用の術式を刻んでいたため大気中の魔力を集積する仕組みもあるが、流石に残りの魔力は少なくなったため結晶に手を当てて少しだけ魔力を補充する。
その後、隠し扉を開けて地下に降りた私は予備として置いといた魔法袋に魔力入りの宝石、各種薬品などを詰めていく。
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