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第13章 2度目の学園生活
10 マリアとの仲
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王立学園の入学式から数日が経った。
Aクラスとして正式に学園生活が始まり予想外にも平和な時間が流れていた。初日にマリアと揉めたデニードも鋭い視線を向けてくるだけで直接何かを言ってくることもない。
デニードは恐らく貴族などの爵位のような身分を重きを置いている人間だ。であれば少なくともコルネリアスやアスカルテに注意された手前、2人がいる場所では表だった行動はしてこないように思えた。
そして王立学園の授業も順調に進んでいた。今の内容は基礎的な座学が中心で、貴族であれば既に知っているような内容だが、平民にとっては学校で習う内容よりは高度なものとなる。特にAクラスの場合は他のクラスよりも授業の進みが早くなるが、それでも教会出身のロレアルやマリアも含めた全員が授業についていけるあたり流石と言ったところだろう。
武術や魔術についても座学の基礎がある程度終わったところで、今日からは実技の授業が始まることになる。
「マリア。準備ができた?」
「大丈夫です。今行きます!」
私はこの数日なかで特にマリアとの仲を深めていた。
Aクラスの中で唯一の同姓の平民同士ということで自然と話す機会が多かったことも仲を深めることになった理由の一つだろう。なによりマリアの素直で真っすぐな明るい性格に好感を持ったことも大きい。
「マリアが杖を持つのってなんだか珍しいね」
マリアの腰のベルトには見慣れない短めの杖が携えられている。白を基調とした白金で装飾していて教会でも使われている祭具を連想させるものだ。だが、精霊の力を感じることからもかなりの逸品だということが分かる。
「孤児院長にお願いしたら用意してくれたんです。この杖は退魔の力が込められているから攻撃魔術が使えない私にもぴったりだろうって」
マリアは王都の孤児院で育てられて教会で治癒の手伝いをしながら孤児院長に師事していたらしい。その孤児院長は冒険者として活動していたこともあるらしく、治癒や結界系の魔術の他に対魔物や対人戦における生存術も教わったそうだ。
「確かに退魔の力は魔物相手には便利だね。今度も演習にもぴったりじゃない」
「孤児院長と一緒になって魔術を教えてくれた人もこの学園に通っていたみたいで何があるか分からないから準備しなさいって言ってました」
「そうだね。今度の実践演習みたいに街の外に出ると何があるか分からないからね……私も準備しておかないと」
「準備?」
「この杖だけじゃ心許ないからね」
マリアと話しながら移動しているとAクラスが使う予定の修練場に着いた。Aクラスの全員が揃ってから少し経つとカトレアが杖を持ってやってくる。
「今日は最初の実技授業ということで代表2名に模擬戦をしてもらおうかと考えています。模擬戦を行いたい方はいますか?」
初回の実技授業が模擬戦から始まるのは今でも変わらないらしい。立候補がいなければ成績の上位二人の誰かが選ばれるのだろうと考えていると一人手を挙げる人がいた。
「私が行いましょう」
カトレアの問いかけに反応を示したのはデニードだった。デニードは「相手を指名してもいいですか?」と重ねて聞いていてクラスメイトの誰かと模擬戦を行いたいようだ。
「相手が了承すれば構いませんが……誰と模擬戦を行いたいのですか?」
「……ティアとの模擬戦を望みます」
意外なことにデニードは私と模擬戦をしたいようだ。デニードとは未だに会話をしたことすらないはずで目をぱちぱちとさせているとカトレアが心配そうな表情で問いかけてくる。
「ティアさんはどうしますか?この模擬戦に関しては受ける受けないを含めて成績にも影響しないので好きなほうを選んでいいと思いますが……」
「受けます」
デニードが何を考えて私を指名したのかは分からない。けれど、私の実力を早いうちに示しておいた方が後々面倒なことにはならなそうだった。今は距離を置いているコルネリアスやアスカルテのためにもこの機会は利用させてもらうつもりだ。
「わかりました。ではお二人とも修練場の上へ。試験と同様に一定以上の攻撃を防ぎますが絶対ではないので気をつけてください」
私とデニードは一段高くなっている場所へと登る。円形になっている修練場内の印がある場所へと歩こうとした時、デニードが耳打ちするような囁く声で話しかけてきた。
「試験でどんな手を使ったのか知らんが平民如きが貴族よりも……俺よりも上に立てないのだと教えてやろう。せいぜい無様に足掻くと良い」
「……試験結果が正しいことを証明します」
デニードは皆の前で私のことを見せしめにしたいわけだ。その短絡的な考えに思わず笑みを浮かべた私は杖を取り出してデニードの正面に立った。
「では始め!」
合図と同時に今の私が出せる全力で拳大の魔力弾を多数生成した。およそ50をも超えるくらいの魔力弾全てに軌道を設定して一斉に放つと、デニードを囲う檻のように四方八方から光芒が描かれる。
「優雅さも欠片もなっ……」
デニードの上擦った声は魔力弾が炸裂した衝撃と音で消え引き攣った表情が土煙の中へと隠れた。
Aクラスとして正式に学園生活が始まり予想外にも平和な時間が流れていた。初日にマリアと揉めたデニードも鋭い視線を向けてくるだけで直接何かを言ってくることもない。
デニードは恐らく貴族などの爵位のような身分を重きを置いている人間だ。であれば少なくともコルネリアスやアスカルテに注意された手前、2人がいる場所では表だった行動はしてこないように思えた。
そして王立学園の授業も順調に進んでいた。今の内容は基礎的な座学が中心で、貴族であれば既に知っているような内容だが、平民にとっては学校で習う内容よりは高度なものとなる。特にAクラスの場合は他のクラスよりも授業の進みが早くなるが、それでも教会出身のロレアルやマリアも含めた全員が授業についていけるあたり流石と言ったところだろう。
武術や魔術についても座学の基礎がある程度終わったところで、今日からは実技の授業が始まることになる。
「マリア。準備ができた?」
「大丈夫です。今行きます!」
私はこの数日なかで特にマリアとの仲を深めていた。
Aクラスの中で唯一の同姓の平民同士ということで自然と話す機会が多かったことも仲を深めることになった理由の一つだろう。なによりマリアの素直で真っすぐな明るい性格に好感を持ったことも大きい。
「マリアが杖を持つのってなんだか珍しいね」
マリアの腰のベルトには見慣れない短めの杖が携えられている。白を基調とした白金で装飾していて教会でも使われている祭具を連想させるものだ。だが、精霊の力を感じることからもかなりの逸品だということが分かる。
「孤児院長にお願いしたら用意してくれたんです。この杖は退魔の力が込められているから攻撃魔術が使えない私にもぴったりだろうって」
マリアは王都の孤児院で育てられて教会で治癒の手伝いをしながら孤児院長に師事していたらしい。その孤児院長は冒険者として活動していたこともあるらしく、治癒や結界系の魔術の他に対魔物や対人戦における生存術も教わったそうだ。
「確かに退魔の力は魔物相手には便利だね。今度も演習にもぴったりじゃない」
「孤児院長と一緒になって魔術を教えてくれた人もこの学園に通っていたみたいで何があるか分からないから準備しなさいって言ってました」
「そうだね。今度の実践演習みたいに街の外に出ると何があるか分からないからね……私も準備しておかないと」
「準備?」
「この杖だけじゃ心許ないからね」
マリアと話しながら移動しているとAクラスが使う予定の修練場に着いた。Aクラスの全員が揃ってから少し経つとカトレアが杖を持ってやってくる。
「今日は最初の実技授業ということで代表2名に模擬戦をしてもらおうかと考えています。模擬戦を行いたい方はいますか?」
初回の実技授業が模擬戦から始まるのは今でも変わらないらしい。立候補がいなければ成績の上位二人の誰かが選ばれるのだろうと考えていると一人手を挙げる人がいた。
「私が行いましょう」
カトレアの問いかけに反応を示したのはデニードだった。デニードは「相手を指名してもいいですか?」と重ねて聞いていてクラスメイトの誰かと模擬戦を行いたいようだ。
「相手が了承すれば構いませんが……誰と模擬戦を行いたいのですか?」
「……ティアとの模擬戦を望みます」
意外なことにデニードは私と模擬戦をしたいようだ。デニードとは未だに会話をしたことすらないはずで目をぱちぱちとさせているとカトレアが心配そうな表情で問いかけてくる。
「ティアさんはどうしますか?この模擬戦に関しては受ける受けないを含めて成績にも影響しないので好きなほうを選んでいいと思いますが……」
「受けます」
デニードが何を考えて私を指名したのかは分からない。けれど、私の実力を早いうちに示しておいた方が後々面倒なことにはならなそうだった。今は距離を置いているコルネリアスやアスカルテのためにもこの機会は利用させてもらうつもりだ。
「わかりました。ではお二人とも修練場の上へ。試験と同様に一定以上の攻撃を防ぎますが絶対ではないので気をつけてください」
私とデニードは一段高くなっている場所へと登る。円形になっている修練場内の印がある場所へと歩こうとした時、デニードが耳打ちするような囁く声で話しかけてきた。
「試験でどんな手を使ったのか知らんが平民如きが貴族よりも……俺よりも上に立てないのだと教えてやろう。せいぜい無様に足掻くと良い」
「……試験結果が正しいことを証明します」
デニードは皆の前で私のことを見せしめにしたいわけだ。その短絡的な考えに思わず笑みを浮かべた私は杖を取り出してデニードの正面に立った。
「では始め!」
合図と同時に今の私が出せる全力で拳大の魔力弾を多数生成した。およそ50をも超えるくらいの魔力弾全てに軌道を設定して一斉に放つと、デニードを囲う檻のように四方八方から光芒が描かれる。
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