王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

12 学園生活の変化

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「そこまで」

 修練場に仕掛けられている保護用の結界の発動と同時にカトレアからの合図によって模擬戦の終了が言い渡された。

「私の負けか……」

 デニードは地面に倒れこんだまま小さな声で呟く。唇を噛みしめ表情を歪ませていて、とても悔しそうに見えた。

「何か言いたげだな?負けた身だ……言いたいことがあれば言えばいい」

 貴族としてのプライドだけかと思っていたが負けたことをきちんと認められるようだ。そのことを少しだけ意外に思いつつも私は普段言えないようなことを口にする。

「ではお言葉に甘えて……爵位に拘ることが悪いこととは思わないですけど、下にいる者たちのこともきちんと見ていたほうが良いと思いますよ」

「ふん……下級貴族や平民たちが私たちと対等になれると?……生まれた時から上に立つ人間として育てられてきた私たちとお前たちが一緒の立場になるなどありえないな」

「確かに幼い頃から努力を重ねてきた貴方たちと簡単に並べるとは思いません。ですが生まれた立場が弱かったとしても力を身につける者もいます。いつの間にか、すぐ近くにいるかもしれませんよ」

「……それでも私は認めるわけにはいかない」

 私はポテンシャルや努力といった様々な物を含めた結果が才能だと思っている。時には貴族が培ってきたものを少しの時間で会得する平民だっているだろう。始めは力を発揮できなかった者でも長い年月を掛けて極地へと辿り着く者だっているだろう。
 並び立つ者や上にいる者だけを見ていたら、いつの間にか足元まで辿り着いている人や一瞬で抜き去っていく人に気付くことすらできない。

「二人ともありがとうございました。どちらも高度な駆け引きと技術でしたね」

 そう言って近づいてきたのはカトレアだった。後ろからは他のAクラスの皆もいて並ぶような形で一緒に近付いてきて、カトレアのすぐ傍にいたコルネリアスとアスカルテは視線があうと笑みを向けてきた。

「皆さんも今の模擬戦を見て分かったと思いますが実戦では武術や魔術だけでなく戦術などの立ち回りも大事となります。これからの実技では、そのようなことも考えて学んで見てください」

 そして少しだけ休憩をして授業が始まった。魔術の最初の授業ということで、入学試験で使用した魔術を一人ずつ順番に見せていくことになった。
 コルネリアスやアスカルテは、術式を省略した聖属性の魔力槍を放ち、魔術が苦手だと言っていたイザークは術式による岩の弾丸を放っていた。
 意外だったのは戦いが得意そうではなかったレジーナだ。彼女は魔力糸を束ねて大きな槍のように作り変えた物を放っていた。魔術の発動速度は、高位の魔術士が同規模の魔術を放つより劣っていたが形状を自在に変えることができるのはメリットだ。実戦でも相当役に立つだろう。
 また体術が得意と言っていたカイラスは身体強化と風属性魔術を主とした衝撃波を使って的を破壊していた。元々スエンティア公爵家は、4大公爵家の中でも戦い向きではないが唯一固有魔術を継承している家でもある。流石と言ったところだった。

「次はティアさん」

「はい」

 カイラスの次は私の番がやってくる。試験の時の魔術となると聖属性による範囲攻撃だ。前と同じように術式を展開してほんの数秒経過した瞬間、的を光が包み込み焼き尽くした。

「次はロレアルさん」

 私の番が終わり皆の元へ下がるために後ろへ振り返る。そこには次に魔術を披露するロレアルが待っていたわけだが、どういう理由か恍惚な表情を浮かべて私を見つめていて口元が僅かに動いていた。

「彼女のまた聖女としての素質が……」

 ロレアルの声は小さく私のところまでは届かない。けれど彼の唇の動きを見ると、そのような言葉を呟いていた。

 その後、ロレアルは魔力がこもった言葉を使った霊術を使い、デニードは魔力を纏った剣を振り下ろし炎の斬撃を放った。
 最後にアイリーンは杖に付与されていた術式を使い魔力砲を放ち、マリアが防御結界を的にぶつけて壊した。

「これで今日の実技は終了ですね。模擬戦も魔術の披露もそうですが相手を知るということはとても重要になります。味方としてなら連携する上で必要ですし、敵として戦うなら分析して戦術を考えるために必要ですからね。今日のことは皆さんの頭の中に入れておいてください。明日は武術の実技となりますが、今日と同様に各々に試験官との模擬戦を披露してもらうことになります。本格的な授業は来週からです」

 こうして最初の実技授業が終わったわけだが、私たちを取り巻く環境に変化が起きることとなる。

 まず私とデニードの模擬戦の結果をどこからか知ったのかデニードと同じ考えを持つ貴族主義派の貴族たちからのあたりが強くなった。
 もっとも直接何かをされるわけではなく、せいぜい陰口や見下すような視線を向けてくるだけだが一人で歩いている時やマリアと一緒にいる時はあからさまな態度を向けられている。

 反対に嬉しいこともあった。
 Aクラスの中でマリアと共に孤立気味だったがコルネリアスやアスカルテたちと話せるようになり、その影響もあってかイザークやレジーナ、カイラスといった公爵家の子息令嬢からも話しかけられるようになった。
 他にもマリアだけでなくアイリーンとも一緒の時間を過ごすようになり3人で食事を共にする機会が増えたことも大きいだろう。
 デニードもあれからは何かしてくることもなく話す機会がことないもののAクラスの中だけは平和な空間となっていた。
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