ムーンフェイズ・ウィルド・アルファ

熊野八太

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24.孤独という視点は

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 風紀委員会の部屋に集まった面々を見渡しながら、委員長のカールが口を開いた。

「さて、それで今回はもともとウィン君をリー先生が風紀委員会に誘ったことがきっかけと聞いている。予備風紀委員の活動を知っておきたいのだということだったね」

「そうです。突然リー先生から話を持ってこられたので、判断するにもイメージができなくて」

 そうだな、とカールは呟いてから口を開く。

「まず前提として、風紀委員会は学生自治を意図して設置された委員会だ。その活動目的は硬い言葉でいえば『生徒の風紀の監視と改善とトラブルの解消』だ。でもこれは言葉が硬すぎるな」

 そう言ってカールはエルヴィスの方を見る。

「そうだね。せっかく学生生活をしているんだから、みんなで楽しく過ごしたいよね。そのための仕事をしているってことなんだ。楽しくっていうのは、どんなことでも大切だと思わないかい?」

 席に座ったままいちいち身振り手振りを交えつつ、エルヴィスがあたしに告げた。

「ここが学校である以上、際限なく面白おかしく過ごすわけにはいかないってことよ。王立ルークスケイル記念学院は規律を重んじる伝統があるわ。でもここは騎士団でも軍隊でも無いから、規律といっても生徒が忘れなければ済む話よ」

「それを忘れて迷走する人たちに手を添えるのが、ぼくたちの基本的スタンスかな」

 エルヴィスの言葉にニッキーとジェイクが補足した。

「風紀委員の基本的スタンスは理解できたと思いますの」

 キャリルがそう言ってあたしに視線をよこすので、うなずいて肯定する。

「具体的な活動をうかがってもよろしいですこと?」

「ああ。主な活動は三つある。一つ目は学院内をパトロールなどして警戒すること。二つ目は先生方が来るまで時間稼ぎをしたり、僕たちだけで解決できそうなことに対処すること。三つ目は、それらの出来事を生徒会や先生たちと情報共有することだ」

 カールがよどみなく落ち着いた表情で応える。

 ここに来るまでに個人的に抱いていた内容に、大きく外れるようなものではなさそうだとあたしは判断する。

「パトロールですか。それは当番とかノルマがあるような活動なんですか?」

 これはリー先生に聞いた気がするが、再度ここでも訊いてみる。

「当番やノルマは風紀委員会としては決めていない。ただこの辺りの学院内を警戒する話は、問題の発生頻度などにも関わる話なんだ」

「発生頻度ですか?」

「ああ」

 あたしに応えてから、カールは視線をジェイクに向けた。

 それにうなずいてジェイクが口を開く。

「いままでの過去の風紀委員の活動で、学生同士のトラブルが発生しやすい時期は傾向があると分かっているよ。おおよそ、学期や年度が切り替わるタイミングの前後で、揉め事が起きやすいんだ」

「年度は分かりやすいにゃ。クラスが変わったりするから、友だちが別のクラスに行ったりして孤独感を感じてトラブルになったりするにゃ」

「そうだね。あとは学期の切り替わりの時期は、本質的には学校の成績不振に由来して、その不満を周囲にぶつけるケースが考えられると思う」

 エリーの補足にジェイクが頷く。

「新入生については、今は入ったばかりでまだ浮足立っていると思うわ。でも、クラスに馴染めなかったり、地元で才能があると褒められて来たものの授業について行けなくなり始める子が出ると、色々起こるのよ」

 そう告げてニッキーが腕組みする。



「安易な決めつけは危険ではあるけれど、ボクとしては結局生徒の孤独が問題かなって思っているんだ。だから孤立しがちな子には積極的に声を掛けたり、クラス委員から悩んでそうな子の情報を集めたりして、委員会や先生と相談したりするけどね」

「まあ、エルヴィスの場合、女子生徒に話しかける口実にしてる気がするけどね」

 自論を告げたエルヴィスに、ニッキーがじとっとした視線を送った。

「ところでエルヴィス先輩」

「なんだいコウ君?」

「風紀委員をして生徒の問題解決をすると、女の子にモテますか?」

 思わずそれを聞いたあたしとカリオは脱力し、風紀委員の面々も何人か脱力していた。

「それは重要な視点だよコウ! やっぱり困っている子を助けることは好意をもってもらうきっかけになる!」

 人差し指を立てながらエルヴィスはコウに力説する。

 それを見てニッキーが額に手を当てているな。

「それは素晴らしい情報です!」

「そうとも! それにね、一人で悩んでいる子の心に方向付けをしてあげるのは、いいことだと思うんだ。……相手が防御を固めているところに相手からの動きを作るのは、武術などでも言える話だと思わないかい」

 そう告げてエルヴィスは一瞬、笑わない目で微笑んで見せた。

「非常に共感できる見識です」

 コウはエルヴィスの言葉に薄く笑って見せた。

 もうお前ら付き合っちゃえよ。

「言い方はともかく、問題意識についてはエルヴィス先輩の孤独という視点はぼくもカギだと思っているよ。学び続けることって、目隠しをしながら階段を上り続けるような面があると思わないかい。それはやっぱり心に迫るものがあるよ」

 そう言ってジェイクはあたしに視線を向ける。

 問題の全てでは無いだろうけど、生徒の孤独に手を打つという方針は説得力があると感じる。

「視界を閉じられた状態で、足先に伝わる感触だけを頼りに進まなければならない。……ああ、何というプレイだろうか。想像するだけでゾクゾクしてくるよ。ぼくはその先に、新しい門が開ける気がするんだ」

 ジェイクはそう告げて虚空を見上げ、うっとりした表情を浮かべた。

 それを見たあたしの変態センサーが反応したけど、彼がその門を開いて大丈夫なのかは判断がつかなかった。

 ニッキーがじとっとした目をジェイクに送りつつ、彼の頭を軽くチョップしたら元に戻ったけど。



「話が脱線したにゃ。パトロールでは昼休みや放課後に、各クラス委員に話を聞きに行ったりするにゃ。その時に自分の目でもクラスの雰囲気を観察するにゃ」

「そうだな、その時に生徒に声を掛けたり、あるいは担任や風紀委員会で相談したりする。暴力沙汰になりそうなら現場の他の生徒を職員室に走らせて、警告をしたり意識を刈り取ったりもする」

 エリーの説明にカールが補足する。

「こちらの実力行使は許されているんですの?」

「許されている。もちろん後で報告してもらうし、生徒会がクラスの委員長に聞き込みをして情報を突き合わせるから、不当なものだったら我々にペナルティが来るが、そこまでの事態はほぼ無い」

「ぼく個人の意見としては、早めに【睡眠スリープ】の魔法を覚えてしまうのを勧めるよ。暴力沙汰を鎮めるのに一番無難だと思うよ。怒りなどに我を忘れてるような生徒には効きやすいんだ。回復魔法研究会に来たらいつでも教えるよ」

「キャリルちゃんとウィンちゃんの腕前なら、当身でも十分だと思うにゃ」

 カールの話にジェイクとエリーが補足した。

 当身を入れてもいいなら話は早いか。

 打撲は学院内で治せるだろうし、そこまで激しい一撃を入れることも無いだろう。

「当事者から恨まれることはありませんか?」

「否定はしないよ。でもボクは、そのとき仲裁したことを後悔するようなことは無いかな。ほら、始めに言ったじゃないか。ボクはみんなで楽しく過ごしたいんだ。それは相手に伝わると思っているよ」

 穏やかに微笑んでエルヴィスが告げるが、やっぱりコウに似たタイプかなとふと思う。



 いま聞いておくべきことは大体聞いてしまっただろう。

 そう思っていたらカリオが口を開いた。

「先輩方、参考までに教えて欲しい。どうして風紀委員会に入ったんだ? あと、どうして風紀委員会を続けているんだ?」

 確かにそれはいい質問だ。

「そうだな。入ったのはリー先生に誘われたからだ。続けてきたのは……、やりがいというか、学院の仲間と接する機会が多くて、それが楽しいからだろうな」

「私は誘われたのはもう卒業した先輩からだけど、続けてるのはやりがいを感じるからね。人が集まるだけでトラブルは起きるのよ。でもそれには理由があって、それを何とかするのが面白いのよね」

「ボクはリー先生に誘われてここにいるけど、女子生徒の感謝の笑顔のために続けてる感じかな!」

「きっかけか。確か部活が忙しくなって抜けるクラスメイトに頼まれたのが最初だよ。ぼくは色んな人が悩むということを観察するのが好きなのかも知れない。もちろん、その悩みに答えを見つけて克服するところも含めてね」

「アタシ? 先輩から頼まれたにゃ。みんな仲良くした方がいいと思って続けてるにゃ」

 基本的に風紀委員会は、自推とか立候補で入る組織では無いのかも知れない。

 エルヴィスとジェイクの回答は、多少突っ込むところがありそうな気もした。

 でも、先輩方はやりがいを感じて続けているということは理解できた。

 大体の雰囲気は把握できたので、また別の日に返事をすることにしてあたしとキャリルは風紀委員会の部屋を離れた。

 コウはエルヴィスに、カリオはエリーにそれぞれ話があったようで部屋に残った。

 後日、コウはゴールボール部に入部し、カリオは料理研究会に顔を出すようになったそうだ。



「それでキャリルは風紀委員に参加することにしたのか」

「そうですわ。どこまでできるか分かりませんが、せっかく誘われましたので挑んでみたいのですわ。それに、揉め事の仲裁を経験しておくことはわたくしの力になると思ったんですの」

 あたしたちは寮に戻るには時間があったので、歴史研究会に顔を出した。

 今日はアルラ姉さんとロレッタは居なかったけれど、レノックス様が来ていた。

「ウィンはどうするんだ?」

 王国の文化史の入門書を読む手を止めて、レノックス様はあたしたちと話し込んでいる。

「今のところ、やってみるつもり。来週にでも返事をしに行くわ」

「そうか。お前は面倒がる気もしたんだがな」

「仕事としては面倒だとは今でも思うわ。でも事前にパトロールして同じ学年で昼休みにポツンと何をするでもなく過ごしてる子を何人か見ちゃったの」

「ふむ?」

「お節介と言われるのは分かってるけど、心情的に見過ごせないのよ。あたしの美意識と言ってもいいかも知れないわ」

「コウの『美学』とやらみたいなものか」

「それは流石に分からないしノーコメントで」

「あとはコウとカリオですが、彼らがどうするかは不明ですわ」

「あいつらは付き添いというか、コウはエルヴィス先輩に興味があって、カリオはエリー先輩に興味があるみたいよね」

「そうか。――何にせよ二人とも、オレの助けが要るときは声を掛けろ」

「その時はお願いいたしますわ」

「よっぽどのことが無ければ大丈夫と思うけど、ありがとうね」

「うむ」

 そのあとあたしたちは、他の部員の邪魔にならないように話しながら、レノックス様が読んでいた図解入りの文化史の本を三人で読んで過ごした。
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