ムーンフェイズ・ウィルド・アルファ

熊野八太

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63.人間の醜さに触れている子なら

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 あたしとコウのやり取りを横目に、マルゴーは教皇様に挨拶をした。

「ごきげんようデリック様」

「マルゴーか。変わりはないかね?」

「お陰さまでワタシの目の届くところでは、無作法者に女の子たちが不当に傷つけられることはありません」

「そうかね。いつでも気軽に教会に相談しておくれ。民を救ってこその教会なのじゃから」

「ありがとうございます」

 どうやらマルゴーは教皇様と知り合いだったようだ。

 教皇様が娼館通いということも流石に無いだろうから、会話の内容からして何らかの生活支援の類いを教会が花街に対して行っているのかも知れない。

 そんなことを考えているとマルゴーはあたしに視線を向けた。

「それでお嬢ちゃん、ウィンと呼ばれてたか。あんたがデイブのとこの『八重睡蓮やえすいれん』だね。ワタシはマルゴー・メイという。エルヴィスの父親の妹だ」

「こんにちはマルゴーさん」

「こないだの賊への対処も含めて礼を言っとくよ。ありがとう」

「え、マルゴーさんがそう言って下さるんですか?」

「ふふ、そうさ。路地裏の風蝶草ふうちょうそうはうちの系列で、ブルーノは部下なんだ」

「そうだったんですね」

 偶然とはいえ、世の中は狭いものだとおもう。

「ところでお嬢ちゃん、そちらの御仁は? 只者じゃないのはワタシでも分かるんだが」

「こちらは母方の祖父のゴッドフリー・コナーです」

「初めましてゴッドフリーじゃ。宜しくの」

 そう言ってお爺ちゃんはマルゴーに微笑んだ。

 そしてその名前に反応したのか、マルゴーは何やら当惑している。

「そ? ……え……あ……、はい……。ワタシはマルゴー・メイです。高名な灰廻風アッシュワールウインド殿にお会いできて光栄です」

 そう告げてマルゴーはお爺ちゃんにカーテシーをした。

「そこまで畏まらんでくれんかの。今では孫に説教されるようなジジイなんじゃ。仲間内ではゴードで通っておるから、そう呼んでおくれ」

「は……はい」

 お爺ちゃんはマルゴーの反応に苦笑を浮かべた。

 マルゴーはお爺ちゃんとあたしを交互に見ながら、何やら一瞬考えこんだ後に口を開く。

「ほらエルヴィス、あとコウも、ゴード様に挨拶しておきな。冒険者にとって生ける伝説だよこの方は」

「うん……。初めまして、マルゴーの甥のエルヴィス・メイと申します。ウィンさんとは風紀委員会でご一緒させて頂いています」

「こんにちはゴード様。ボクはコウ・クズリュウと申します。ウィンさんのクラスメイトです」

「そうじゃったか。二人ともウィンを宜しくの」

「「はい」」

 お爺ちゃんはコウとエルヴィスの挨拶に頷いていた。

「ところでデリック様とゴード様とお嬢ちゃん、この後もし良かったらお昼を一緒にしませんか? すぐ近くにワタシが経営する酒場があるんですが、昼間は食事を出しているんです――」

 その後あたしたちは半ば引きずられるようにして、花街の『路地裏の風蝶草ふうちょうそう』本店に移動した。

 マルゴーの経営する店ということで顔パスで案内され、品のいい内装の店内を移動して個室に入った。

 席に着き、マルゴーが音頭を取って乾杯をした。

 あたしとコウとエルヴィスは果実水だったけれど。

「強引にお誘いして申し訳ありませんゴード様。実はワタシは人を探しているんです。ちょっと失礼します」

 そう言ってマルゴーは【収納ストレージ】で数枚の紙を取り出した。

「これが探し人の似顔絵です」

「見せてくれるかの?」

「はい」

 マルゴーはお爺ちゃんに似顔絵を渡した後、あたしたちにも配って回った。

「マルゴーさん、探し人のことはデイブには相談したのかの?」

 似顔絵から視線を離してお爺ちゃんはマルゴーに訊いた。

「はい。……月転流ムーンフェイズの情報網で探してもらいました」

「それでも見つからぬか、ふむ……」

「この似顔絵は六年……七年前の姿のもので、エルヴィスの妹になります」

 年齢的には四歳か五歳くらいだろうか、可憐な少女の似顔絵が描かれている。

「ワタシの不手際で人攫いに遭いました。名前をディアーナ・メイと言います。生きていれば今年の誕生日で十一歳になります」

 マルゴーは淡々と告げる。

 ずっと、探し続けているのだろう。

 彼女が同じ言葉で七年前からずっと誰かに問い続けていることを思うと、あたしは同情を覚えた。

「残念じゃが、儂もこの子に心当たりは無いのう。月転流の者には儂からも言っておこう。この似顔絵は貰っても良いかの?」

「どうぞお持ちください」

 お爺ちゃんとマルゴーが話すのを聞きながら、あたしは似顔絵に意識を集中していた。

 この絵の子に会ったことがあるかと言えば、心当たりは無い。

 だが、それを完全に否定することを、あたしの中の何かが必死で止めている気がする。

「あの……マルゴーさん。この似顔絵ですが、どなたが描いたものですか?」

 だからあたしは喋りながら考える。

「ん? この絵かい? ワタシが【素描ドロウイング】の魔法で描いたものだよ。ワタシは賞金首狙いの冒険者として活動していたことがあってね、魔法で描くことができるんだよ」

「そうですか……。無茶なお願いかも知れないんですが、この子――ディアーナさんの成長した姿の絵を描くことはできますか?」

「できるかできないかでいえば、イメージすればその絵を描くことはできる。けれどワタシの妄想が混ざってしまうことが怖くてね。そうするくらいなら、攫われたころの絵を渡しているんだ」

 それは確かにそうかも知れない。

 人間の顔は年と共に変わるから、誤った情報を流すくらいなら確度の高い情報を使うべきだろう。

 だが、あたしは何かに引っ掛かった。

「主義を曲げてもらうことになるかも知れないですけど、想像で構わないので今の姿の似顔絵を描いてもらえませんか? エルヴィス先輩に似ていたなら、小さいころの姿が参考になるかも知れませんし、肉親の方の顔つきを参考にしてお願いしたいです」

「なにか、気になることがあるのかい?」

「いまは上手く言えないんですが、十歳前後の女の子の似顔絵でお願いできますか?」

「お願いしているのはワタシなんだ。お安い御用だよ」

 そう言ってマルゴーは【収納ストレージ】で画材を取り出した。

 そして直ぐに素描の魔法を使い、一枚の似顔絵を作り上げた。

「エルヴィスもディアーナも母親に似ていたし、背が伸びる前はエルヴィスも女の子みたいな姿だったんだ。それを参考にしてみた」

「ありがとうございます」

 その絵を見たとき、どこかで見たことがあるような気がした。

 だが、気がするだけだ。

 既視感と、記憶と、脳内の計算とであたしは思いを巡らせる。

 先ほどよりは確かに近づいてる。

 けれど何かが違う。

「マルゴーさん、この絵は基準として、もう一枚おねがいします」

「どうすればいい?」

「目つきをもう少し鋭くしてください。あと、髪をこの絵だとロングヘア―ですけど、短めにしてください」

「短めってどのくらいだい?」

「ショートボブ……か、アゴくらいまでは、あったか?……髪色……雰囲気……意志? 笑っているか怒っているか冷めているか呆れているか……」

「八重睡蓮?」

「諦観……達観か?」

 何かが思い出せそうな気がする。

 あたしは何かを見ている。

「要望通り、もう少しキツい目つきにしてみたよ。あと、髪型も短いものにしてみた」

「……ありがとうございます」

 さっきより、近づいた気がする。

 何に近づいたのかを考える。

 多分、似た人物をあたしはどこかで見ている。

「二枚目のものを基準にして、今度は髪色を濃い藍色にしてください。黒まで行かないで。あと、表情をもう少し、達観しているというか……」

「心情面での話だね。なるほど、人間の醜さに触れている子なら、そういう変化はあるかも知れない。髪色も分かった。ちょっと待ちな」

 あたしはマルゴーが似顔絵を作る間、手元にある絵に集中する。

 あの時はどの時だったか。

「服装はローブだったかマントだったか……。隣に誰か居た? ……街中ね。周囲に人が居たか……収穫祭の期間内か……えーっと、んー」

「今度はどうだい? 花街で見かける子を参考にしてみた」

 その似顔絵に描かれた子に、あたしは見覚えがあった。

 スキルに『瞬間記憶』がある関係か、人の顔を覚えるのには自信があるのだ。

「この子、あたし見たことがあると思います……」

「なんだって?!」

「本当かいウィン?!」

 マルゴーとエルヴィスが叫ぶ。

「たぶん、ですけど。――でももう少し思い出したいので、この絵と同じものをみんなにも配ってください。その間にちょっと集中してみます」

「分かったよ!!」

 そもそもどこで見たんだろう。

 王都の通行人を何でワザワザ覚えてるんだ――そうか、違和感があったからだ。

 二人組のデカい方に違和感があって、家族連れかと思ったけど気配が違ったのだったか何だったのか。

 もっと動けよ、あたしの脳細胞。

 うん、でも、場所は思い出したぞ。

 王都の商業ギルドに向かう道すがらすれ違ったはずだ。
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