ムーンフェイズ・ウィルド・アルファ

熊野八太

文字の大きさ
64 / 65

64.手掛かりのひとつかも

しおりを挟む

 マルゴーがあたしの情報を元に描いた似顔絵をみんなに配った。

 最初にエルヴィスが口を開く。

「なんでこの絵だとディアーナは髪を染めているんだろう。目つきだとかは小さなケンカしたときにこんな目をしたかも知れない。表情は……上手く言葉にならないよ」

 そう言って彼は苦笑いした。

「そのことなんですけど、あたしこの子と昨日王都ですれ違っています。王都の北東部から商業ギルドに向かって歩いてる時だったと思います」

「王都内に居たのかい?!」

 マルゴーがあたしに問う。

「そうです。――それで、そもそも何ですれ違っただけの、この子を覚えてたのかを考えてたんです。違和感があったんですよ」

「違和感? 具体的には?」

「すれ違ったときは違和感の正体は分かりませんでした。その時この子、かなり背の高い男性と手を繋いで歩いてたんです。その男性に違和感を覚えたんですね」

「何か妙な気配でも感じたのかい?」

 お爺ちゃんがあたしに訊いた。

「ううん。気配じゃないのよ。あたし、ここだけの秘密にして欲しいけど、瞬間記憶がスキルにあるの。だから気になった人の顔は覚えてるし、この子の顔だって思いだせた。――でもさっきからどう頭を捻っても、手を引いていた男性の顔が思い出せないのよ」

「ということは視覚情報の段階で騙されている可能性があるのう。手を繋いだ親子に偽装した二人組がいて、片方だけ変装をする魔法を使っていた。『二人で並んで歩いていた』ことは記憶しておったから、頭への記憶を阻害するというよりはその前の認識の段階じゃな」

 教皇様が似顔絵を見ながらそう告げる。

 そのあと教皇様は『瞬間記憶と認識の齟齬の問題はなかなか興味深いのう』とか呟いていた

「デリック様、ゴード様、女の子の方も変装でこの姿になった可能性はありませんか?」

 エルヴィスは真剣な表情で口を開く。

「髪色に関しては染めた方が安上がりじゃろう。お主の妹に化けたかどうかじゃが、露見したときのリスクを考えるなら、行方不明者ではなく確実に居場所が分かっている者の姿に化ける筈じゃな」

 お爺ちゃんがエルヴィスに応えた。

 お爺ちゃんは言い方でぼかしたけど、本人の死体の在りかを知っている奴なら変装に使う可能性はあるわけだ。

 あたしは自分が見たのはディアーナ本人であることを祈った。

「つまり、ウィンが見た子はディアーナの可能性が高いと?」

「恐らくはの。――問題は髪を染めておることや、魔法か何かで顔を隠した謎の人物と行動をして居ることじゃの」

「洗脳や思考誘導、ある種の刷り込みか魔法による隷属でもさせられているか……。まぁ、その辺はもしこの子がディアーナちゃんなら、教会に連れてこれば良い。間違いなく本人なら、悪い魔法は王立国教会うちで外せるからの」

 エルヴィスとお爺ちゃんの会話に横から教皇様が告げた。

「ありがとうございますデリック様」

「気にするで無い」

 教皇様はエルヴィスに微笑んだ。

「マルゴーさん、この子の服装ですが、たしか艶消しの黒いマントを羽織って冒険者が着るようなシャツとズボンを着ていた気がします。靴はブーツでしたね。帽子などは被っていませんでした」

「そうかい。ちょっと待ってくれ」

 そうしてマルゴーは【素描ドロウイング】でさらに一枚の絵を描いた。

 それは王都の路上に立つ、十歳くらいの女の子を描いた絵だった。

「そうです。こんな印象だったと思います」

「ありがとうよウィン。これまで色んな情報があったが、ここまでディアーナについての具体的な情報が出たのは今回が初めてだ。感謝する」

「まだ、ディアーナさんを見つけ出せた訳ではありません。手掛かりのひとつかも知れないというだけです」

「ああ。でも情報を集める価値があるとワタシは思う。そのためには先ずは腹ごしらえと行こうか。皆さんも済まなかったね、お昼にしましょう」

 そう言ってマルゴーは机上の呼び鈴を鳴らした。

 どこかで室内の様子を確認していたのか、直ぐにドアが開いて給仕が始まりテーブルには白身魚のムニエルとスープとサラダ、あとは各種パンと甘味が並べられた。

 何となく地球のフレンチの感じをあたしは思い出していた。

「皆さん済まない、少しだけ席を外します。部下にこの似顔絵を持たせて情報集めするよう指示を出してくるので、先に召し上がっていてください」

 そう告げてマルゴーは個室を出て行った。

「お……マルゴー姉さんもああ言っているので、お昼を食べましょう」

 そう言ってエルヴィスはみんなに食事を促した。



 戻ってきたマルゴーも含めてみんなでお昼をよばれた後、あたしたちはすぐに解散した。

 あたしからの情報をもとに、マルゴーが各所に指示や依頼を出すのだという。

「ご飯を奢って貰ってありがとうございました」

 あたしがマルゴーに礼を言うと、彼女はご機嫌な様子で口を開いた。

「このくらいどうって事無いよ。ウィン、今回の礼もあるがエルヴィスが世話になってることもある。何かあったら力になるから言ってくれ」

「ありがとうございます」

 そうしてあたしは、【風のやまびこウィンドエコー】でマルゴーと通信できるようにした。

 コウとエルヴィスは少し収穫祭を見まわってから寮に戻るそうだ。

「べつにディアーナを直ぐ見つけられると思ってるわけじゃ無いけど、せっかくの収穫祭だし少しは楽しもうと思ってね」

「いいんじゃないですか?」

「ウィンちゃんは結構見て回っているのかい?」

「ちょっと色々と面倒ごとに巻き込まれたりしましたよ……。聞きます?」

「うーん……また今度教えてね」

 死んだ目であたしが問えば、エルヴィスはスルーすることにしたようだ。

「コウも、セクシーなお姉さんが出てくる店とかに引っ掛かっちゃだめだよ?」

「いや?! そういう予定は無いよっ?! ウィン、何か色々と誤解したままじゃないかい?」

「……そういう予定が無いならいいけど」

「大丈夫だよウィン」

 クラスメイトが十歳で花街通いとか微妙過ぎるし。

 まぁ、これだけクギを刺しておけばいいか。

 あたしはコウ達と別れて、お爺ちゃんと当初の予定通り教皇様を私邸まで送ることにした。



 花街を出て教皇様の案内で庶民が住む区画を目指すと、教皇様は大きな建物の前で足を止めた。

「ここじゃよ」

「ええと、この辺りって庶民が住む区画ですよね?」

「そうじゃよ。直ぐ市場がある区画じゃし、王立国教会本部がある中央広場にも遠くないしでラクなんじゃよここ。――ささ、ゴードもウィンちゃんもお茶を出すから上がっておくれ。ここは集合住宅なんじゃよ」

「集合住宅……ひとつの建物を多くの世帯でシェアする住宅ですか?」

「そうじゃよ。王都中心部は土地が限られるからの」

 そうか、日本の記憶でいえばマンションみたいなものかも知れない。

 集合住宅の一階部分は喫茶店になっていて、その入り口とは別に建物の奥に入って行く入り口がある。

 そこを抜けるとあたしたちは中庭に出た。

 中庭のさらに奥に集合住宅内部への玄関があるようだ。

 集合住宅の窓に囲まれた中庭には教会にあるような神々の石像が並び、周囲の植えられた植物と調和していた。

「神像を置いてあるんですね」

「そうじゃ。この集合住宅は教会に通う者がほとんどじゃ。日常生活でも神々への態度を忘れないように皆で決めて置いたんじゃよ」

 その中の一つに薬神――ソフィエンタの像があるのを見つけたあたしは、教皇様とお爺ちゃんに告げる。

「ちょっとだけ薬神様にお祈りして行っていいですか?」

「構わんよ」

 そう言って教皇様は微笑んだ。

 あたしはソフィエンタの像の前に立ち、胸の前で指を組んで目を瞑り祈った。

 とりあえずこっちは色々あるけど無事だぞと頭に思い浮かべたのだが、周囲の音が消えている気がする。

 目を開けるとそこは白い空間で、目の前にはソフィエンタ本体がいた。



「こんにちはウィン。元気そうで何よりよ」

「お陰さまでね。ときどき妙なことに巻き込まれているけど、おおむね平和に過ごせてると思う」

「なら良かったわ」

 そう告げてソフィエンタは優しく微笑む。

 今日のソフィエンタは女性用のビジネススーツで、ハイヒールを履いている。

「その恰好はどうしたの?」

「今回呼んだのは、ちょっと真面目な話があったからなの。その気分に合わせた感じかしら」

「真面目な話ねぇ……」

 ソフィエンタは視線を動かすと、白いだけの何もない空間にテーブルと椅子二脚が出現した。

 テーブルの上には淹れたてのホットのカフェラテが用意されている。

「とにかく、座って」

「分かったわ」



 あたしは椅子に座ってカフェラテを飲む。

 今生ではコーヒーを飲んだことが無いので、ひどく懐かしい感じがする。

「それで話なんですけれど、今回は注意喚起です」

「なに? あたし何かしちゃったの?」

 一瞬今年になってからの王都での出来事が、あたしの脳裏に過ぎる。

 色々と人間を斬ってるんだよなあたし。

「ウィンの問題では無いの。邪神群の話です」

「邪神群……うっすらとしか記憶が無いけれど、邪悪な存在と言うよりは非主流派の神々なんでしょう?」

「さすが分身のあたしは話が早くて助かるわ。――その連中の話です」

 ソフィエンタは何かを考えながら足を組換え、腕組みした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

東京ダンジョン物語

さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。 大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。 ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。 絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。 あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。 やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。 スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。 無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます―― 金さえあれば人生はどうにでもなる―― そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。 交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。 しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。 だがその力は、本来存在してはいけないものだった。 知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。 その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在―― 「世界を束ねる管理者」 神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。 巻き込まれたくない。 戦いたくもない。 知里が望むのはただ一つ。 金を稼いで楽して生きること。 しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。 守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。 金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる 巻き込まれ系異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

処理中です...