濡れ衣を被せられた悪役令嬢

愛野かこ

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煌びやかなシャンデリアが輝く、王城の大夜会。


その中央で、私の婚約者であるヴィルフリート第一王子が、これ以上ないほどに尊大な声を張り上げました。


「エレナ・ロラン公爵令嬢!貴様との婚約を破棄し、国外追放を命ずる!」


会場の音楽が止まり、貴族たちの視線が痛いほど私に突き刺さります。


王子の隣には、私の義理の妹であるメアリーが、今にも泣き出しそうな顔でしがみついていました。


「……殿下、それはどういう理由からでしょうか?」


私は扇を閉じ、努めて冷静な声を装いました。


実際には、心臓が期待でバクバクと高鳴っています。


ついに来た。この時が、ついに来たのです!


「白々しいぞ!メアリーの紅茶に毒を盛ったのは貴様だろう!聖女である彼女の命を狙うなど、言語道断だ!」


ヴィルフリート王子が私を指差し、断罪の言葉を並べ立てます。


メアリーはわざとらしく震えながら、か細い声を出しました。


「お姉様……どうしてあんな恐ろしいことを……。私、お姉様を信じていたのに……っ」


素晴らしい演技力です。アカデミー賞ものでしょう。


もちろん、私は毒なんて盛っていません。


メアリーが自分で毒を入れ、私を陥れるための自作自演であることは明白でした。


しかし、ここで反論して無実を証明してしまったら、私の計画が台無しです。


私は俯き、震える肩を必死に抑えました。


悲しんでいるふりをするためではありません。


「(やった……!これでやっと、あの過酷な公爵令嬢の公務から解放される……!)」


込み上げてくる笑いを堪えるのに必死だったのです。


「エレナ、何か言い残すことはあるか!今さら許しを乞うても遅いぞ!」


王子の言葉に、私は顔を上げました。


目元を少し潤ませるくらいは、元公爵令嬢としての嗜みです。


「……殿下がそのようにおっしゃるのでしたら、私に弁明の余地はございません。謹んで、国外追放の刑をお受けいたします」


「な、何……?」


王子の拍子抜けしたような声が響きました。


もっと泣き叫び、縋り付いてくるとでも思っていたのでしょう。


「エレナ、貴様、正気か?追放先は北の最果て、魔物が跋扈する極寒の地だぞ?」


「はい。承知いたしました。一刻も早く、この国を去らせていただきますわ」


私は優雅にカーテシーを披露しました。


メアリーの目が、驚きで丸くなっているのが見えます。


「お、お姉様……本当にいいのですか?あんな恐ろしい場所で、一人生きていくなんて……」


「ええ、メアリー。あなたはどうぞ、殿下とお幸せに。私のことなら、一切気にしないでちょうだいね」


心の中では「二度と顔を見せるなよ!」と叫びながら、最高に慈愛に満ちた笑みを浮かべてやりました。


実は、私には前世の記憶があります。


前世の私は、下町の小さなカフェで働く店員でした。


いつか自分の店を持つことを夢見て、毎日必死に働いていたのです。


けれど、不運な事故で命を落とし、気づけばこの乙女ゲームのような世界に転生していました。


公爵令嬢としての生活は、想像を絶するほど窮屈なものでした。


早朝から夜遅くまで続く礼儀作法のレッスン、延々と続く退屈な夜会、そして愛のない婚約者との付き合い。


「(もう、たくさんだわ。私は自由になりたい!自分の淹れたコーヒーを、誰かに飲んでもらえるような……そんな静かな生活がしたいの!)」


この「断罪イベント」が起きるのを、私はずっと心待ちにしていました。


ヴィルフリート王子がメアリーに現を抜かし始めた時から、私は着々と準備を進めていたのです。


「……では、これにて失礼いたします」


私は踵を返し、足早に会場を後にしました。


背後で王子が「待て!まだ話は終わっていない!」と叫んでいましたが、無視です。


一度言い渡した国外追放を取り消すなんて、王族のプライドが許さないでしょうしね。


馬車に乗り込むと、私はようやく大きく息を吐き出しました。


そして、誰にも見られない車内で、力一杯ガッツポーズを決めました。


「よっしゃぁぁぁ!自由だー!!」


さあ、北の地へ行きましょう。


そこには、王都の誰も見たことがないような、素敵なスローライフが待っているはずですから。


辺境の地で、極上のカフェを開いてやるんです。


そのためなら、悪役令嬢という汚名なんて、いくらでも被ってあげますわ。
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