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王城の庭園で開かれた、貴族の令嬢たちによる午後の茶会。
かつては色とりどりの花が咲き誇っていたはずの場所ですが、今はどこか色が褪せ、空気も重く沈んでいます。
「……ねえ、皆様。最近、お肌の調子がよろしくないと思いませんこと?」
扇を広げた伯爵令嬢が、声を潜めて隣の席の友人に耳打ちしました。
「ええ、本当に。お城の空気自体が、なんだか澱んでいるような……。以前はもっと、清々しい風が吹いていたはずですのに」
「……エレナ様がいらっしゃった頃は、この庭にいるだけで心が洗われるようでしたわね」
「しっ! そのお名前は禁句ですわよ。今は、メアリー様が私たちの『聖女』なのですから」
令嬢たちは、上座に座るメアリーをチラリと盗み見ました。
メアリーは最新の流行を取り入れた派手なドレスを身に纏い、高級な焼き菓子を口に運んでいます。
「……皆様、何をそんなにヒソヒソとお話しされていますの? 私も混ぜてくださらない?」
メアリーが甘い声を出すと、令嬢たちは引き攣った笑顔を浮かべました。
「メアリー様。実は……この庭のバラが、最近元気がないようでして。聖女様であらせられるメアリー様の『加護』を、少し分けていただけないかしらと思いまして」
一人の令嬢が、足元にある萎れかけたバラの鉢植えを指差しました。
メアリーの顔が一瞬、ピクリと強張ります。
「あら、そんなこと? 簡単なことですわ。……さあ、清らかな精霊よ、この花に命の息吹を!」
メアリーが派手に杖を振り、光の粒をバラに振り撒きました。
令嬢たちは期待の眼差しでその光景を見守ります。
しかし、数秒後……。
「…………えっ?」
光を浴びたバラは、青々と蘇るどころか、見る間にどす黒く変色し、ボロボロと崩れ落ちてしまいました。
「な、何をなさるんですの! これ、私が亡き祖母から譲り受けた大切な品種なんですわよ!」
「ひっ……! 違うわ、今の、今の魔法は完璧だったはずよ!」
メアリーは慌てて立ち上がりましたが、周囲の令嬢たちの視線は一気に冷ややかなものへと変わりました。
「メアリー様……今の光、聖なる魔法というよりは、ただの『強制成長』の魔法ではありませんでしたか?」
「しかも、土地のエネルギーを吸い取って無理やり咲かせようとしたから、根から枯れてしまったのね……」
「……エレナ様なら、そっと手をかざすだけで、どんなに弱った花も元通りになさっていたのに」
次々と上がる疑念の声に、メアリーは顔を真っ赤にして叫びました。
「うるさいわね! これも全部お姉様のせいよ! 毒を撒き散らしてこの土地を汚したから、私の清らかな魔法が汚染されて……」
「……メアリー様。先ほどから『お姉様のせい』と仰っていますけれど、エレナ様がいなくなってから、もう一ヶ月以上経っておりますわよ?」
「そうですわ。むしろ、エレナ様がいらっしゃった頃の方が、街の水も綺麗で、病人も少なかった。……本当に、毒を撒いていたのは誰なんですの?」
令嬢たちの中には、実家の領地の不作に頭を悩ませている者も少なくありません。
彼女たちにとって、もはやメアリーの「可愛い言い訳」は、通用しないレベルまで実害が出ていたのです。
「失礼いたしますわ、メアリー様。用事を思い出しましたので、お先に失礼します」
「私も。……なんだか、ここにいると気分が悪くなってきましたわ」
一人、また一人と、令嬢たちは理由をつけて席を立っていきます。
最後には、豪華なティーテーブルの前に、メアリーだけが取り残されました。
「……なんなのよ! みんなして、あんなお姉様の肩を持って! 私は聖女なのよ! 王子様に愛されている、選ばれた存在なのよ!」
メアリーは苛立ちに任せて、テーブルの上のティーカップを地面に叩きつけました。
陶器の割れる鋭い音が、荒れ果てた庭園に虚しく響きます。
彼女はまだ気づいていませんでした。
美貌と甘え上手な性格だけで手に入れた「聖女」の座が、砂の城のように足元から崩れ始めていることに。
そして、彼女が最も軽蔑していた「悪役令嬢」こそが、自分の全ての贅沢を支えていた土台であったという事実に。
かつては色とりどりの花が咲き誇っていたはずの場所ですが、今はどこか色が褪せ、空気も重く沈んでいます。
「……ねえ、皆様。最近、お肌の調子がよろしくないと思いませんこと?」
扇を広げた伯爵令嬢が、声を潜めて隣の席の友人に耳打ちしました。
「ええ、本当に。お城の空気自体が、なんだか澱んでいるような……。以前はもっと、清々しい風が吹いていたはずですのに」
「……エレナ様がいらっしゃった頃は、この庭にいるだけで心が洗われるようでしたわね」
「しっ! そのお名前は禁句ですわよ。今は、メアリー様が私たちの『聖女』なのですから」
令嬢たちは、上座に座るメアリーをチラリと盗み見ました。
メアリーは最新の流行を取り入れた派手なドレスを身に纏い、高級な焼き菓子を口に運んでいます。
「……皆様、何をそんなにヒソヒソとお話しされていますの? 私も混ぜてくださらない?」
メアリーが甘い声を出すと、令嬢たちは引き攣った笑顔を浮かべました。
「メアリー様。実は……この庭のバラが、最近元気がないようでして。聖女様であらせられるメアリー様の『加護』を、少し分けていただけないかしらと思いまして」
一人の令嬢が、足元にある萎れかけたバラの鉢植えを指差しました。
メアリーの顔が一瞬、ピクリと強張ります。
「あら、そんなこと? 簡単なことですわ。……さあ、清らかな精霊よ、この花に命の息吹を!」
メアリーが派手に杖を振り、光の粒をバラに振り撒きました。
令嬢たちは期待の眼差しでその光景を見守ります。
しかし、数秒後……。
「…………えっ?」
光を浴びたバラは、青々と蘇るどころか、見る間にどす黒く変色し、ボロボロと崩れ落ちてしまいました。
「な、何をなさるんですの! これ、私が亡き祖母から譲り受けた大切な品種なんですわよ!」
「ひっ……! 違うわ、今の、今の魔法は完璧だったはずよ!」
メアリーは慌てて立ち上がりましたが、周囲の令嬢たちの視線は一気に冷ややかなものへと変わりました。
「メアリー様……今の光、聖なる魔法というよりは、ただの『強制成長』の魔法ではありませんでしたか?」
「しかも、土地のエネルギーを吸い取って無理やり咲かせようとしたから、根から枯れてしまったのね……」
「……エレナ様なら、そっと手をかざすだけで、どんなに弱った花も元通りになさっていたのに」
次々と上がる疑念の声に、メアリーは顔を真っ赤にして叫びました。
「うるさいわね! これも全部お姉様のせいよ! 毒を撒き散らしてこの土地を汚したから、私の清らかな魔法が汚染されて……」
「……メアリー様。先ほどから『お姉様のせい』と仰っていますけれど、エレナ様がいなくなってから、もう一ヶ月以上経っておりますわよ?」
「そうですわ。むしろ、エレナ様がいらっしゃった頃の方が、街の水も綺麗で、病人も少なかった。……本当に、毒を撒いていたのは誰なんですの?」
令嬢たちの中には、実家の領地の不作に頭を悩ませている者も少なくありません。
彼女たちにとって、もはやメアリーの「可愛い言い訳」は、通用しないレベルまで実害が出ていたのです。
「失礼いたしますわ、メアリー様。用事を思い出しましたので、お先に失礼します」
「私も。……なんだか、ここにいると気分が悪くなってきましたわ」
一人、また一人と、令嬢たちは理由をつけて席を立っていきます。
最後には、豪華なティーテーブルの前に、メアリーだけが取り残されました。
「……なんなのよ! みんなして、あんなお姉様の肩を持って! 私は聖女なのよ! 王子様に愛されている、選ばれた存在なのよ!」
メアリーは苛立ちに任せて、テーブルの上のティーカップを地面に叩きつけました。
陶器の割れる鋭い音が、荒れ果てた庭園に虚しく響きます。
彼女はまだ気づいていませんでした。
美貌と甘え上手な性格だけで手に入れた「聖女」の座が、砂の城のように足元から崩れ始めていることに。
そして、彼女が最も軽蔑していた「悪役令嬢」こそが、自分の全ての贅沢を支えていた土台であったという事実に。
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