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ヴィルフリート王子が王都へ戻ってから数日後。
王宮の謁見の間には、雷鳴のような国王の怒声が響き渡っていました。
「……この、愚か者がッ!!」
玉座から立ち上がった国王は、床に這いつくばるヴィルフリートに向けて、一通の報告書を投げつけました。
そこには、メアリーが独断で行った不正の数々と、エレナを陥れた周到な計画の証拠が、これ以上ないほど克明に記されていたのです。
「父上、お待ちください! 私はただ、メアリーの涙に騙されて……彼女こそが真の聖女だと信じて……っ」
「黙れ! 聖女どころか、彼女はただの毒婦ではないか! 貴様のその節穴の目のせいで、我が国は大陸で最も貴重な『浄化の賢女』を失ったのだぞ!」
国王の背後では、宮廷魔導師たちが絶望的な顔で計算機を弾いていました。
「……陛下。もはや手遅れです。国内の地脈は完全に汚染され、来年の収穫は絶望的。隣国からも、エレナ様を不当に追放した件で厳しい抗議が届いております」
「あ……ああ、そんな……」
ヴィルフリートの顔が、恐怖で土色に変わります。
そこへ、衛兵に引きずられるようにして一人の女が連行されてきました。
かつての可憐な面影はなく、泥と涙で顔を汚したメアリーです。
「離して! 私は聖女よ! 王妃になるはずの女なのよ! お姉様が悪いんですわ、お姉様が私を嵌めたのよっ!」
メアリーは狂ったように叫びましたが、彼女を冷ややかに見下ろす貴族たちの目に、もはや同情の色はありませんでした。
「メアリー・ロラン。貴様を聖女の名誉毀損、および公爵令嬢殺害未遂の罪で収監する。一生、光の差さぬ地下牢で己の罪を数えるがいい」
「いやぁぁぁ! ヴィル様、助けて! 助けてくださいっ!」
メアリーの声は虚しく響き、彼女はそのまま連れ去られていきました。
国王は次に、抜け殻のようになったヴィルフリートを見据えました。
「ヴィルフリート。貴様を第一王子の地位から剥奪し、廃嫡とする。北の修道院へ入り、一生を祈りに捧げよ」
「……そんな……。そんな、殺生な……っ」
「殺生なのは貴様だ! エレナを……あの子を、あんな過酷な土地へ追いやっておきながら!」
王都が未曾有の混乱に陥る中。
北の最果て、カフェ「ルミナス」には、この結果を記した正式な通達が届いていました。
私はカウンターで、ユリアンさんから受け取った書類に目を通し、静かにそれを閉じました。
「……そうですか。収監と、廃嫡」
「はい。王家からは、エレナ様への正式な謝罪と、公爵位の復権、そして多額の賠償金が提示されております。どうか、王都へ戻ってはいただけないでしょうか」
ユリアンさんが深々と頭を下げましたが、私は迷わず首を振りました。
「お断りいたします。私は今、ここでとても幸せなのですから」
私は隣で不機嫌そうに腕を組んでいるカイル様を見上げました。
「カイル様。王都の方は、お二人で『幸せ』になられたようですわ。地下牢と修道院という、静かな場所でね」
「……ふん。自業自得だ。貴様を傷つけた報いとしては、まだ足りないくらいだがな」
カイル様は私の肩を抱き寄せ、ユリアンを威圧するように睨みつけました。
「使いの者。王に伝えろ。『エレナは私の妻だ。二度と、王家の汚れ仕事を押し付けようなどと考えるな』とな」
ユリアンさんは苦笑いを浮かべ、諦めたように一礼しました。
「……承知いたしました。それが、この国にとって最大の損失であることを、骨身に沁みて報告しておきます」
彼らが去った後、私は窓の外に広がる銀世界を眺めました。
「(毒を盛られた悪役令嬢、なんて言われたけれど)」
私はカイル様のために、新しく淹れたコーヒーを差し出しました。
「(濡れ衣を被って、本当に良かったわ。こんなに素敵な場所に、たどり着けたのですもの)」
「……エレナ。何か言ったか?」
「いいえ。ただ、今日のスコーンは最高に美味しく焼けますわよ、とお伝えしたかっただけですわ」
「……そうか。ならば、全部私がいただく」
「ふふ。どうぞお幸せに、辺境伯様」
私は最高の笑顔で、幸せな日常へと戻っていくのでした。
王宮の謁見の間には、雷鳴のような国王の怒声が響き渡っていました。
「……この、愚か者がッ!!」
玉座から立ち上がった国王は、床に這いつくばるヴィルフリートに向けて、一通の報告書を投げつけました。
そこには、メアリーが独断で行った不正の数々と、エレナを陥れた周到な計画の証拠が、これ以上ないほど克明に記されていたのです。
「父上、お待ちください! 私はただ、メアリーの涙に騙されて……彼女こそが真の聖女だと信じて……っ」
「黙れ! 聖女どころか、彼女はただの毒婦ではないか! 貴様のその節穴の目のせいで、我が国は大陸で最も貴重な『浄化の賢女』を失ったのだぞ!」
国王の背後では、宮廷魔導師たちが絶望的な顔で計算機を弾いていました。
「……陛下。もはや手遅れです。国内の地脈は完全に汚染され、来年の収穫は絶望的。隣国からも、エレナ様を不当に追放した件で厳しい抗議が届いております」
「あ……ああ、そんな……」
ヴィルフリートの顔が、恐怖で土色に変わります。
そこへ、衛兵に引きずられるようにして一人の女が連行されてきました。
かつての可憐な面影はなく、泥と涙で顔を汚したメアリーです。
「離して! 私は聖女よ! 王妃になるはずの女なのよ! お姉様が悪いんですわ、お姉様が私を嵌めたのよっ!」
メアリーは狂ったように叫びましたが、彼女を冷ややかに見下ろす貴族たちの目に、もはや同情の色はありませんでした。
「メアリー・ロラン。貴様を聖女の名誉毀損、および公爵令嬢殺害未遂の罪で収監する。一生、光の差さぬ地下牢で己の罪を数えるがいい」
「いやぁぁぁ! ヴィル様、助けて! 助けてくださいっ!」
メアリーの声は虚しく響き、彼女はそのまま連れ去られていきました。
国王は次に、抜け殻のようになったヴィルフリートを見据えました。
「ヴィルフリート。貴様を第一王子の地位から剥奪し、廃嫡とする。北の修道院へ入り、一生を祈りに捧げよ」
「……そんな……。そんな、殺生な……っ」
「殺生なのは貴様だ! エレナを……あの子を、あんな過酷な土地へ追いやっておきながら!」
王都が未曾有の混乱に陥る中。
北の最果て、カフェ「ルミナス」には、この結果を記した正式な通達が届いていました。
私はカウンターで、ユリアンさんから受け取った書類に目を通し、静かにそれを閉じました。
「……そうですか。収監と、廃嫡」
「はい。王家からは、エレナ様への正式な謝罪と、公爵位の復権、そして多額の賠償金が提示されております。どうか、王都へ戻ってはいただけないでしょうか」
ユリアンさんが深々と頭を下げましたが、私は迷わず首を振りました。
「お断りいたします。私は今、ここでとても幸せなのですから」
私は隣で不機嫌そうに腕を組んでいるカイル様を見上げました。
「カイル様。王都の方は、お二人で『幸せ』になられたようですわ。地下牢と修道院という、静かな場所でね」
「……ふん。自業自得だ。貴様を傷つけた報いとしては、まだ足りないくらいだがな」
カイル様は私の肩を抱き寄せ、ユリアンを威圧するように睨みつけました。
「使いの者。王に伝えろ。『エレナは私の妻だ。二度と、王家の汚れ仕事を押し付けようなどと考えるな』とな」
ユリアンさんは苦笑いを浮かべ、諦めたように一礼しました。
「……承知いたしました。それが、この国にとって最大の損失であることを、骨身に沁みて報告しておきます」
彼らが去った後、私は窓の外に広がる銀世界を眺めました。
「(毒を盛られた悪役令嬢、なんて言われたけれど)」
私はカイル様のために、新しく淹れたコーヒーを差し出しました。
「(濡れ衣を被って、本当に良かったわ。こんなに素敵な場所に、たどり着けたのですもの)」
「……エレナ。何か言ったか?」
「いいえ。ただ、今日のスコーンは最高に美味しく焼けますわよ、とお伝えしたかっただけですわ」
「……そうか。ならば、全部私がいただく」
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私は最高の笑顔で、幸せな日常へと戻っていくのでした。
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