濡れ衣を被せられた悪役令嬢

愛野かこ

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結婚式を数日後に控えたある朝、辺境の静寂を破るように、またしても騒がしい蹄の音が聞こえてきました。


しかし、今度はヴィルフリート王子の時のような傲慢な音ではありません。


整然とした足取りで現れたのは、新しく王位を継承した第二王子……いえ、新国王の使者たちでした。


「エレナ・ロラン様! 陛下の名代として、これまでの数々の非礼をお詫びすべく参上いたしました!」


カフェの前に並んだのは、十数台にも及ぶ豪華な馬車の列。


中から運び出されたのは、まばゆいばかりの金銀財宝、そして王家秘蔵の魔道具の数々でした。


「……これは、何事だ。またゴミが増えるだけなら、今すぐ追い返すが」


カイル様が不機嫌そうに大剣の柄に手をかけましたが、使者は真っ青な顔で平伏しました。


「め、滅相もございません! これは新国王陛下からの心ばかりのお詫び……いえ、献上品にございます!」


私は運ばれてきた荷物の一つを、興味深く覗き込みました。


「あら、これは……。王宮の宝物庫に眠っていたという『永久冷却の魔石』ではありませんか?」


「はっ! 本来は国家機密の魔道具ですが、エレナ様の生活にお役立ていただければと……」


使者の説明を最後まで聞かず、私の頭の中では革命的なアイディアが閃きました。


「カイル様、見てください! これがあれば、真夏でも一切溶けない特製アイスクリームが作れますわ!」


「……アイスだと? 宝具を調理器具にするつもりか?」


「当然ですわ。それから、この『熱伝導を自在に操る魔法のプレート』……。これを使えば、厚さ十センチの極厚パンケーキも、中まで完璧に火が通ります!」


私は目を輝かせ、次々と運び込まれる国宝級のアイテムを「厨房機器」として仕分け始めました。


「おい、そこの騎士さん。その魔力増幅器は、あちらのコーヒーミルに繋いでくださいな。世界一細かな極細挽きができそうですわ」


「ええっ!? こ、これは儀式用の……」


「いいからやってちょうだい。王家へのお返事には『非常に役立っています』と書いてあげますから」


使者たちは困惑しきった様子でしたが、私のあまりに楽しそうな姿に、最後には諦めたように作業を手伝い始めました。


ヴィルフリート王子が「権力の象徴」として使おうとしていた財宝が、私の手によって次々と「カフェの利便性を高める道具」へと変貌を遂げていきます。


「……エレナ。貴様、王家からの謝罪を何だと思っているんだ」


カイル様が呆れたように、けれどどこか嬉しそうに私に尋ねました。


「あら、謝罪というのは、相手が一番喜ぶ形でするのが礼儀でしょう? 私は今、この新しいコンロで何を焼こうか考えて、最高に幸せですわ」


私は山積みの金貨を横目に、高価な香辛料の瓶を愛おしそうに撫でました。


「王都の皆様には、このカフェの招待状でも送っておきましょうか。……あ、廃嫡されたあの方は、入場禁止ですけれどね」


「……ふふ。全くだ」


カイル様は私の肩に手を置き、満足げに頷きました。


王都が必死に機嫌を取ろうとしている一方で、私たちはその「お詫び」を存分に活用し、さらに美味しいものを作る準備を整えたのです。


濡れ衣を被せられた悪役令嬢への、これ以上ない「ざまぁ」の形かもしれません。


「さあ、カイル様。新しい冷蔵庫(仮)が来たお祝いに、冷たいデザートを試作しましょうか」


「ああ。貴様が作るものなら、何でもいただくぞ」


辺境のカフェは、王都の至宝を取り込んで、さらにパワーアップしていくのでした。
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