​『お気の毒様に?』~断罪された悪役令嬢〜

愛野かこ

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ガタゴトと心地よい揺れを繰り返していた馬車が、ついに静止した。


窓の外には、アストレア王国の質素な石造りの街並みとは一線を画す、壮麗な帝都の景色が広がっている。

立ち並ぶ白亜の建造物、魔導具による淡い光の街灯、そして何より活気に満ちた人々の声。


「着いたぞ、アリミヤ。ここが君の新しい家だ」


レオンハルトが先に降り、自然な所作で手を差し伸べる。

アリミヤはその手を取り、馬車を降りた瞬間、目を見開いた。


「……これは、一体どういうことかしら?」


目の前には、帝国の高官と思われる男たちがずらりと整列し、最敬礼で彼女を迎えていたのだ。

その数、およそ数十名。全員が帝国の政務を担う中枢の人間たちである。


「ようこそ、アリミヤ・リル・ナーディア様! 我ら帝国官僚一同、貴女のお越しを心よりお待ちしておりました!」


一斉に響いた野太い声に、アリミヤは思わず扇で口元を隠した。

追放された身である自分が、なぜ隣国で英雄のような扱いを受けているのか。


「レオンハルト様、説明をいただけますか? 私はただの『行き場を失った令嬢』としてこちらに伺ったつもりなのですが」


「ははっ、謙遜が過ぎるな。彼らにとって、君は行き場を失った令嬢ではない。停滞した帝国の内政を救う『女神』だ」


レオンハルトは愉快そうに笑いながら、彼女の肩を抱き寄せた。


「女神、ですか。随分と重たい肩書きですこと」


「君がアストレアで作成した数々の経済白書、そして外交文書。俺がすべて手に入れて目を通していると言ったら、怒るか?」


「……まあ。あちらの国の情報管理はどうなっているのかしら。お気の毒すぎて涙も出ませんわ」


アリミヤは呆れたように息をついた。

しかし、レオンハルトの瞳は冗談を言っているようには見えなかった。


「俺は、三年前から君を狙っていた。あの無能な王子が君を蔑ろにするたびに、俺は心の中で喝采を上げていたよ。いつか必ず、君をこの手に入れる機会が来ると信じてな」


「三年前……。ずいぶんと気が長いことですのね」


「欲しいものを手に入れるためなら、いくらでも待つさ。特に、君のような唯一無二の存在なら」


レオンハルトは、アリミヤの耳元に顔を近づけ、周囲には聞こえない低い声で囁いた。


「アリミヤ。君に用意したのは、最高級の執務室と、君専用の予算、そして……俺の隣という特等席だ」


「あら。最後の一つは、少々条件が厳しそうですわね?」


「断らせるつもりはない。まずはその疲れを癒やすといい。今夜は君を歓迎する、最高の晩餐を用意させている」


案内されたのは、皇宮内でも最も格式高いとされる離宮だった。

部屋に一歩足を踏み入れれば、そこにはアストレアの王宮ですらお目にかかれないような、最高級の調度品が揃っている。


「……お気の毒様に、ジュリアン殿下」


ふかふかのソファに身を沈め、アリミヤは独り言ちた。


「あちらの国が今頃、私の『穴』を埋められずに右往左往しているのを想像すると……。このワイン、いっそう美味しく感じられそうですわ」


窓の外では、帝国を象徴する黄金の旗が風にたなびいている。

彼女の復讐劇は、まだ幕を開けたばかりだった。
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