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帝都の正門前には、かつてないほど「みすぼらしい」馬車が停まっていた。
アストレア王国の紋章は泥に汚れ、馬は疲れ果てて泡を吹いている。
そこから這い出すようにして現れたのは、高級な服こそ着ているものの、髪は乱れ、目は血走ったジュリアンだった。
「アリミヤ……! アリミヤ・リル・ナーディアに会わせろ! 私はアストレア王国の第一王子、ジュリアン・フォン・アストレアだぞ!」
門衛の兵士たちの前に立ち、ジュリアンは声を荒らげた。
しかし、帝国最精鋭の近衛兵たちは、眉一つ動かさずに槍を交差させる。
「……お引き取り願おう。当門は、正当な外交手続きを経ない者の入国を許可していない」
「外交手続きだと!? 私が直々に足を運んでやっているんだぞ! 早くその不遜な槍をどけろ! アリミヤは私の婚約者だ!」
ジュリアンの叫びに、背後から怯えたような声が重なる。
「そ、そうですわ! お姉様を呼びなさい! 妹である私が、こんなに苦労して会いに来てあげたのですから!」
馬車から顔を出したのは、エレーナだった。
かつての可憐な面影はなく、そのドレスは差し押さえを逃れた数少ない安物で、ひどく皺が寄っている。
その時、城壁の上から、涼やかな鈴の音のような声が降ってきた。
「あら。門前がずいぶんと騒がしいと思えば……。迷い犬の遠吠えかしら?」
ジュリアンが弾かれたように顔を上げると、そこには豪華な装飾が施されたバルコニーに立つ、アリミヤの姿があった。
その隣には、彼女の肩を抱き、不機嫌そうに下界を見下ろすレオンハルトが立っている。
「アリミヤ! ああ、アリミヤ! やっと会えた! さあ、今すぐその男から離れてこちらへ来い! 許してやる、すべてを水に流してやると言っているんだ!」
ジュリアンの必死な形相に、アリミヤは優雅に扇を広げて口元を隠した。
「……許す? 水に流す? 殿下、寝言は寝ている時だけにしていただけますかしら。私を犯罪者扱いし、国外へ追放したのは、他ならぬ貴方ではありませんか」
「それは……それはエレーナに唆されただけで……! そうだ、悪いのは全部この女なんだ! 私は被害者なんだよ!」
「殿下!? 何を仰るのですか!」
足元で醜い擦り付け合いを始める二人を、アリミヤは冷淡な瞳で見つめた。
「お気の毒様に。……自らの決断にすら責任を持てない方を、私は『殿下』と呼ぶつもりはございません。今の貴方は、ただの借金まみれの不審者ですわ」
「何だとっ……!」
「レオンハルト様。あまり見苦しいものを見ていると、目が腐ってしまいますわ。……もう、よろしいのではなくて?」
アリミヤが隣の男を見上げると、レオンハルトは低く獰猛な笑みを浮かべた。
「ああ。……門衛、聞こえたか? その不審者どもを即刻排除しろ。抵抗するようなら、帝国の法に従って『処理』して構わん」
「はっ!」
近衛兵たちが一斉に槍を突き出し、鋭い威圧感を放つ。
「ひっ……! や、やめて、来ないで!」
エレーナが悲鳴を上げ、ジュリアンは腰を抜かして泥の中に尻餅をついた。
「アリミヤ! 待ってくれ! 私を見捨てるのか! このままだと私は、王位を剥奪されてしまうんだぞ!」
泥まみれになりながら縋りつく元婚約者の姿に、アリミヤは一度だけ、慈悲深い微笑みを向けた。
「ええ、存じておりますわ。……それが、私の書いた『プロット』通りですもの」
アリミヤは背を向け、レオンハルトと共に城内へと消えていった。
残されたのは、帝国の冷たい石畳の上で、泥を啜りながら絶望に震える「元」王子と令嬢の姿だけだった。
アストレア王国の紋章は泥に汚れ、馬は疲れ果てて泡を吹いている。
そこから這い出すようにして現れたのは、高級な服こそ着ているものの、髪は乱れ、目は血走ったジュリアンだった。
「アリミヤ……! アリミヤ・リル・ナーディアに会わせろ! 私はアストレア王国の第一王子、ジュリアン・フォン・アストレアだぞ!」
門衛の兵士たちの前に立ち、ジュリアンは声を荒らげた。
しかし、帝国最精鋭の近衛兵たちは、眉一つ動かさずに槍を交差させる。
「……お引き取り願おう。当門は、正当な外交手続きを経ない者の入国を許可していない」
「外交手続きだと!? 私が直々に足を運んでやっているんだぞ! 早くその不遜な槍をどけろ! アリミヤは私の婚約者だ!」
ジュリアンの叫びに、背後から怯えたような声が重なる。
「そ、そうですわ! お姉様を呼びなさい! 妹である私が、こんなに苦労して会いに来てあげたのですから!」
馬車から顔を出したのは、エレーナだった。
かつての可憐な面影はなく、そのドレスは差し押さえを逃れた数少ない安物で、ひどく皺が寄っている。
その時、城壁の上から、涼やかな鈴の音のような声が降ってきた。
「あら。門前がずいぶんと騒がしいと思えば……。迷い犬の遠吠えかしら?」
ジュリアンが弾かれたように顔を上げると、そこには豪華な装飾が施されたバルコニーに立つ、アリミヤの姿があった。
その隣には、彼女の肩を抱き、不機嫌そうに下界を見下ろすレオンハルトが立っている。
「アリミヤ! ああ、アリミヤ! やっと会えた! さあ、今すぐその男から離れてこちらへ来い! 許してやる、すべてを水に流してやると言っているんだ!」
ジュリアンの必死な形相に、アリミヤは優雅に扇を広げて口元を隠した。
「……許す? 水に流す? 殿下、寝言は寝ている時だけにしていただけますかしら。私を犯罪者扱いし、国外へ追放したのは、他ならぬ貴方ではありませんか」
「それは……それはエレーナに唆されただけで……! そうだ、悪いのは全部この女なんだ! 私は被害者なんだよ!」
「殿下!? 何を仰るのですか!」
足元で醜い擦り付け合いを始める二人を、アリミヤは冷淡な瞳で見つめた。
「お気の毒様に。……自らの決断にすら責任を持てない方を、私は『殿下』と呼ぶつもりはございません。今の貴方は、ただの借金まみれの不審者ですわ」
「何だとっ……!」
「レオンハルト様。あまり見苦しいものを見ていると、目が腐ってしまいますわ。……もう、よろしいのではなくて?」
アリミヤが隣の男を見上げると、レオンハルトは低く獰猛な笑みを浮かべた。
「ああ。……門衛、聞こえたか? その不審者どもを即刻排除しろ。抵抗するようなら、帝国の法に従って『処理』して構わん」
「はっ!」
近衛兵たちが一斉に槍を突き出し、鋭い威圧感を放つ。
「ひっ……! や、やめて、来ないで!」
エレーナが悲鳴を上げ、ジュリアンは腰を抜かして泥の中に尻餅をついた。
「アリミヤ! 待ってくれ! 私を見捨てるのか! このままだと私は、王位を剥奪されてしまうんだぞ!」
泥まみれになりながら縋りつく元婚約者の姿に、アリミヤは一度だけ、慈悲深い微笑みを向けた。
「ええ、存じておりますわ。……それが、私の書いた『プロット』通りですもの」
アリミヤは背を向け、レオンハルトと共に城内へと消えていった。
残されたのは、帝国の冷たい石畳の上で、泥を啜りながら絶望に震える「元」王子と令嬢の姿だけだった。
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