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「早くしろ、エレーナ! 民衆がそこまで来ているんだぞ!」
ジュリアンは、金糸の刺繍が引き裂かれたマントを脱ぎ捨て、薄暗い隠し通路へと足を踏み入れた。
背後からは、重厚な扉を打ち壊そうとする民衆の怒号と、石を投げつける音が響いている。
「待ってください、殿下! この靴では……ドレスの裾が長すぎて歩けませんわ!」
エレーナは涙で化粧を崩し、裾を泥に汚しながら必死に追いかける。
かつて彼女を「可憐な花」と称えたジュリアンの瞳には、今や疎ましさしか宿っていない。
「黙れ! ドレスなど脱ぎ捨ててこい! 命と布切れ、どちらが大切だと思っている!」
「そんな……ひどいですわ……っ!」
二人が辿り着いたのは、王族が緊急時に使用するための地下脱出路だった。
しかし、その重い鉄扉を開けた瞬間、二人は絶句した。
「……何だ、これは。水が溜まっている……?」
地下路は膝の高さまで汚水に浸かり、湿ったカビの臭いが充満していた。
アリミヤがいれば、定期的に予算を割いて清掃と修繕を命じていたはずの場所。
だが、管理を放棄された通路は、ただの暗い溝へと成り果てていた。
「お姉様なら……アリミヤお姉様なら、ここを綺麗にしていたはずですわ……」
「今さらあいつの名前を出すな! ……ちっ、行くぞ。捕まれば、私たちは広場で吊るされることになる!」
ジュリアンは鼻を突く悪臭に顔を歪めながら、濁った水の中を強引に進み始めた。
エレーナも泣きべそをかきながら、お気に入りのドレスを泥水に浸して後に続く。
冷たく、汚い水の感触。
暗闇の中を這いずり回るネズミの音。
かつて王宮の最上階で、甘い菓子を頬張りながらアリミヤを嘲笑っていた二人の姿は、そこには微塵もなかった。
「……寒い、寒いですわ、殿下。どこへ行くのですか? いつになったら、美味しい食事が食べられるの?」
「そんなもの、私に聞くな! ……ああ、クソッ、誰か……誰か助けてくれ……!」
ジュリアンの叫びは、湿った壁に虚しく反響するだけだった。
一方その頃。
帝国の離宮では、暖炉の火がパチパチとはぜる心地よい音が響いていた。
「……ふふ、あちらの脱出路、確かもう数年は修繕の予算を通していませんでしたわね」
アリミヤは、レオンハルトに剥いてもらった果実を口に運び、優雅に微笑んだ。
「わざとか?」
「まさか。ただ、優先順位を下げただけですわ。無能な王子が逃げ出すための道より、民のパンを焼く竈の修理の方が大切でしょう?」
「くくっ……。君の『慈悲』は、本当に恐ろしいな、アリミヤ」
レオンハルトは彼女の腰を抱き寄せ、暖かな毛布で二人を包み込んだ。
「お気の毒様に。……冷たい水の中、風邪など召さなければよろしいのですけれど」
アリミヤの瞳には、かつて自分を裏切った者たちへの未練など、一滴も残っていなかった。
ジュリアンは、金糸の刺繍が引き裂かれたマントを脱ぎ捨て、薄暗い隠し通路へと足を踏み入れた。
背後からは、重厚な扉を打ち壊そうとする民衆の怒号と、石を投げつける音が響いている。
「待ってください、殿下! この靴では……ドレスの裾が長すぎて歩けませんわ!」
エレーナは涙で化粧を崩し、裾を泥に汚しながら必死に追いかける。
かつて彼女を「可憐な花」と称えたジュリアンの瞳には、今や疎ましさしか宿っていない。
「黙れ! ドレスなど脱ぎ捨ててこい! 命と布切れ、どちらが大切だと思っている!」
「そんな……ひどいですわ……っ!」
二人が辿り着いたのは、王族が緊急時に使用するための地下脱出路だった。
しかし、その重い鉄扉を開けた瞬間、二人は絶句した。
「……何だ、これは。水が溜まっている……?」
地下路は膝の高さまで汚水に浸かり、湿ったカビの臭いが充満していた。
アリミヤがいれば、定期的に予算を割いて清掃と修繕を命じていたはずの場所。
だが、管理を放棄された通路は、ただの暗い溝へと成り果てていた。
「お姉様なら……アリミヤお姉様なら、ここを綺麗にしていたはずですわ……」
「今さらあいつの名前を出すな! ……ちっ、行くぞ。捕まれば、私たちは広場で吊るされることになる!」
ジュリアンは鼻を突く悪臭に顔を歪めながら、濁った水の中を強引に進み始めた。
エレーナも泣きべそをかきながら、お気に入りのドレスを泥水に浸して後に続く。
冷たく、汚い水の感触。
暗闇の中を這いずり回るネズミの音。
かつて王宮の最上階で、甘い菓子を頬張りながらアリミヤを嘲笑っていた二人の姿は、そこには微塵もなかった。
「……寒い、寒いですわ、殿下。どこへ行くのですか? いつになったら、美味しい食事が食べられるの?」
「そんなもの、私に聞くな! ……ああ、クソッ、誰か……誰か助けてくれ……!」
ジュリアンの叫びは、湿った壁に虚しく反響するだけだった。
一方その頃。
帝国の離宮では、暖炉の火がパチパチとはぜる心地よい音が響いていた。
「……ふふ、あちらの脱出路、確かもう数年は修繕の予算を通していませんでしたわね」
アリミヤは、レオンハルトに剥いてもらった果実を口に運び、優雅に微笑んだ。
「わざとか?」
「まさか。ただ、優先順位を下げただけですわ。無能な王子が逃げ出すための道より、民のパンを焼く竈の修理の方が大切でしょう?」
「くくっ……。君の『慈悲』は、本当に恐ろしいな、アリミヤ」
レオンハルトは彼女の腰を抱き寄せ、暖かな毛布で二人を包み込んだ。
「お気の毒様に。……冷たい水の中、風邪など召さなければよろしいのですけれど」
アリミヤの瞳には、かつて自分を裏切った者たちへの未練など、一滴も残っていなかった。
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