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婚約式から数日。アリミヤの執務室には、帝国の官僚たちが列をなしていた。
かつては「女の差配など」と鼻で笑っていた彼らも、今やアリミヤの『添削』なしでは、不安で一歩も動けないありさまだ。
「……次の案件は? 時間は有限ですわ。三分で説明なさい」
アリミヤが羽ペンを走らせながら告げると、秘書官が恐縮したように一枚のカードを差し出した。
「あ、あの、アリミヤ様。お忙しいところ恐縮ですが……アストレア王国の元文官、フェリクス殿という方が拝謁を求めております」
アリミヤの手が、一瞬だけ止まる。
「……フェリクス? ああ、あの方かしら。私の下で唯一、数字の計算が合っていた真面目な方ね」
フェリクスは、アストレア王国で孤立無援だったアリミヤを、密かに実務面で支えていた数少ない良心的な文官だった。
入室を許されたフェリクスは、かつてよりやつれた姿で、アリミヤの前に跪いた。
「アリミヤ様……いえ、帝国皇太子妃殿下。……お久しぶりでございます」
「顔を上げなさい、フェリクス。……お気の毒様に。貴方のような有能な方が、まだあの泥船に残っていたなんて」
アリミヤの言葉に、フェリクスは苦笑いを浮かべた。
「船はもう沈みました。私は、旧アストレアの民が、新しい帝国の統治下で飢えぬよう……そのための交渉に参りました。……殿下、どうか慈悲を」
アリミヤは冷徹に、机の上の膨大な予算案を指し示した。
「慈悲、ですか。私が一番嫌いな言葉ですわね。……ですが、フェリクス。貴方が持ってきたその資料、私の基準で言えば『落第』ですわ。予測数値が甘すぎます」
フェリクスが顔を青ざめさせた瞬間、アリミヤは不敵に微笑んだ。
「……だから、貴方を帝国の『アストレア特区担当官』に任命しますわ。私の手元で一から鍛え直してあげます。……逃げ出したいなら、今が最後の手続きですけれど?」
「……! 謹んで、お受けいたします!」
フェリクスが感極まったように頭を下げる。
その光景を、壁にもたれかかって眺めていたレオンハルトが、低い笑い声を上げた。
「相変わらずだな、アリミヤ。そうやって有能な人間を次々と骨抜きにして、帝国を塗り替えていく」
「あら、レオンハルト様。有能な駒を拾うのは、統治者の義務ですわ」
「駒、か。……俺のことも、そう思っているのか?」
レオンハルトが歩み寄り、背後からアリミヤの首筋に顔を寄せた。
フェリクスは慌てて視線を逸らし、部屋を辞していく。
「……殿下は特別ですわ。……私の、唯一無二の『拠り所』ですもの」
アリミヤは少しだけ声を甘くして、彼の腕に手を重ねた。
「お気の毒様に。……こんな強欲な女と一生を共にするなんて、貴方の計算もだいぶ狂ってしまったのではありませんこと?」
「ああ。大誤算だ。……だが、これ以上の『正解』は、世界のどこにも存在しない」
愛と知性が交差する帝国の午後。
アリミヤの改革は、旧国の遺志さえも飲み込み、さらなる高みへと加速していく。
かつては「女の差配など」と鼻で笑っていた彼らも、今やアリミヤの『添削』なしでは、不安で一歩も動けないありさまだ。
「……次の案件は? 時間は有限ですわ。三分で説明なさい」
アリミヤが羽ペンを走らせながら告げると、秘書官が恐縮したように一枚のカードを差し出した。
「あ、あの、アリミヤ様。お忙しいところ恐縮ですが……アストレア王国の元文官、フェリクス殿という方が拝謁を求めております」
アリミヤの手が、一瞬だけ止まる。
「……フェリクス? ああ、あの方かしら。私の下で唯一、数字の計算が合っていた真面目な方ね」
フェリクスは、アストレア王国で孤立無援だったアリミヤを、密かに実務面で支えていた数少ない良心的な文官だった。
入室を許されたフェリクスは、かつてよりやつれた姿で、アリミヤの前に跪いた。
「アリミヤ様……いえ、帝国皇太子妃殿下。……お久しぶりでございます」
「顔を上げなさい、フェリクス。……お気の毒様に。貴方のような有能な方が、まだあの泥船に残っていたなんて」
アリミヤの言葉に、フェリクスは苦笑いを浮かべた。
「船はもう沈みました。私は、旧アストレアの民が、新しい帝国の統治下で飢えぬよう……そのための交渉に参りました。……殿下、どうか慈悲を」
アリミヤは冷徹に、机の上の膨大な予算案を指し示した。
「慈悲、ですか。私が一番嫌いな言葉ですわね。……ですが、フェリクス。貴方が持ってきたその資料、私の基準で言えば『落第』ですわ。予測数値が甘すぎます」
フェリクスが顔を青ざめさせた瞬間、アリミヤは不敵に微笑んだ。
「……だから、貴方を帝国の『アストレア特区担当官』に任命しますわ。私の手元で一から鍛え直してあげます。……逃げ出したいなら、今が最後の手続きですけれど?」
「……! 謹んで、お受けいたします!」
フェリクスが感極まったように頭を下げる。
その光景を、壁にもたれかかって眺めていたレオンハルトが、低い笑い声を上げた。
「相変わらずだな、アリミヤ。そうやって有能な人間を次々と骨抜きにして、帝国を塗り替えていく」
「あら、レオンハルト様。有能な駒を拾うのは、統治者の義務ですわ」
「駒、か。……俺のことも、そう思っているのか?」
レオンハルトが歩み寄り、背後からアリミヤの首筋に顔を寄せた。
フェリクスは慌てて視線を逸らし、部屋を辞していく。
「……殿下は特別ですわ。……私の、唯一無二の『拠り所』ですもの」
アリミヤは少しだけ声を甘くして、彼の腕に手を重ねた。
「お気の毒様に。……こんな強欲な女と一生を共にするなんて、貴方の計算もだいぶ狂ってしまったのではありませんこと?」
「ああ。大誤算だ。……だが、これ以上の『正解』は、世界のどこにも存在しない」
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