​『お気の毒様に?』~断罪された悪役令嬢〜

愛野かこ

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帝国全土が、建国記念を祝う「黄金祭」の熱狂に包まれていた。


帝都の中央広場には、入りきらないほどの市民が集まり、皆がバルコニーを見上げている。

そこへ、レオンハルトに伴われてアリミヤが姿を現すと、地響きのような歓声が上がった。


「……ご覧なさい、レオンハルト様。アストレアでは、私が表に出るたびに民は石を投げんばかりの目をしていましたのに。帝国の方は、随分と気が早くていらっしゃいますわね」


アリミヤは、白銀の刺繍が施されたミッドナイトブルーのドレスを翻し、優雅に手を振った。

その手には、彼女がこの数ヶ月で成し遂げた「全土の魔導インフラ整備計画」の完了を告げる宝珠が握られている。


「気が早いのではない。君がわずか半年で、この国の貧困率を二割下げ、物流の速度を三倍にした結果だ。……民は、誰が自分たちにパンと希望を与えたかを、正確に理解しているのさ」


レオンハルトは誇らしげに彼女の腰を抱き寄せ、民衆に向けて宣言した。


「帝国の民よ! 我が妃、アリミヤの知性は、今やこの国の宝である! 彼女こそが、帝国の未来を照らす真の皇后だ!」


広場を埋め尽くす人々が、一斉に唱和する。

「アリミヤ様万歳!」「知性の女神に栄光あれ!」


その光景は、アストレア王国で「鉄の令嬢」と蔑まれ、孤独に書類と向き合っていた彼女への、世界からの回答だった。


「……ふふ。これほどまでに期待されては、お気の毒様に、私は一生休む暇がございませんわね」


アリミヤは眩しそうに目を細め、レオンハルトを見上げた。


「休ませるつもりはない。……君の隣で、この景色の続きを見るのが、俺の生涯の仕事だからな」


その時、広場の片隅で、帝国の警備兵に連れられた数人の男たちが目に入った。

かつてアストレアでアリミヤを「冷酷な女」と罵り、ジュリアンに媚を売っていた元貴族たちだ。

彼らは今、帝国の最下層労働者として、祭りの後片付けを命じられている。


彼らは、バルコニーで光り輝くアリミヤを、眩しさと悔しさに顔を歪めながら見上げていた。


「……あら。あの方たち、まだあんなところに。お気の毒様に、腰を痛めないように気をつけていただかないと」


アリミヤは一瞬だけ彼らに視線を向けたが、すぐに興味を失ったようにレオンハルトの胸に顔を寄せた。


「……アリミヤ、彼らに何か声をかけるか?」


「いいえ。……私にとって、過去の数字を読み直す時間は一秒もありませんもの。……今は、目の前の幸せの計算を完璧にすることに忙しいのですわ」


帝国の空に、祝祭の魔導花火が打ち上がる。

かつて踏みにじられた才女は、今や誰も手の届かない高みで、真の幸福をその手に掴んでいた。
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