​『お気の毒様に?』~断罪された悪役令嬢〜

愛野かこ

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北方の辺境に、一つの馬車が停まった。


それは帝国の紋章が入った質素な護送車であり、行き先は峻険な崖の上に建つ「静寂の修道院」。

一度入れば二度と俗世に戻ることは許されない、罪を贖うための終着駅だ。


「嫌……! 嫌よ! 私はまだ若いし、美しいのよ! こんな場所に閉じ込めないで!」


エレーナが、泥のついた爪で馬車の扉を掻きむしりながら叫ぶ。

しかし、彼女を支えていたジュリアンは、その手を力なく離した。


「……もう、無理だ、エレーナ。君の心はもう、壊れてしまっている。……ここへ行けば、せめて飢えることはないだろう」


「殿下!? 私を見捨てるのですか!? あれほど愛していると言ったのに!」


「愛……。ああ、そうだったな。だが、私の愛には、もう一ペニーの価値もないんだ」


ジュリアンは虚ろな瞳で、遠くの地平線を見つめた。

彼に残されたのは、荒れ果てた小屋と、雪かきのシャベル、そしてアリミヤを失ったという永遠の喪失感だけ。


そこへ、修道女の一人が歩み寄り、エレーナに一通の書簡を手渡した。

それは、帝国皇太子妃の封蝋が施された、最後の手紙だった。


エレーナは震える手でそれを開き、血走った目で文字を追った。


『エレーナ・バートン様。
お気の毒様に? 貴女が望んだ「お姉様との絆」ですが、私は本日をもって、貴女との全ての血縁・関係の抹消を法的に完了いたしました。
貴女はもう、私の妹でも、アストレアの民でもありません。
ただの「名もなき罪人」として、静寂の中で自分の犯した計算違いを、永遠に数え続けてくださいませ』


「……ああ、ああああっ!!」


エレーナは喉が潰れるほどの悲鳴を上げ、手紙をズタズタに引き裂いた。

だが、どれほど叫ぼうと、アリミヤの心にはもう届かない。

彼女は、自分という存在がアリミヤの人生から「完全に消去された」ことを、ようやく理解したのだ。


修道院の重い鉄門が、重低音を立てて閉ざされる。

その内側には、華やかなドレスも、甘い愛の囁きも、そして彼女が執着したアリミヤの影も、何一つ存在しない。


一方、帝国の庭園。

アリミヤは、レオンハルトの膝の上で、ゆったりと読書を楽しんでいた。


「……これで、全ての『清算』が終わりましたわ、レオンハルト様」


「そうか。……もう、あの二人の名前を呼ぶ必要もなくなったな」


レオンハルトは、アリミヤの細い腰を愛おしそうに撫で、その首筋に顔を寄せた。


「ええ。……これからは、私と貴方の、新しい歴史を書き込むだけですわ。……お気の毒様に。貴方はこれから何十年も、私の贅沢な要求に付き合わされることになりますけれど?」


「望むところだ。……君の知性が導く未来なら、どんな贅沢でも安いものだ」


アリミヤは微笑み、読み終えた古い日誌を、暖炉の火の中へと投げ入れた。

過去は灰となり、今、彼女の瞳には黄金色に輝く帝国の未来だけが映っていた。
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