Under the Rose ~薔薇の下には秘密の恋~

花波橘果(はななみきっか)

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 花びら型やクマの顔が浮き出る複雑な型を光が抜いてみせると、汀の目が尊敬の色に輝いた。
 砂を詰める量や詰め加減を丁寧に指導すると、汀の腕はみるみる上がっていく。

 夢中になって遊んでいると、聡子が少し呆れたように声をかけた。

「そろそろ家に入ったらどう? 寒いでしょう?」

 タイミングよく汀がくしゅんとくしゃみをする。

「中、入るか?」
「もっとあしょぶ!」

 コツを掴みかけている汀は作業を続けたがった。

「だったら、上着着てきな」

 光の言葉に、「あい」と嬉しそうに頷いて、聡子に駆け寄り大きな声でお願いする。

「サトちゃん、うわぎ、くだしゃい」
「汀の上着はあるけど、光ちゃんは寒くないかしら?」

 聡子に言われて、汀が振り向く。
 日中の温かさとクルマ移動であることに油断して、光はシャツの上にカーディガン一枚しか羽織っていなかった。

「ひかゆちゃん、しゃむい?」
「んー、今のとこ、まだ平気……」

 言ったそばから、ひゅうっと冷たい風が吹き、光は思わずブルッと背中を震わせた。
 それをじっと見ていた汀が、ととと、と戻ってきたかと思うと、光の手を引っぱった。
 砂場の脇から立たせて、宥めるように言った。

「ひかゆちゃん。おうち、おはいり?」
「もう終わりで、いいのか?」
「ん。おちまい」

 こくりと頷いて、それから光に「いいこね」と言うので、思わず笑いが込みあげた。

「よし。じゃあ、もうおうちに入ろうな」

 外の冷たい水で軽く手を洗い、家に入ってから洗面所でもう一度よく石鹸で洗った。

「お湯はあったかいなー」
「あっちゃかいねー」

 タオルで手を拭いてやりながら、汀に告げる。

「今日、パパ来れないんだけど、俺と一緒におうちに帰れるか?」
「みぎわ、ひかゆちゃんとかえゆ」

 いい子だ。
 軽く頭を撫でると、汀は嬉しそうに笑ってリビングに走っていった。

 光がリビングに入ると、聡子が汀に白湯を飲ませているところだった。
 軽く会釈して部屋を横切り、奥の和室に入って仏壇に手を合わせた。線香の煙がまっすぐ上がってゆくのを少しの間見てから「それじゃあ、そろそろ帰ります」と、立ち上がりながら聡子に告げた。

「あ。お夕飯、用意したの。食べてって」
「え、でも……」
「汀も喜ぶし。ね」

 聡子がにこにこ勧め、汀も期待を込めて見上げる。

「清正の分はタッパーに入れたから、帰りに持っていってくれればいいし」

 本気で勧めてくれているのがわかり、光はありがたく甘えることにした。

 汀を預かることは聡子にとって嬉しいことなのだろう。
 清正には姉もいるが、結婚した相手が転勤族で今は四国か九州にいると聞いた。
 夫を亡くしてから聡子はこの家に一人で住んでいる。汀のいる賑やかな時間は、きっと大切なものなのだろうと想像した。

 食事をしながら、聡子が聞いた。

「光くん、自分のおうちにも寄ってきたの?」
「あ、いえ。たぶん留守だし」

 両親は数年前にリタイアし、父の故郷である兵庫に移り住んでいる。今は好きな仕事だけ請け負って、悠々自適の暮らしを楽しんでいた。
 光が育った家は姉一家の住まいになり、何か用があれば寄るけれど、ふだんはほとんど行くこともなくなった。

 聡子に聞かれるまま、自分の近況を話した。
 プロダクト・デザインの仕事をしていると言い、簡単に仕事内容を説明すると、聡子は感心したように何度も頷いた。
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