黒獅子公爵の悩める令嬢

碧天

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22.

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 ここタルギス王国は建国の折、王家を守る為に魔術の要素で強い筆頭四家を決めた。

 建国と共に七三九年ある家が、火のモルド家、風のキャセラック家、土のサニレー家。

 一度、交代劇があった水のレイス家。

 その四家より聖魔術が特化した子が産まれると、家を関係なくある一定の歳になると聖のタビュア家となる。よって、五家となる。

 このタビュア家は基本、本人達一代限りで存続していくので、いなくなることはないが少人数しかいない。

 それに対し、王家の者は絶対に魔術を持たずに産まれてくる。

 その代わり王家のみにある、魔術を滅する力がある。

 王となる即位の時に、四家の代表と血の誓いを交わすことにより、王家に仇名すようなことが起きれば、その報復として、どんなに薄れていようとも、自分にその家の縁戚などの自覚がなくとも魔術がその身に僅かでも備わっていたら消滅させられてしまう魔術である。

 過去に水の家であった、謀反など起こそうものなら、ただの人となってお家取り潰しとなる。



 つまり。

 四家以外に一族ごと魔術に長けた人員を輩出出来る家はないので、四家は王家を守る替わりに地位の優遇を求め、その四家を完全に掌握できる力を持つ王家はその望みを叶えた。



 それから王家、四家共に国家の安寧の為に取り決めを交わしていくことになる。

 王家は常に四家から尊ばれる国政を、それを助ける四家は王家を常に支え、お互いを監視する為にも王に近い役職などは五年交代で仕事を回していく。

 それと、王家との繋がりを強くするために建国当初は四家からの参内や、王家からの降嫁など婚姻での強化も図られたが、近年は諸外国との結びつきも強化せねばならぬ為、久しく婚姻の話はなかった。





 そして、キャセラック侯は現宰相職にある。

 自分の手元に最高権力がある時になお望むものがあるとは……



 (やはり只ならぬ笑顔の御仁といったところか)



 キャセラック侯といえば、常に笑顔を絶やさず温和な雰囲気を纏ってはいるが、隙が見えないのはさすがと言うべきか。





 それにしても。

 キャセラックの息女と言ったら、深窓の薔薇と言われるご令嬢のはず……と思い至るが、顔が出てこない。



 (?一度顔を見たら忘れないはずだが……)



 まして、この兄から変と言われる娘とは……



 「キャセラック侯のご息女は…アリアンナ様でしたか?」

 「今度はそう言っていた」

 「今度?」

 「そうだ。初めて会った時には名乗らなかったからな」

 「初めて?先程の謁見が初見ではないのですか?」

 「あぁ」





 ますます不思議な娘だ。忙しい兄といつどこであったというのか。

 まして、入城していたら分かる程の家の娘だ。





 「いつ兄上と会われたのですか?」

 「会ったという程の事でもない。さっき、西の庭園を歩いている時に見たんだ」

 「彼女を?」

 「あぁ。それもだ。魔術を使って、二階の彼女の部屋から家具を運んでいた」



 (何と?)





 「……それは、変ですね。一体何の為に?」

 「───多分、お茶だ」

 「お茶?」

 「本当のところは分からんがな。茶の道具が入った箱があって、その箱にキャセラック家の紋章が入っていたから身元は分かったんだが。何せ、尋ねたが答えなかったんだ」

 「なるほど」



 想像するにキャセラック嬢が兄に対して答えに窮したのは分かる。

 しかし。

 王城で。

 しかも女性が。

 魔術を使って家具を運ぶとは……それもお茶に?





 「確かに少々変わった方でいらっしゃるようですね」

 「だろう?」



 今度こそ、くくっと笑う兄を見る。



 (……興味を持たれたのは確かみたいだ……でも)





 「兄上は花嫁を選ばれない?」

 「む?…まぁそうだ。こちらも予定通りというわけだ。どうしてもと言われたら……破談となっても支障のない娘が来るまで延ばすさ」





 (「キャセラック嬢はよいのですか?」などと気安く聞ける名でもないか……)



 「私はいいと思いますが」

 「……来年には戦死するかもしれないが妻になれと?」

 「死ぬと決まったわけではないですよ」

 「では、お前も妃を娶れ」

 「こういうものは年功序列ですからね」



 お互い目を合わせ、にやりと笑みを交わす。



 「生きて帰れれば考えよう」

 「そうですね」





 近年、西の方よりきな臭い話が耳に入る機会が増えた。

 だから半年も前から水面下で準備を進めてきたのだ。あと半年……こちら側に少しでも有利なように開戦を迎えたい。

 そんな中で、本気でデルヴォークへ王太子の地位を返還したいと願う叔父が、実力行使に出た来たわけだが、王太子に未練はなくとも、叔父の気持ちを無下に出来ない兄はこの半年を茶番と考えている。

 そういう自分も戦場で兄に迷惑は掛けない働きをしなくてはならないので、兄の言葉ではないが、半年先に命があるか分からぬのに結婚などは元より、自分達は叔父夫婦も大事だが、従妹達も大事なので、上の従妹オルガに子が出来ぬ前に嫁を娶ろうなどは考えられないのである。





 自分達が両親を亡くしたのは、兄が十三、自分が十歳の時だ。それから父王の双子の弟である叔父が即位し、自分たちの後見として変わらずにいてくれ、王位継承権が娘のオルガに移ってもなお、継承権をデルヴォークに戻そうとするくらいには良く育てて貰った。

 兄は両親の死を無駄にせず、ひたむきに努力をし続けている。

 その兄に少しでも追い付こうと、少しでも助けになればと自分自身も成長しているつもりだ。



 従妹のオルガが即位となれば女王となる。

 近隣諸国ではまだ女王を王と認めない国もある。

 ならば、近隣を一掃しておこうと二人で決めた。

 そのくらいの恩を返すのは現陛下に捧げられることと素直に思えたからだ。


 けれど、至らない自分ではない兄に妃が来ることに反対はない。というのも嘘偽りのないデイヴェックの気持ちだ。


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