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しおりを挟む扉が開き、この執務室の主が顔を見せた。
前室で既にあらかたの衣裳を脱いできたのか、白のシャツのみの軽装だ。
しかし、無造作に切り揃えられた黒髪に濃い金瞳、遠目にでも分かる鍛え上げられた肢体は我が兄ながら同じ男して惚れ惚れする。
彼の名前はデルヴォーク・カヌア・タルギス。
この国の王位継承権第三位の男だ。
「お疲れ様」
「あぁ」
予想していたよりは機嫌が悪くない。
(何かあったかな?)
「どうだった?」
デルヴォークは自分の執務机に片手で頬杖を付き笑顔で座る、自分とよく似た男をちらりと見る。
彼の名はデイヴェック・クレイム・タルギス。
自分とは違い伸びた髪を一つに結い、身形や身のこなしなど王子然とした男だ。
しかしながら、共に戦場を駆け、政務で見せる処理能力は決して見掛け通りではない男だ。
今も普段この机にデイヴェック向かうことはないが、決裁する書類が少々溜まっていた為、兄の仕事がし易いように書類の優先順位の振り分けをしていたのであろう。
真っ直ぐ机に向かって来る兄に椅子を空ける為に、デイヴェックは立ち上がりながら謁見の様子を尋ねる。
兄のデルヴォークは着座するなり書類を読み込み始めたので、もう一つの執務机に向かう。
椅子の背もたれに深く腰を掛けながら、兄の返事を待つ。
デルヴォークは無言の弟からの視線に嘆息する。
「……予定通り陛下は俺の妃選びをしたいらしい」
「で?」
「で?」
「どうだった?妃候補」
(やはり、何あったな)
普段なら、書類から目を上げずに会話を続ける兄の手が止まり、顔を上げたのだ。
「……一言で言えば…名門、騒がしい、大人しい、だな」
「へぇ?」
(会話を続けるつもりみたいだな)
兄は顔を上げただけでなく、そのまま顔を自分に向けた。
「いや、ご令嬢方に使っていい言葉か?」
「別に聞かれてる訳ではないし、大丈夫でしょう。じゃあ、兄上のお言葉だと?」
この部屋には今、自分達二人しか居ないのに珍しく気にしている兄を初めて見たような気がして微笑ましく思う。
「……あ───他言無用だぞ」
「兄上のお心のままに」
座ったまま目礼をする。
「煩い、だんまり……へんてこ、だな」
(それだ)
「へんてこ、とは?」
「む?……ますます令嬢に向けていい言葉ではないな」
弟との会話が長くなってきたせいか、書類を読む集中力が切れたのか、デルヴォークは書類を手放し肘掛に両腕を預けている。
しかしご令嬢に「へんてこ」とは。兄がおかしくなったことを疑うより、兄に変だと言わしめる令嬢がいると考えた方が早いだろう。ただ……へんてこに対した言葉は「名門」だけだ。
本来なら正式文書として通達した内容を二人が知らぬはずはないのだが、今回は叔父である国王からの下知があり、兄デルヴォークと自分デイヴェックに極秘にされている為どこの家の娘達が集まったのか分からないのである。
兄が黙ってしまったので会話が途切れる。
(笑った?)
今、微かに口の端が上がったように見えた。
これは本格的に何かあったと言える。
聞きたいという逸る気持ちはあるが、からかいたい訳ではないから丁寧に聞いていくしかないだろう。
「兄上、どちらの家が入られたのですか?」
「あぁ。キャセラックにサンディーノ、ウィラットだ」
「!」
まさかキャセラック家が来るとは。確かに兄の地位を考えれば筆頭五家が入ってきてもおかしくはないが……
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