26 / 59
25.
しおりを挟む(……約束の時間きっかりに現れるとは限らないのね)
昨日からの住まいとなった王城の自室で、用意した茶器と共にすでに小一時間は待っている。
このタルギス王国にデルヴォーク殿下は一人しかいないので、そのたった一人が来ないとなれば終わりの来ない待ち惚けの時間が続く。
アリアンナは早朝からこの対面の時間の為に、サーシャとミシェルに整えてもらった姿である。
いつも通り……よりは大いに可憐な仕上がりになっているので、昨日のようなサーシャの気合がみなぎったご令嬢姿ではないから、キャセラック侯からの注意通り見た目からの好感度はまず問題ないだろう。
それにしても。
昨日の事をそろりと思い出してみる。
いや、ずっと頭の中にはあるがあえて記憶の消去処理を施したい程には衝撃の一日だった。
未だに「なんで?」「どうして?」が大半を占め、建設的な考えが浮かばない。
後半のサーシャからの説教も響いて頭痛の思いだ。
そして、現在殿下からの待ちぼうけを受けている。
アリアンナの支度も、用意せざるおえなくなったお茶も完璧に用意をしたはいいが当の相手が来ないのである。
お忙しいのは想像に出来るのだから一言、伝言とかは思いつかれないのかしら……それとも待たせることで試しているとか?
ただ姿勢を正したまま座っているだけなので、目を瞑っていれば後悔でこの場から逃げたくなる。
どうにか気持ちを落ち着かせても、昨夜眠れなかったせいでそのまま睡魔もやってくる。
欠伸をかみ殺す閉じた目から涙が滲む。
昨夜は、一応今日の対策を考えてもいた。
けれど良い策は何も浮かばず。
家からたった一時間程の距離なのに、王城というだけで昨日の出来事は処理しきれるわけではなかった。
いや、王城だからこそ起こるべくして起こったというか……。
とにかく。
考えることを諦めて簡素な事のみに集中しようと思ったので、淑女の基本、口を出さずにただただ笑顔でやり過ごそうと決めた。
(いっそのこと、このまま来ないで頂けたらと思うわ……)
思わず出掛かった欠伸を誤魔化すため、口元に手をやる。
窓の外を眺めれば今日も温かい日差しで絶好の外お茶日和だ。
そんな長閑のどかに柔らかな秋の日差しをアリアンナがぬくぬく浴びていると
「遅くなった」
突然の声に、驚いて目を開けると、バルコニーへと続く窓からデルヴォークが現れた。
今までの眠気も吹っ飛び、「まっ!」と大きな声を上げてしまったがそのあとの言葉は飲み込み、直ちに立ち上がる。
(……どから現れるなんて?!)
廊下側の扉の前で控えていたサーシャ達からは小さな悲鳴が上がっている。
絶句したままその場で立ち竦むアリアンナに構わず、デルヴォークは悠々と部屋に入って来る。
そして卓を挟んでアリアンナの前まで来ると労いの言葉を言う。
「待たせた」
「い…いいえ」
辛うじて目の前に現れたデルヴォークに返事を返す。
「……改めまして、アリアンナ・キャセラックと申します。……以後、お見知りおき頂ければと思います」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる