黒獅子公爵の悩める令嬢

碧天

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 部屋から見える王城内の西の庭は、落葉樹からの落ち葉で赤や黄色の絨毯を作り、落葉しない木々へと色を繋ぎ、いつ見ても、いつまで見ていても飽きることのない絵画のように日々変わっていく。



 この国の第一王子殿下デルヴォークとの二度目の謁見を果たし一週間が過ぎた。

 謁見というより視察という名の……完全な視察だった。

 いや、視察だったのかももはや怪しいが。

 デルヴォークの妃候補決めの謁見ではなく、自分を連れての視察がちゃんと出来ていたのかを確かめることも出来ず、ただアリアンナの魔術を見たいがための外出だったような……。

 ただ、アリアンナにとっては久し振りに王宮から出て遠掛けが出来たし、無事デルヴォークからの妃候補としての査定は下がったはずである。

 良しとせねばなるまい。

 で、それから何の音沙汰もない。

 自分以外の候補者との謁見状況などちらほら耳に入って来るので、否が応でもアリアンナが特殊だったのだと実感したが、殿下の花嫁見習い落選の報告はおろか、王立魔術学院への入学許可の有無も、制服ついて何もデルヴォークから連絡がない。

 今日に至っては、本来なら三回目のデルヴォークとの対面となるはずがなくなっている。



 (……待たされる、外出以外に来ないっていうのもあるのね)



 アリアンナは外を眺め大きくた溜息を吐く。

 王命としてここに集められてしまったのに、その相手が現れないっていうのはどういうことなのかしら?

 命じたなら王子の予定も義務で空けるべきなのではなくて?

 などと愚痴めいたことを考える。



 けれどぼんやり眺める外景は美しく、考えるでもない砦でのデルヴォークとのことに思いが馳せる。確かに滅茶苦茶な接見ではあったが嫌な思いはせず…むしろ……。

 デルヴォークに横抱きで移動させられたことを思い出し、頬が熱くなるとアリアンナはわけもなく焦りを感じるのである。



 そんな一人ジタバタしているアリアンナをミシェルが見つめる。

 視察?から帰ってからのお嬢様はあきらかにおかしい。

 側付きになってまだそれほどでもない自分でも分かるくらい、サーシャとも意見は一致している。

 何があったかはアリアンナから聞いているが、それ以上の何かがあったに違いない。

 なぜなら相手はあ・の・デルヴォーク殿下なのだ。

 見掛けただけで溜息が漏れる殿下と、佳麗なアリアンナの寄り添う二人……

 見たかった!!

 何としてでもついていけば良かったとどれだけ後悔しているか…!

 王宮恋愛物語への憧れはサーシャからすれば愛して止まないものである。



 サーシャが部屋に戻ると窓辺に身悶えしているアリアンナに、作業の手を止め同じように身悶えしているミシェルがいた。

 察しはするが、盛大に溜息をついて二人の気を引く。

 先程、女官長であるハンプトン夫人からの呼び出しがあり、午後の予定を言い渡されたからだ。



 ハンプトン夫人の話はこうだ。

 デルヴォークの時間が取れず申し訳ないが、急遽アリアンナ以外の花嫁候補者、ジャネス・サンディーノ嬢とエマ・ウィラット嬢を招いての茶会を開いて欲しいとの事だった。

 社交界の礼儀では、初めての挨拶や茶会などは、上位貴族から声を掛けないといけないので入城の折にも頼まれていたことだったが…



 (けれど今日の今日っていうのは……キャセラックの威光を信用し過ぎているというか……否、私の実力が試されているってことなのかしら?)



 しかし、高位の貴族の茶会で今日の今日というのは逆に失礼ってことはないのかしら。

 普通に考えたらライバル令嬢達との腹の探り合いっていうお茶会なわけでしょう?

 準備期間だけでも一か月はみて、招待状の送りあいとか……お相手の方々だって大変でしょうに。

 でも、お母様ならどうするかしら?

 ……

 ……

 ……

 ────── 受けて立ちますわね。



 貴族の最大の仕事が夜会の社交なら、女性貴族の最大の仕事はお茶会ですものね。

 まぁ、交流の一環だから仕方のないことと腹を括るしかないわね。

 サーシャから報告を受けて考え込んでしまったアリアンナにみかねたミシェルが声を掛ける。



 「お嬢様、元気出してくださいね」

 「…え?」

 「今日殿下が来られない上に、急なお茶会なんて気乗りしないのも分かります!でも他の方々に負けるわけにはいきませんからね!」

 「………え?」

 「私とサーシャさんで最高の準備を致しますから!」

 「……えぇ。それは任せるけど…」

 「未来の旦那様足る殿下が不在な時こそ妻君の真価が問われますからね!」

 「……何ですって?!」

 「何ですか?」

 「誰が誰の何ですって?!」

 「勿論、誰が見てもお嬢様の勝ちは決まっておりますが、何事も最初が肝心ですからね~」

 「お待ちなさい。ミシェル。私が何て言いました?」

 「デルヴォーク様の未来のお妃様?」

 「ミシェル!私と殿下は何っっっにも、どーともなっておりません!見てたでしょ?あの方、窓から来られて窓から帰られたのよ!その上視察ですよ。視察!今日なんて来られてもいないじゃない!」

 「分かります!だから寂しいんですよね!?でも会えない時間が恋をお育てするんです」

 「?!」



 ミシェルはうんうん、頷いているけど大きな間違いをしていることに気付いていないわね?!

 このお茶会にそんな意味は決してないはずよ!





 「とにかく。お嬢様は勝者しゅさいしゃとして安心して、もてなして頂ければ大丈夫です!」

 がしっと両手を握るミシェルに何を言えば通じるのか。

 そろりとこの騒動を静観しているサーシャを見れば目を瞑っている。



 「…サーシャ?」



 助けを求める為に声を掛けたのだがその希望は無残に散ることとなった。



 「アリアンナ様。偉大な獅子は小物でも全力で仕留めるものです。気を抜くことはなさいませんように」



 主人を見るサーシャの目は本気だ。



 (…嘘でしょ。私、何を催すことになるのかしら……)



 サーシャに握られた手にじわりと変な汗が滲んで来るのを感じるアリアンナだった。



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