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しおりを挟む支度を終えたところではたとアリアンナは気付いた。
そういえば私、王立魔術学院のローブすら持っていないわ。
制服を張り切って仕立てたのに父からの妨害にあい、デルヴォークに制服を頼んだものの届かず、結局手元に何も来ていない状況だ。
制服と言っても女生徒はドレスの上からローブを羽織るのも認められているので、華美なドレスでなければ大丈夫なのだが、そのローブがないのだ。
デルヴォークから話が通っていたら王立魔術学院の中に入れるだろうが……制服が届いていないことを察すれば望みは薄い。
ただ今日は外の空気を吸おうと決めたから馬車で外からだけでも見て来ようかと思い、それをサーシャに伝えた。
「中まで入れなくて残念でしたね~」
「仕方がないわ。急に決めたことだし、ローブもないのだもの」
午前中に本当に馬車から外壁越しに王立魔術学院の建物を見てくるだけ、をしてきたアリアンナは午後も特に急ぎの用事もないので、せっかくだからと城侍女のミシェルに王城内を案内してもらうことにした。
現在、城内にある図書室に赴くためミシェルのあとについて行く。
ミシェルが案内していく場所は様々にたくさんあり、そう小さくないアリアンナの実家の規模とは全然違うので驚きもあれば、抜け道などを教えて貰うのは楽しかった。
「ところでお嬢様はデルヴォーク殿下のこと、どうなんですか?」
楽しく連れ立って歩いていると唐突に言われた。
普通なら侍女と主が並んで歩くなど有り得ないのだが、図書室への廊下は少し奥まっていて、二人以外誰もいないので、アリアンナが許したからいつもより近い場所からのなげかけだった。
(どうって…どう答えたらいいか……)
「ん?そのお顔!昨日、お熱を出される前にもされてましたよね?お加減まだだめですか?」
「い、いいえ、違うのよ。……ちょっと考え事がまとまらなくて……」
その質問に困るのと、昨日も顔に出ていたと指摘され少し焦るアリアンナだ。
無意識に両手を頬にやる。
「……因みに、今どんな顔をしているの?私」
「ん~~~~~正直に言いますか?具体的にですか?」
「どちらも、でお願い」
「眉間にしわを寄せて嫌なものでも見たような……昨日は腕まで摩さすっていらっしゃいましたよ?」
「……そんなに?」
「はい。……ご自覚なされてないんですか?もしかしてデルヴォーク殿下のこと考えられてそのお顔なんですか?」
アリアンナを見るミシェルの顔が幽霊でも見たような顔になっている。
歩きながら話していたのだが、ミシェルが足を止めたので自然と私も歩みを止めた。
「あの超絶完璧王子を慕う顔ではないですね。というか、お相手がどうあれ恋する乙女がそんな苦虫を飲み込んだようなお顔をなさるなんて勿体ない!お嬢様がその辺のご令嬢とはかなり違うのは心得ましたが、せっかく最上級の王宮恋愛を出来るお立場なんですから、そこは向き不向きがあろうとものし上がって頂かなくては!」
「……のし上がるも何も、私、この度の妃候補のお話、聞かずに参加させられているのよ」
「はい。それはお嬢様の会話から薄々は。でも出会ってから咲く恋の花もあるじゃありませんか」
「咲く……のかしら?」
「あの、殿下に咲かないんですか?!」
「……それは見た目が?ということ?…だった見た目より中身というか……いい方だとは思うけど……」
最近は二人で過ごしていても特に肩を張らなくてもいいとまでは言わない。
自分でもその気持ちがよく分からないからだ。
ただ、そんなことを思っているアリアンナの向かいでミシェルが苦虫を飲み込んだかの顔をしている。
「……自分も含めて見目麗しい家庭で育つと殿下位の方でも美形に見えない落としあ穴が……」
ぶつぶつ小さな独り言が聞こえてくるが、あえて聞かず考えを伝える。
「私は妃になりたいのではなくて魔術師になりたいのよ」
「まぁ、お嬢様が本気で殿下とのご婚約が嫌なのであれば、私は味方になります。侯爵様との会話も聞いておりましたし、いくら家の為とはいえお嬢様に確認をせずに連れてきて花嫁候補にするとかいけないと思います。魔術の勉強をしたいと仰られるお嬢様を尊敬もしますので」
先程までデルヴォークの花嫁候補に言ったミシェルから意外な気持ちを打ち明けられ、驚きと共に感謝の気持ちが沸き上がる。
だったら、ミシェルには少しだけ話してみてもいいのだろうか。
「ありがとう、ミシェル。出会って間もない私への気遣い、こんなに嬉しく思うことはないわ」
「いいえ、お嬢様にその気がないのであれば究極逃げられなくとも出来る限りの拒否を…」
「でもね。違うのよ。……まだ自分の中でもよく分からなくて、今まで魔術の為にって登城したのに殿下と会うのは嫌ではないのよ。こんな気持ちも初めてで……」
「……」
ミシェルの会話を遮って会話を続けてしまう礼儀に欠いたが、そのミシェルからの返事がなく俯いていた顔を上げると、あんぐりと口を開けたミシェルが見えた。
(……どうしたのかしら?……変な顔をしているわね)
「え?えぇ?!お嬢様、殿下とお会いになるのお嫌じゃないんですか?!もしかして好ましいとか思ってしまうのが困っているんですか?!」
「……そう…言われると……そうなのかしら?」
「お嬢様!!」
「はい!」
急に両手を掴まれ胸元へ押される。それからミシェルの顔が間近に迫った。
「それがぁ ”恋 ”です!!」
目を輝かせて満面のニンマリを寄せるミシェルから断言される。
(こい?コイ……?)
「分かりました!大丈夫です!そこからなんですね!お任せ下さい、お嬢様!何が何でもデルヴォーク殿下の花嫁になりましょう!何なら魔・術・師・で・妃・を狙いましょう!」
「…………何ですって?」
聞き返すのにたっぷり時間を掛けてしまった。
魔術師で妃なんて聞いたことがない。
そんなミシェルはうんうん頷きながらアリアンナの両手を握る手に力を込める。
突然自分でもよく分からない気持ちに名前を付けられて、その上なんだか末恐ろしいものを目指せと言われたようで事態を飲み込むに飲み込めずなすがままになる。
呆然とするアリアンナを露とも留めず、ミシェルは鼻歌交じりに案内の続きを再開させた。
ミシェルに手を引かれ、おぼつかない足取りで連れて行かれるアリアンナだった。
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