黒獅子公爵の悩める令嬢

碧天

文字の大きさ
54 / 59

53.

しおりを挟む

 近づいてくる蹄の音を魔術で聞きながら、変装したアリアンナが椅子に座って待っていると、五分ほど経ったであろうか、馬が小屋に到着したようだった。

 扉を開け入って来た男に見覚えはない。



 「キャセラックの奴らが動き出した。こっちも移動するぞ」

 「……」



 声を聞くと先程の一人で喋っていた男の声だと分かる。



 「娘はどうした」

 「……」



 変装したアリアンナと気付かない男に親指を立て、無言で向こうの部屋を指す。

 男はちっとばかりに舌打ちをすると、隣の部屋へ確認をしに行く。

 横たわるアリアンナを男は部屋を覗くだけで目視した。



 「娘を運ぶぞ。手を貸せ」



 小声ながら怒鳴ってくる。

 仕方がないので手伝いに行くと、男は一人で袋入りのアリアンナを抱えようとしているところだった。



 「案外重いから気を付けろ、ってお前……何だか縮んだか?」

 「(!)」



 (この私に対して重いだなんて!……いくら中身が違えど由々しきことですわ)



 悔しいが声を発せばアリアンナだと気付かれてしまうので無言を貫く。

 男達の会話を思い返せば目の前の男しか話していなかったので、投げやりに交代したと指だけで伝えれば、「一言、言え」とか「薄気味悪い奴らだ」とかブツブツ言っている。

 アリアンナは袋アリアンナの足を持つときに魔術で軽くなるようにすると、男は軽くなったと声をあげた。

 そのまま袋アリアンナを馬車に積み込み男は御者台に座る。

 アリアンナは男から行き先は告げられず、ただ付いてこいとだけ指示され騎乗の人となる。

 走り出した馬車の後を風と音を頼りに、暗闇に身を投じる状況は淑女としてのアリアンナではない。

 キャセラック家の女騎士として馬車の護衛に付いて行くのだった。



 (……おかしいわね……)



 小屋から馬をどのくらい走らせただろうか。

 向かっている先はどう考えても王城。

 こんなに簡単に帰れた上に、黒幕が分かるなんて事はないはずなのだが……



 そして着いた先は王城の三の郭、外からの貴族たちが滞在する為の簡易の屋敷が並ぶ区域だった。

 その一画にある屋敷の裏口へ馬車は入っていく。

 二の郭までの貴族はアリアンナでも把握しているが、この三の郭は国内の貴族をはじめ諸外国の貴族も泊まれるようになっている為、いつも決まった家がいるわけでもなければ空いている場合もあり、今この屋敷に滞在している家が誰なのか見当もつかない。

 御者の男は慣れた様子で馬車を止めると、車内にいる袋アリアンナを覗き、動かないのを見てアリアンナに向かって手招きをする。

 馬車の中の袋アリアンナは眠り薬がよく効いているせいか、まだ眠っているようだ。

 小屋の卓がある部屋で多分アリアンナに使ったであろう薬の瓶を見つけたので、最後に麻の袋の上から男に瓶の全てを掛けておいたのだ。

 その袋アリアンナも連れていくかと思いきや、馬車に鍵を掛け自分達だけ屋敷の中へ入るという。アリアンナも大人しく従って後をついて行くと広間へ着く。



 中では貴族の格好をした男が怒鳴っているところであった。

 貴族の男はサンディーノ侯爵だった。

 怒鳴られている相手は今のアリアンナと同じ格好の男。そばに三人同じ黒装束の男達が立つ。

 男は話す気がないのかサンディーノ侯爵の怒声を相手にしていないように見える。

 そこへアリアンナと来た男が割って入る。



 「そんなにかっかするなよ、予定通りだろ?」

 「予定?キャセラック嬢を攫って来るのが?そんなことは聞いてない!」

 「旦那、今更ですよ。娘はこのまま西に渡す。あんたは自分の娘を王家の嫁に。予定通りじゃないか」

 「西に?何を言っているんだ!私は娘以外の候補者の邪魔を頼んだだけだ」

 「だから、俺の主が邪魔をしてやってるんじゃないか」

 「だったらキャセラック嬢を家に帰して貰おう」

 「主はあんたからの礼金だけじゃ足りなんだとよ」

 「……貴様、約束が違うではないか!」



 部屋に入ってから会話に加わった男と違い、アリアンナは扉を入ってすぐの壁に立っていた。

 話を聞く限り、初めはサンディーノ侯爵が画策した作戦であったが、途中から西の手が掛かった奴らに利用されることになったらしい。

 今サンディーノ侯爵と話す男の裏に別の者がいる。

その誰かが西に渡りを付けて、この暗殺者達をタルギスに招き入れた。

 考えをまとめるには一片の数が少なすぎると思っていると、いきなり扉が勢いよく開いた。

 入って来た者はアリアンナが扮している格好と同じ格好をしたまた別のフードの男。

 反応したものは部屋にいる全員。

 しかしその反応は様々だ。なんだ、どうしたと騒ぎ立てる者達に、黙って駆け寄る者。

 アリアンナは一瞬の迷いなく、入って来たフードの男と入れ違うように廊下に出た。

 黒幕が直結している黒装束達が無言を貫くならこれ以上情報は集められないだろうと判断したからだ。

 それとサンディーノ侯爵の前で斬り合いを見せるわけにはいかないし、部屋の中では魔術を本気で使うことも出来ない。



 (もう少し情報があったら良かったのですけれど、多分、袋の私がばれたと考えるのが妥当ですわね)



 廊下をもと来た階下へ下るのではなく、魔術の風を使うなら室内より外の方が何かと都合がいいので上へと上がる。

 出来れば屋根に出られたらアリアンナに分も生まれるのだが、追って来る気配は五つ。

 まさにアリアンナの勘が嫌な方に当たった瞬間だった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...