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第二章
魔法使いの弟子
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そもそもダンケルドに来た目的は、食料品店でチーズを買うためではない。
ベァナの先生である、ティネという魔導士に会うためだ。
「以前ティネさんの家で寝泊りしてたなら、今回もベァナだけなら泊めてもらえそうだし、挨拶に行っておこう」
「なるほど……確かにそれでも宿代は節約は出来ますね……とりあえず行ってみましょう。こちらです。」
ダンケルドのメイン通りには基本的に商店が並んでいる。
ティネさんはそれほど積極的に生徒を取るタイプでは無いらしく、普通の住居エリアに住んでいるようだ。
メインの通りから一本入ると雰囲気が変わった。
商店街の喧騒は無い。閑静な住宅街だ。
「表通りに比べると随分質素なのだな」
「そうですね。それでもこの辺りはまだ、比較的裕福な町民が住む地区なんです。あっ、ここがそうです」
ベァナが示した建物は二階建てで、入り口には杖と星のような印が描かれた看板が掲げられていた。星と言っても元の世界のような五芒星ではなく、小さな丸い点から四本の線が出ている形状だ。
「その看板の星はアズナイ様のマークですね。杖には魔導士の意味があるので、魔法工房には大体このマークが使われていますね」
彼女はそう言ってドアをノックした。
奥から返事が聞こえた。どうやら若い女性のようだ。
ドアが開く。
「いらっしゃいま……あれ? ベァナちゃん?」
「メアちゃん! 久しぶりですーっ!」
ドアから顔を出して出てきたのは長い金髪の少女だった。
色白でほっそりとしており、まるで妖精のようだ。
ベァナはその子の両手を取って上下にブンブン振っていた。
久しぶりの再会を喜んでいるのだろう。
しかし彼女を良く見ると……耳が少し長めでとがっている?
「ヒースさん紹介します。この子はメアラ・ヘィルちゃんって言って、見ての通りエルフ族なのです! メアちゃん、この人はヒースさんです」
「あっ、ど、どうも。メアラです!」
なぜか『ラ』を強調する。少し緊張しているようだ。
「メアラさん初めまして。ヒースです」
まさかエルフに会えるとは!
やはりここは正真正銘の異世界だった。
ベァナも綺麗だが、彼女が持っているのは女性的な美しさだ。
しかし目の前のメアラにはなんというか、中性的な美を感じる。
その事が更に妖精のような印象を与えている要因なのかも知れない。
「折角来ていただいたのですし、どうぞ中へ!」
俺たちは好意に甘え、中に入らせてもらった。
「えっ? ティネさん暫く帰ってこないの!?」
「はい。渇水になったトレバー周辺の調査をしてくるって言って、飛び出して行ってしまいました」
「あちゃー。ティネさん昔から仕事しないで研究ばっかりしてたもんね」
ベァナの言う仕事というのは多分、魔法を教える講師業の事だろう。
「でも師匠は今回、生徒の授業をきっちり終わらせてから出ていきました」
「それは本当に良かったね。私たちの時なんて、授業放置でどこかのダンジョンに行ってしまって、一か月以上帰って来なかったりしたものね」
この世界には地下迷宮があるのか。それはかなり興味がある。
それよりも生徒を放り出してダンジョン探索とか、かなりぶっ飛んでいる先生のようだ。
「あの頃、自宅通いじゃなかったのはボクとベァナさんくらいでしたからね。他の生徒は自宅からでしたので、戻って来るまで授業を延期にして……」
ダンケルドは三千人くらいの町なので、前に聞いた割合からすると攻撃魔法を使えるのは千分の一……つまり三人程度だ。
更に魔法を教えられるレベルの魔導士となると、そうそう居るものではない。
となると、競争もそれほど激しくないのかも知れない。
しかもブリジットさんが言うには、ティネさんは東側諸国で最も優秀な魔導士らしい。教えを請う人は多いだろう。
その辺の話も気になるが、そろそろ時間も遅くなってきた。
俺は本題に入るべく話を切り出す。
「メアラさん」
「はっ! はぃい!?」
緊張しているのか。それとも俺を警戒しているのだろうか。
「あの俺たち今日町に着いたばかりで宿もまだ取ってないんだけど、出来ればベァナだけでも泊めさせてもらえないだろうか? もしダメなら、良さそうな宿を教えてくれると大変助かる」
事情を話すと緊張した様子は一切消え、ハキハキと答えてくれた。
「以前……二年前くらいでしょうか。ベァナちゃんが勉強に来た時には空いている部屋があったのですが……実はその部屋はボクの部屋にしてもらっちゃいまして」
「ああ。メアちゃん結局住み込みで働く事になったんだ」
「はい。あの時は親と一緒に町に滞在していて、知り合いのお宅に泊めさせてもらっていたのですが……親が森に帰ってしまいまして」
この世界でもエルフは森の住人だった。
「魔法を勉強するために残ったのか」
「はい。エルフの里に伝わる魔法はとても数が少ないのです。ご先祖様が生活に関係ある魔法以外は必要ないっていう事で、子孫に伝えなかったと言われています」
「そうそう。メアちゃんはエルフ族の中ではちょっと変わり者なんだよねー」
「ベァナちゃん! 人前で変わり者だなんて言わないでくださいよぅ……」
「ティネさんの部屋は勝手に入ると怒られそうだし……というかそもそも魔法か何かでドアを封印してそうですよね。ここに泊まるのは無理かぁ……」
メアラの部屋というのは二人で居られないくらい狭いのだろうか?
「あの……メアラさんの部屋ってかなり狭いのですか?」
「い、いえ。多分入ろうと思えば二~三人で食事が出来るくらいの広さはあると思うのですが」
「図々しいお願いかも知れませんが、ベァナと相部屋とかはダメなんでしょうか」
「え?」
「え?」
二人同時に聞き返された。
え?
俺、何かまずい事を言ったか?
するとベァナが急に笑い出した。
「あはははっ! そりゃこんなに可愛かったら勘違いもしますよね。」
それってもしかして……
「メアちゃん、男の子ですよ」
うそ……だろ……!?
確かにずっと自分の事を『ボク』と呼んでいたのは気になっていたが……
サラサラのブロンドヘアーにこの見た目。
胸があまり無いのは……まだ生育途上故の事だろうと思ったし……
しかも名前!
メアラって、どう考えても男の子って感じの名前じゃないよな?
というかベァナさん、あなたずっと『ちゃん』付けしてましたよね!?
「一応自己紹介の時に『ラ』って強調したのですが……」
「ああメアちゃん。ヒースさん記憶喪失になってて、この世界の常識とかあまりわからないの。先に言っておけばよかったね。ごめんね」
記憶については確かにそうだが、俺への説明は……
あとラってなんだ?
ベァナの説明を聞いた彼女……いや彼の顔はみるみるうちに羞恥に満ちた表情に変わっていく。
「もっ申し訳ありません! そのような境遇にあったとは露知らず。偉そうなことを言って済みませんでした!」
「いやいや。謝るのは性別間違えた俺のほうで……」
なぜこんなにも卑屈なのだろう?
これではまるで俺がハラスメントを行っているようではないか。
「私は別に同室でも大丈夫なんだけどねー」
ベァナの話しぶりからして多分、メアラの事を男の子とは扱っていないのだろう。
それはそれでちょっと気の毒な気もするが……
「いえ、女の子と同室なんてさすがに無理です! でも男同士なら……お詫びにヒースさんにはボクのベッドを使ってもらって、自分は床の上で……」
「いくらなんでも今日会った人のベッドを占拠するなんて無理だから!」
「それじゃ……ボクも一緒にベッド使っていいですか?」
上目遣いでそう言うメアラ。
ああ……世の人たちはこうして、倒錯の世界に堕ちていくのだろうか。
「それはダメーーーっ!!」
最終的にベァナが間に入って、このやりとりは終了した。
なぜか必死な形相で止めに入る彼女だった。
ベァナの先生である、ティネという魔導士に会うためだ。
「以前ティネさんの家で寝泊りしてたなら、今回もベァナだけなら泊めてもらえそうだし、挨拶に行っておこう」
「なるほど……確かにそれでも宿代は節約は出来ますね……とりあえず行ってみましょう。こちらです。」
ダンケルドのメイン通りには基本的に商店が並んでいる。
ティネさんはそれほど積極的に生徒を取るタイプでは無いらしく、普通の住居エリアに住んでいるようだ。
メインの通りから一本入ると雰囲気が変わった。
商店街の喧騒は無い。閑静な住宅街だ。
「表通りに比べると随分質素なのだな」
「そうですね。それでもこの辺りはまだ、比較的裕福な町民が住む地区なんです。あっ、ここがそうです」
ベァナが示した建物は二階建てで、入り口には杖と星のような印が描かれた看板が掲げられていた。星と言っても元の世界のような五芒星ではなく、小さな丸い点から四本の線が出ている形状だ。
「その看板の星はアズナイ様のマークですね。杖には魔導士の意味があるので、魔法工房には大体このマークが使われていますね」
彼女はそう言ってドアをノックした。
奥から返事が聞こえた。どうやら若い女性のようだ。
ドアが開く。
「いらっしゃいま……あれ? ベァナちゃん?」
「メアちゃん! 久しぶりですーっ!」
ドアから顔を出して出てきたのは長い金髪の少女だった。
色白でほっそりとしており、まるで妖精のようだ。
ベァナはその子の両手を取って上下にブンブン振っていた。
久しぶりの再会を喜んでいるのだろう。
しかし彼女を良く見ると……耳が少し長めでとがっている?
「ヒースさん紹介します。この子はメアラ・ヘィルちゃんって言って、見ての通りエルフ族なのです! メアちゃん、この人はヒースさんです」
「あっ、ど、どうも。メアラです!」
なぜか『ラ』を強調する。少し緊張しているようだ。
「メアラさん初めまして。ヒースです」
まさかエルフに会えるとは!
やはりここは正真正銘の異世界だった。
ベァナも綺麗だが、彼女が持っているのは女性的な美しさだ。
しかし目の前のメアラにはなんというか、中性的な美を感じる。
その事が更に妖精のような印象を与えている要因なのかも知れない。
「折角来ていただいたのですし、どうぞ中へ!」
俺たちは好意に甘え、中に入らせてもらった。
「えっ? ティネさん暫く帰ってこないの!?」
「はい。渇水になったトレバー周辺の調査をしてくるって言って、飛び出して行ってしまいました」
「あちゃー。ティネさん昔から仕事しないで研究ばっかりしてたもんね」
ベァナの言う仕事というのは多分、魔法を教える講師業の事だろう。
「でも師匠は今回、生徒の授業をきっちり終わらせてから出ていきました」
「それは本当に良かったね。私たちの時なんて、授業放置でどこかのダンジョンに行ってしまって、一か月以上帰って来なかったりしたものね」
この世界には地下迷宮があるのか。それはかなり興味がある。
それよりも生徒を放り出してダンジョン探索とか、かなりぶっ飛んでいる先生のようだ。
「あの頃、自宅通いじゃなかったのはボクとベァナさんくらいでしたからね。他の生徒は自宅からでしたので、戻って来るまで授業を延期にして……」
ダンケルドは三千人くらいの町なので、前に聞いた割合からすると攻撃魔法を使えるのは千分の一……つまり三人程度だ。
更に魔法を教えられるレベルの魔導士となると、そうそう居るものではない。
となると、競争もそれほど激しくないのかも知れない。
しかもブリジットさんが言うには、ティネさんは東側諸国で最も優秀な魔導士らしい。教えを請う人は多いだろう。
その辺の話も気になるが、そろそろ時間も遅くなってきた。
俺は本題に入るべく話を切り出す。
「メアラさん」
「はっ! はぃい!?」
緊張しているのか。それとも俺を警戒しているのだろうか。
「あの俺たち今日町に着いたばかりで宿もまだ取ってないんだけど、出来ればベァナだけでも泊めさせてもらえないだろうか? もしダメなら、良さそうな宿を教えてくれると大変助かる」
事情を話すと緊張した様子は一切消え、ハキハキと答えてくれた。
「以前……二年前くらいでしょうか。ベァナちゃんが勉強に来た時には空いている部屋があったのですが……実はその部屋はボクの部屋にしてもらっちゃいまして」
「ああ。メアちゃん結局住み込みで働く事になったんだ」
「はい。あの時は親と一緒に町に滞在していて、知り合いのお宅に泊めさせてもらっていたのですが……親が森に帰ってしまいまして」
この世界でもエルフは森の住人だった。
「魔法を勉強するために残ったのか」
「はい。エルフの里に伝わる魔法はとても数が少ないのです。ご先祖様が生活に関係ある魔法以外は必要ないっていう事で、子孫に伝えなかったと言われています」
「そうそう。メアちゃんはエルフ族の中ではちょっと変わり者なんだよねー」
「ベァナちゃん! 人前で変わり者だなんて言わないでくださいよぅ……」
「ティネさんの部屋は勝手に入ると怒られそうだし……というかそもそも魔法か何かでドアを封印してそうですよね。ここに泊まるのは無理かぁ……」
メアラの部屋というのは二人で居られないくらい狭いのだろうか?
「あの……メアラさんの部屋ってかなり狭いのですか?」
「い、いえ。多分入ろうと思えば二~三人で食事が出来るくらいの広さはあると思うのですが」
「図々しいお願いかも知れませんが、ベァナと相部屋とかはダメなんでしょうか」
「え?」
「え?」
二人同時に聞き返された。
え?
俺、何かまずい事を言ったか?
するとベァナが急に笑い出した。
「あはははっ! そりゃこんなに可愛かったら勘違いもしますよね。」
それってもしかして……
「メアちゃん、男の子ですよ」
うそ……だろ……!?
確かにずっと自分の事を『ボク』と呼んでいたのは気になっていたが……
サラサラのブロンドヘアーにこの見た目。
胸があまり無いのは……まだ生育途上故の事だろうと思ったし……
しかも名前!
メアラって、どう考えても男の子って感じの名前じゃないよな?
というかベァナさん、あなたずっと『ちゃん』付けしてましたよね!?
「一応自己紹介の時に『ラ』って強調したのですが……」
「ああメアちゃん。ヒースさん記憶喪失になってて、この世界の常識とかあまりわからないの。先に言っておけばよかったね。ごめんね」
記憶については確かにそうだが、俺への説明は……
あとラってなんだ?
ベァナの説明を聞いた彼女……いや彼の顔はみるみるうちに羞恥に満ちた表情に変わっていく。
「もっ申し訳ありません! そのような境遇にあったとは露知らず。偉そうなことを言って済みませんでした!」
「いやいや。謝るのは性別間違えた俺のほうで……」
なぜこんなにも卑屈なのだろう?
これではまるで俺がハラスメントを行っているようではないか。
「私は別に同室でも大丈夫なんだけどねー」
ベァナの話しぶりからして多分、メアラの事を男の子とは扱っていないのだろう。
それはそれでちょっと気の毒な気もするが……
「いえ、女の子と同室なんてさすがに無理です! でも男同士なら……お詫びにヒースさんにはボクのベッドを使ってもらって、自分は床の上で……」
「いくらなんでも今日会った人のベッドを占拠するなんて無理だから!」
「それじゃ……ボクも一緒にベッド使っていいですか?」
上目遣いでそう言うメアラ。
ああ……世の人たちはこうして、倒錯の世界に堕ちていくのだろうか。
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