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季節は変わる
#32
しおりを挟むどうやらオーディンが国を出て、別国の王女との婚姻するかも知れないことはガイルから聞いていたが、そんなに重大なことだと認識してなかったのだろう。
会おうと思えば会えると簡単に思っていたのか、シャールが口をムッと曲げて不満な顔を見せると。
「オーディンに付いて行くこと出来ないの?」
「……え」
「レオニードに聞いたよ。付き人? 見たいな人間を何人か選んで連れて行けるって」
一瞬、何を言われているのか分からなかったが、徐々にその言葉が脳に浸透していく。
付き人としてシャールを連れて行く? そんなこと出来るわけがない。大体、シャールとオーディンが、それを望んだとして、ガイルが許可するわけがない。
「付き人は駄目だ。そんな話は絶対に公爵にするなよ]
「……どうして?」
「どうしても! そう言えば、今日のことも公爵に我儘言った見たいだけど……、いや、我儘は言ってもいいと思うけど、心配させるな。公爵がお前を凄く大切にしてるのは感じてるだろ?」
「うん……」
シャールが俯くと、昨日ガイルにオーディンと森で会う約束をしていることがバレてしまい、一度は諦めたと喋り出す。
「ガイルに言われた。オーディンに会っても後で辛くなるって、だから会わせられないって」
「公爵がそう言ったなら、その通りなのかもな」
「でも、僕はどうしても会いたかったから……」
結局、シャールはどうすればいいのか分からなくなり、レオニードに相談したと言う、彼から「会えないなら森に帰ると言えばいいですよ」と教えてもらい、その通りに言ったら、会うことを許してもらえたと嬉しそうな顔をする。
その言葉聞き、路地裏で会ったガイルの従者の話を思い出した。
シャールが我儘を言うなんて珍しいな、とオーディンも違和感を感じていたが、その話を聞いて納得した。
先程の付き人の話もレオニードの案のようだし、彼と少し話をする必要がありそうだとオーディンは思う。
ふと、シャールが何かを思い出したように「あ、じゃあ薬は?」と言い、ぱあっと笑顔を見せる。
そう言えばダニエルも、そんな事を言っていたが、オーディンには、さっぱり分からない話なので「薬?」と反芻して聞き返せば、どうやら珍しい薬を作れば、陛下に認めてもらえて、オーディンと簡単に会えるようになる、と自慢げにシャールは言う。
「……、なんだそれ?」
「え、だってね、凄い薬を作れたら王様が願い事を叶えてくれるって聞いたよ? だから僕はお願いするよ。オーディンと一緒に居たいって……」
大きな瞳を潤ませ、純粋な眼差しでシャールに一緒に居たいと言われて、今まで味わったことがないほど幸せな気分になる。
功績を称え、陛下が願いを叶えることはよくある話だが、シャールの願いが叶うとはオーディンには思えなかった。
「シャール、それは止めて欲しい」
「……オーディンは、僕が嫌い?」
「き、嫌いなわけないだろ……」
「じゃあ、どうして止めるの? 今作っている薬だって、凄く治癒度の高い薬だってレオニードは褒めてくれたよ」
オーディンは勢いよく立ち上がると、シャールの言葉を遮るように「やめてくれ」と大きな声を出した。
あまりにも強い口調で言葉を放ったせいで、驚いてダニエルが駆け寄ってくる。
「ちょっとオーディン? どうしたの」
「あ、いや……シャールが勝手なことばかり言うから……」
「あー、もしかして薬の話?」
オーディンはコクリと頷いた。
自分のために色々考えてくれるのは嬉しいが、シャール自身のことも考えて欲しいだけだった。
オーディン自身も自国に対して、愛国心など持っていない。それなのに自分と一緒にいるためだけに、身を粉にするような真似をさせられるわけが無い。国に利用されて、振り回されるシャールを想像してゾっとした。
「シャール聞いて欲しい、さっきは会えないと言ったけど、たまには会えるようにする……。それに、まだ婚姻が決まったわけじゃないし、とにかく、シャールが色々考える必要はないから、安心しろ、分かったか?」
ダニエルが「オーディン」と咎めるように名を呼ぶが、こうでも言わないとシャールが何をするか分からないし、何もさせたくなかった。
「分かった。約束ね」
「ああ……」
笑顔で嬉しそうに「約束」と言いながら、コクコク頷くシャールの姿に胸が痛む。
離れずに済む方法として、最後の望みはオーディンの婚姻相手が断ってくれることだけだ……、そうすれば王位継承権を破棄して騎士となり、国に仕える身になる。
どちらにしても、自分に利用価値が無いと分かれば陛下も納得してくれるだろうし、出来ればそうなりたい。物言いたげにダニエルが、じっとこちらを見て来るが、何も言うな、と首を横へ振って仕草で伝えた。
オーディンはくるりと向きを変え、レオニードへと視線を移すと、少し話をしたいと申し出た。「薬のことですか?」と察しのいい彼にオーディンは頷き、ダニエルにしばらくシャールの相手をするように言い、その場から少し離れた。
「シャールに薬は作らないように言ってもらいたいです」
「……それは出来ません。ただ、世間に知られないようにはするつもりです」
「……」
「ご不満ですか?」
その問いにオーディンは素直に返事をした。
「何もさせないで欲しい」
「殿下に会えなくなり、寂しくて仕方ないのです。薬を調合をすることで、前向きになってますが、それを取り上げてしまうのは酷です……」
「…………」
そう言われてしまうとオーディンも言葉が出て来なくなる。それと自分に会えなくなってシャールが寂しがっていることに、何とも言えない気持ちになった。
以前ガイルに、シャールはオーディンと会えなくなっても、寂しいと思ってくれないだろうと、伝えたことがあったが、それが間違いだったことに気が付く。
あの時は、まるでシャールに心がないような言い方をしたが、あれは自分の願望だったのかも知れない。なぜなら、無感情でいてくれたら、オーディンは欲を出さなくて済むからだ。
けれどシャールに「一緒に居たい」と素直に言われてふつふつと欲が出て来る。これは当たり前のことだった。恋しいと思う相手に、そう言われて嬉しくないわけが無いし、出来るなら今すぐにでも連れ去りたい気分になる。
「……オーディン殿下は、国を離れてしまえば、シャール様のこと忘れられそうですか? あ、それともシャール様に忘れられて平気でしょうか?」
ズキンと心臓にナイフが刺さったように痛む。
オーディンは自分がシャールを忘れることが出来るのか? の問いよりも、自分を忘れてしまうシャールを思い浮かべて胸が痛くなる。
「痛いところを付いてきますね……」
「すみません」
「忘れる……、それは無理かもしれません」
「シャール様も同じなのでは? 特にシャール様にとってオーディン殿下は初めて出来た友達です」
友達だと強調されてオーディンは言葉が詰まる。
そもそも自分がシャールに対して特別な感情を持っていることが、余計に自分の心を拗れさせている。
何も知らないシャールを騙し続け「挨拶だ」と言い、口づけをし、それこそ、いつかそれ以上を望むようになるだろう。
「愛情や友情は人によって違うのですから、今のお気持ちを大切にして下さい」
彼に諭され、オーディンが「は……」と小さく吐息を出した。
レオニードに、せっかくシャールと会えたのだから「二人の時間を楽しんで下さい」と言われて、オーディンはそれに頷いた。
シャールの元へ戻れば、お土産だと言ってダニエルが買って来た草花を嬉しそうに抱きしめていた。
「変わった物が好きなんだな……」
「うん? これは調合……に、……」
シャールが口籠らせているのを見て、薬は作るな、と言われたことを気にしているのだと思い、オーディンはシャールの目の前で跪くと。
「さっきは悪かった。やりたかったらやってもいい、どんな物が作れるのか知らないけど、でも薬に関しては皆には内緒だぞ?」
「内緒なの……? ガイルにも?」
「あー、公爵家の人間と俺だけ教えてもいい」
「分かった」
オーディンはシャールの頬へ触れると、やっと会えた僅かな時間を楽しむことにした――――。
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