聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ

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#33

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 数日後、クリフがニッコリ微笑みながら、御茶をすする姿を見て、アダムは、「仕事頂けたんですか?」と聞いた。

「ええ、騎士団へ払う半分で良いと言ったら喜んでいました」
「けど、よく了解してもらえましたね」
「それは、アダム様のおかげです」
「僕ですか?」

 どうやら、国境治安部隊に商人を引き渡した時、道端に縛って捨てて来た賊達から、二人の男に瞬く間に倒された話を聞いたらしく、その二人のうち一人がクリフと思われたらしい。

「治安部隊に悪徳商人を引き渡したのが、好印象だったのでしょう」
「そうでしたか」

 ただし契約条件として、明後日、周辺の大型獣を数匹倒し、公爵の元へ届ける必要があると言うが、それに関しては問題なさそうだった――。
 それから数日後、教会の奥にある森の獣を狩り尽くし、大きな空き地を作ると、そこにシド達が住む家が建てられる事になった。
 公爵に相談すると、建築士を何人か派遣してもらえる事になり、それなりの大きさの屋敷を建てると言う。建てる場所が少し森の奥と言う事もあり、目立つことはなさそうだった。
 クリフが建築士と使用する資材の話をしている最中、見学中のアダムの隣に来たシドに口を開いた。

「クリフさんって、何でも出来る人なんですね……」
「王族の教育係だからな、知識は豊富だ」
「そうなんですか?」
「昔は、先生と呼んでいた。その後、侍従長に就任した」

 先生だったと聞き、それには大いに頷けた。
 シドは何だかんだ言ってクリフに頭が上がらないし、だから子供時代の影響が大きい気がした。ふと、シドが教会の住居に目をやると。

「お前たちの家も少し改善する」

 ついでにアダム達の家も増築と修復すると言い、皆で勉強などが出来る広場を作る事になった。

「お金はなるべく、シドさんの為に使ってください」
「まあ、気にするな」

 騎士団に支払う数十人分の依頼料が、毎月、手元に入るのだから使い切れないと言う。それにクリフが持って来た宝石とビビアンの持っている宝石も合わせると、実際、お金は必要ないのだとシドが微笑む。
 ただ、ブラブラとだらしのない生活を送る事は許されないと、クリフが色々仕事を請け負い始め、今日は隣の町の討伐も請け負う事になっているらしく、シドは、国に居た頃より退屈しなくていい、と楽しそうだった――。


「今月は少なめですね?」

 討伐した獣や竜など、町はずれに作った解体所で検視中のクリフに声をかけた。

「ええ。あまり狩りすぎてもよくありませんから」

 先月、シドが辺りの獣を狩りすぎたせいで、更に大型の獣が近寄るようになってしまい、あまり狩りすぎても良くないとの結論に至った。
 解体した獣は町の人に配り、食べる物には困らなくなったが、元々、野菜類を好む町の人達は、クリフに保存食の加工を教えて貰い、他所へと売りに行く事が多かった。
 ふと、ビビアンが浮かない顔をしながら、アダムに近付いて来る。ジョエルが来ていると言い、暗い表情のまま口を話を続けた。

「アダム様に、お話があるそうです」
「僕……に?」

 きっと、シドを連れ戻しに来たのだろう。次に来る時は連れて帰ると宣言されていたことを思い出した。
 アダムはビビアンに笑顔作り、「大丈夫だよ」と声をかけ、待ち人の元へ向かった。
 教会とシドの屋敷の間にある、小さな憩いの場で佇む大きな影を見つけると声をかけた。

「お久しぶりです。ジョエルさん」
「御無沙汰しております」
 
 丁寧に腰を折る彼に、ここではそんな挨拶は必要ないとアダムは笑みを向ける。

「シドさんの事ですか?」
「はい、国へ帰還する話をしましたが…」
「断られたんですね」
「ええ、分かってはいたのですが、俺の言う事など聞きませんから、力ずくでと思いました」

 よく見れば、頬に生々しい傷があった。ジョエルは結局、力でも敵わず王の力を思い知ったと苦笑いしていた。
 シドは最近は近辺の大型の獣や、竜などの討伐に明け暮れているし、そのせいで戦い慣れているとアダムは助言をした。
 
「楽しく過ごしているようですね……」

 寂し気な表情を見せるジョエルにアダムは、「それで、僕に、お願い事ですね?」と聞いた。彼は申し訳なさそうな顔で、こくりと頭を縦に振る。

「では満月まで、待てますか?」
「それは、勿論ですが、もしかして……」
「皆さん勘違いしています。シドさんは僕が言っても、言うことを聞いてくれませんよ?」
「けれど……、良いのでしょうか?」

 この間の満月の時、シドがどうしてもと言うので交わったが、あの時1日寝ただけで回復した。流石にそんな話は出来ないが、ジョエルに話を端折りながら、シドは1日で目が覚めると伝えると、それなら満月の翌日に迎えに来ると言い、帰って行った。

「アダム様」

 か細い声に振り返ると、ビビアンが悲しそうな顔をしていた。

「ビビアン、いいんだよ。僕は十分幸せだから」
「ですが、シド様のお気持ちはどうされるのですか?」
「……別に一生会えなくなるわけじゃないから」
「いいえ、アダム様は分かっておられません。アダム様が生きている間、あの御方は片時も離れたくは無いはずです。シド様が、いいえ、シャルベーシャが、どれだけの年月を生きるか、ご存じですか?」

 ポロポロと流す涙を見ながら、アダムはビビアンの涙を掬った。

「知ってるよ」
「でしたら」
「仕方ないよ? 僕は人間だからね」

 こればかりは、仕方がない事だとビビアンに告げた。残された者がどれだけの悲しみに暮れるか、アダムには想像も付かないが、死を防ぐ術は無いのだからと、聖職者として、人間の世界のことわりをビビアンに教えた――――。


 ――綺麗な満月……。

 教会から裏手のアプローチを、足元を確かめる様に通った。クリフが作ってくれた小道は、薔薇の宮殿で目にした祭壇へと続く道によく似ている。
 今は陽が沈んでいて、月明かりが差しているが、両脇にある木々から、明かりがポツポツと見え隠れして、穏やかな空間だった。
 自然を利用した木々のアーチを潜り抜け、少し歩くとシドの住む屋敷が見えて来る。足を忍ばせ屋敷の玄関近くまで行くと、クリフが扉を開けた。

「いらっしゃいませ」
「こんばんは、あのシドさんは……?」
「お部屋にいらっしゃいます。ジョエルに頼まれましたか?」
「鋭いですね」
「ええ、そんな事でも無い限り、アダム様が満月に来られるなど、ありえませんから」

 クリフはニッコリ微笑み、シドの部屋まで連れ添ってくれた。シドがいない間、獣の討伐はどうするのか? と聞いて見た。

「勿論、ジョエルにやらせますよ」

 厳しい顔を見せながらクリフは子供の頃から、シドとジョエルの面倒を見てきたと言い、いつになったら二人とも大人になってくれるのかと、溜息を吐いた。どうやら、二人の国に帰る帰らないで争った時のことを言っているようで、「いい歳をして武力で喧嘩など」とぷりぷり文句を言う。
 まるで父親だ、とアダムは微笑んだ――。

 シドの部屋へと辿り着き、部屋の前でノックをする。獣人達は耳が良い、だから、既にアダムが来ている事も分かっているのに返事は無く、シーンと静まり返っている。クスっとクリフが鼻を鳴らすと扉を開け、「ごゆっくり」と頭を下げその場から去って行った。
 アダムは右手を見ながら、手に巻いた布を取った。その瞬間ポロポロと芳香の白金の粒子が零れ始める。
 どうして聖獣王を眠らせる事が出来るのか、何故、神より選ばれし血脈と呼ばれ、聖獣王が必ず聖天を愛でるのか。
 今回の事で、アダムは何となく理解出来た気がした。単純に王が暴走し、手が付けられなくなった時の制御係なのだと思った。
 そっと部屋に入り、シドの姿を探す。彼は既にベッドの上で横たわっており、一瞬、寝ているのかと思ったが、近付くと目が合い瞳はキラキラと輝いていた。

「珍しい事があるもんだな?」
「はい」
「満月は俺が誘っても絶対来ないのに、今日はどうした?」
「えーっと、一緒に寝ても良いですか……?」
「それは構わないが?」
「では、失礼します」

 ベッドへと身体を乗り上げると、彼の側に近付いた。シドがこちらを向き横になると、ニヤっと笑う。その笑みを見てアダムが何を考えて来たのか、分かっているのだと感じた。

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