34 / 41
#33
しおりを挟む数日後、クリフがニッコリ微笑みながら、御茶をすする姿を見て、アダムは、「仕事頂けたんですか?」と聞いた。
「ええ、騎士団へ払う半分で良いと言ったら喜んでいました」
「けど、よく了解してもらえましたね」
「それは、アダム様のおかげです」
「僕ですか?」
どうやら、国境治安部隊に商人を引き渡した時、道端に縛って捨てて来た賊達から、二人の男に瞬く間に倒された話を聞いたらしく、その二人のうち一人がクリフと思われたらしい。
「治安部隊に悪徳商人を引き渡したのが、好印象だったのでしょう」
「そうでしたか」
ただし契約条件として、明後日、周辺の大型獣を数匹倒し、公爵の元へ届ける必要があると言うが、それに関しては問題なさそうだった――。
それから数日後、教会の奥にある森の獣を狩り尽くし、大きな空き地を作ると、そこにシド達が住む家が建てられる事になった。
公爵に相談すると、建築士を何人か派遣してもらえる事になり、それなりの大きさの屋敷を建てると言う。建てる場所が少し森の奥と言う事もあり、目立つことはなさそうだった。
クリフが建築士と使用する資材の話をしている最中、見学中のアダムの隣に来たシドに口を開いた。
「クリフさんって、何でも出来る人なんですね……」
「王族の教育係だからな、知識は豊富だ」
「そうなんですか?」
「昔は、先生と呼んでいた。その後、侍従長に就任した」
先生だったと聞き、それには大いに頷けた。
シドは何だかんだ言ってクリフに頭が上がらないし、だから子供時代の影響が大きい気がした。ふと、シドが教会の住居に目をやると。
「お前たちの家も少し改善する」
ついでにアダム達の家も増築と修復すると言い、皆で勉強などが出来る広場を作る事になった。
「お金はなるべく、シドさんの為に使ってください」
「まあ、気にするな」
騎士団に支払う数十人分の依頼料が、毎月、手元に入るのだから使い切れないと言う。それにクリフが持って来た宝石とビビアンの持っている宝石も合わせると、実際、お金は必要ないのだとシドが微笑む。
ただ、ブラブラとだらしのない生活を送る事は許されないと、クリフが色々仕事を請け負い始め、今日は隣の町の討伐も請け負う事になっているらしく、シドは、国に居た頃より退屈しなくていい、と楽しそうだった――。
「今月は少なめですね?」
討伐した獣や竜など、町はずれに作った解体所で検視中のクリフに声をかけた。
「ええ。あまり狩りすぎてもよくありませんから」
先月、シドが辺りの獣を狩りすぎたせいで、更に大型の獣が近寄るようになってしまい、あまり狩りすぎても良くないとの結論に至った。
解体した獣は町の人に配り、食べる物には困らなくなったが、元々、野菜類を好む町の人達は、クリフに保存食の加工を教えて貰い、他所へと売りに行く事が多かった。
ふと、ビビアンが浮かない顔をしながら、アダムに近付いて来る。ジョエルが来ていると言い、暗い表情のまま口を話を続けた。
「アダム様に、お話があるそうです」
「僕……に?」
きっと、シドを連れ戻しに来たのだろう。次に来る時は連れて帰ると宣言されていたことを思い出した。
アダムはビビアンに笑顔作り、「大丈夫だよ」と声をかけ、待ち人の元へ向かった。
教会とシドの屋敷の間にある、小さな憩いの場で佇む大きな影を見つけると声をかけた。
「お久しぶりです。ジョエルさん」
「御無沙汰しております」
丁寧に腰を折る彼に、ここではそんな挨拶は必要ないとアダムは笑みを向ける。
「シドさんの事ですか?」
「はい、国へ帰還する話をしましたが…」
「断られたんですね」
「ええ、分かってはいたのですが、俺の言う事など聞きませんから、力ずくでと思いました」
よく見れば、頬に生々しい傷があった。ジョエルは結局、力でも敵わず王の力を思い知ったと苦笑いしていた。
シドは最近は近辺の大型の獣や、竜などの討伐に明け暮れているし、そのせいで戦い慣れているとアダムは助言をした。
「楽しく過ごしているようですね……」
寂し気な表情を見せるジョエルにアダムは、「それで、僕に、お願い事ですね?」と聞いた。彼は申し訳なさそうな顔で、こくりと頭を縦に振る。
「では満月まで、待てますか?」
「それは、勿論ですが、もしかして……」
「皆さん勘違いしています。シドさんは僕が言っても、言うことを聞いてくれませんよ?」
「けれど……、良いのでしょうか?」
この間の満月の時、シドがどうしてもと言うので交わったが、あの時1日寝ただけで回復した。流石にそんな話は出来ないが、ジョエルに話を端折りながら、シドは1日で目が覚めると伝えると、それなら満月の翌日に迎えに来ると言い、帰って行った。
「アダム様」
か細い声に振り返ると、ビビアンが悲しそうな顔をしていた。
「ビビアン、いいんだよ。僕は十分幸せだから」
「ですが、シド様のお気持ちはどうされるのですか?」
「……別に一生会えなくなるわけじゃないから」
「いいえ、アダム様は分かっておられません。アダム様が生きている間、あの御方は片時も離れたくは無いはずです。シド様が、いいえ、シャルベーシャが、どれだけの年月を生きるか、ご存じですか?」
ポロポロと流す涙を見ながら、アダムはビビアンの涙を掬った。
「知ってるよ」
「でしたら」
「仕方ないよ? 僕は人間だからね」
こればかりは、仕方がない事だとビビアンに告げた。残された者がどれだけの悲しみに暮れるか、アダムには想像も付かないが、死を防ぐ術は無いのだからと、聖職者として、人間の世界の理をビビアンに教えた――――。
――綺麗な満月……。
教会から裏手のアプローチを、足元を確かめる様に通った。クリフが作ってくれた小道は、薔薇の宮殿で目にした祭壇へと続く道によく似ている。
今は陽が沈んでいて、月明かりが差しているが、両脇にある木々から、明かりがポツポツと見え隠れして、穏やかな空間だった。
自然を利用した木々のアーチを潜り抜け、少し歩くとシドの住む屋敷が見えて来る。足を忍ばせ屋敷の玄関近くまで行くと、クリフが扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは、あのシドさんは……?」
「お部屋にいらっしゃいます。ジョエルに頼まれましたか?」
「鋭いですね」
「ええ、そんな事でも無い限り、アダム様が満月に来られるなど、ありえませんから」
クリフはニッコリ微笑み、シドの部屋まで連れ添ってくれた。シドがいない間、獣の討伐はどうするのか? と聞いて見た。
「勿論、ジョエルにやらせますよ」
厳しい顔を見せながらクリフは子供の頃から、シドとジョエルの面倒を見てきたと言い、いつになったら二人とも大人になってくれるのかと、溜息を吐いた。どうやら、二人の国に帰る帰らないで争った時のことを言っているようで、「いい歳をして武力で喧嘩など」とぷりぷり文句を言う。
まるで父親だ、とアダムは微笑んだ――。
シドの部屋へと辿り着き、部屋の前でノックをする。獣人達は耳が良い、だから、既にアダムが来ている事も分かっているのに返事は無く、シーンと静まり返っている。クスっとクリフが鼻を鳴らすと扉を開け、「ごゆっくり」と頭を下げその場から去って行った。
アダムは右手を見ながら、手に巻いた布を取った。その瞬間ポロポロと芳香の白金の粒子が零れ始める。
どうして聖獣王を眠らせる事が出来るのか、何故、神より選ばれし血脈と呼ばれ、聖獣王が必ず聖天を愛でるのか。
今回の事で、アダムは何となく理解出来た気がした。単純に王が暴走し、手が付けられなくなった時の制御係なのだと思った。
そっと部屋に入り、シドの姿を探す。彼は既にベッドの上で横たわっており、一瞬、寝ているのかと思ったが、近付くと目が合い瞳はキラキラと輝いていた。
「珍しい事があるもんだな?」
「はい」
「満月は俺が誘っても絶対来ないのに、今日はどうした?」
「えーっと、一緒に寝ても良いですか……?」
「それは構わないが?」
「では、失礼します」
ベッドへと身体を乗り上げると、彼の側に近付いた。シドがこちらを向き横になると、ニヤっと笑う。その笑みを見てアダムが何を考えて来たのか、分かっているのだと感じた。
15
あなたにおすすめの小説
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる