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番外編 ジークのお散歩
#03
しおりを挟むアダムが教会に戻ると、子供達が「子犬は?」と聞いて来る。
シドの家で休んでいることを伝えると、残念そうに皆が肩を落とした。
子犬姿のジークは、黄金色が混じったクリーム色のふわふわとした毛並みで、確かに愛らしい風貌だけど、獣人の姿を知っている身としては、少し複雑だった。
「皆、子犬は何れ飼い主の元に帰るから、あまり構わないようにね」
「えー……、飼い犬なの?」
「そうだよ」
飼い犬では無く、王様なんだけどね……、とアダムは微笑しながら、皆に寝るように促す。
以前は雑魚寝だったが、シドのおかげで歳ごとに四人一部屋を使えるように改良されて、年長者であるアダムとフィリップの二人は各自の部屋がある。
自分の部屋へ戻る際、フィリップの叫び声が聞えたアダムは驚いて彼の部屋をノックした。
「フィリップ! 大丈夫?」と声をかけながら扉を開けると、見慣れた子犬がフィリップに襲い掛かっていた。
――え? ジークさん?
「うはっ、くすぐったい!」とフィリップは子犬に顔面を舐められており、アダムが呆然と立ち尽くしていると、子犬が固まり、こちらとフィリップの顔を交互に確認した後、アダムに向かって飛びついて来る。
「えぇえ? どうしてここに……」
「ギャゥ! ワォン!(アダムと一緒に寝ようと思って)」
こちらの言葉は理解しているようだけど、アダムにはジークの言葉が分からない。離れようとしない子犬を見て、困ったなと思いながらも、庇護欲が湧いて来るのはどうしようもないことだった。
「あ、その犬が子供達が森で拾ったって言う迷子の子?」
「うん、そうなんだけど、シドさんの屋敷から逃げ出して来たみたい」
「アダムに懐いてるね、離れたくなくて追いかけて来たんだね」
「うん、どうしよう……」
アダムがどうすればいいのか悩んでいると、フィリップに「一緒に寝てあげたら?」と言われる。
キラキラと瞳を輝かせ、見上げて来る子犬のジーク見つめ、子犬だから大丈夫かな? と今日は一緒に寝ることにした。
机の上の聖書へ手を乗せ、一日の感謝を心の中で思い伝えていると、ジークが小首を傾げ、不思議そうにしているので、就寝の挨拶を神様に告げたことを教える。
「キャゥー(俺もする)」
「わっ、何?」
聖書の上にちょこんと座るジークを見て、粗相でもされたら困ると思い、慌てて抱き上げた。
「ジ、ジークさん! 駄目ですよ。聖書に粗相をしては」
「ギャッギャッ!(失礼だな、おい!)」
ジークを抱き抱えると、寝台へと移動した。そんなに広い寝台ではないけど、子犬のジークくらい一緒に寝れる。
少し枕を横にずらし、ジークが寝れるように場所を確保すると寝台に身を沈めた。
「今日は一緒に寝ましょう」
「ギャフン(ホントに?)」
「明日はシドさんのお屋敷で大人しくしてて下さいね」
アダムはジークの鼻面に指をあてた。
「キャゥン(無理)」
「それにしても、ジークさんが結婚ですか……、子供が出来たら次の子が王様なんですね」
「……」
ディガ国のことはよく分からないけど、現在、王であるジークの子が次の王になると思うと、アダムはちょっぴり不安になる。
婚約相手に性格が似ればいいのだけど? と、くすりと微笑するとアダムは眠りに付いた。
「キャゥ……(寝たのか? くっそ~、この姿じゃなければ……、けど、そっか俺の子に早く王になってもらえば、ここで俺も暮らせるか……)」
アダムは薄れる意識の中で、小さな鳴き声とパタンと扉が閉まる音を聞いた――――。
翌朝、目が覚めると子犬の姿は無く、シドの家へ行ったのかとアダムは確認をしに行くと、丁度ビビアンが戻って来ていた。
「あれ、ビビアン?」
「移動の途中でジーク様にお会いして戻ってまいりました」
「え、ジークさん帰ったの?」
「ええ、どうやら結婚する気になったようですよ?」
「そうなの? 急にどうして……」
「アダム様が説得されたのでしょう?」
「僕は何も言ってないよ?」
お互いに頭を斜めに傾けながら疑問と沈黙が流れる。ビビアンはさっぱりとした顔をして見せると。
「どちらにしても、今日中にはディガ国に到着するはずですから、明日にはシド様も帰って来ますよ」
「うん、ビビアンも良かったね?」
ぽっと頬を赤く染めながら「こほん」と咳払いをし、ビビアンは取って付けたかのように、忙しそうな素振りを見せ畑へと向かって行った。アダムは取りあえずクリフの元へ向かうと、ジークが国へ戻ったことを伝える。
「ああ、昨日、戻って結婚すると嬉しそうに報告されました」
「ええ? あんなに嫌がってたのに……」
「……何か目標を見つけたのでしょう、本当に単純と言うか、困った御方ですよ」
クリフはディガ国の未来が心配だと嘆息しながら、食事の準備をし始める。あまりにも多い料理にアダムが首を捻っていると「たぶん、飲まず食わずで、シド様は戻って来ると思われますので」と言いながら、楽しそうにクリフは何度も食堂を行ったり来たりしていた。
――クリフさんも寂しかったのかな……?
アダムは軽く微笑した後、教会の仕事へと戻れば、子供達が昨日の子犬はどうなったのかと聞いて来るので、飼い主が見つかって家に帰ったと伝えた。
「えー……、帰っちゃったのー?」
「しょうがないよ、飼われている子犬だったからね」
悲しそうにする子供達を見て、動物の世話をさせ、命の尊さを教えるのもいいかも知れないとアダムは思った。
教会内の掃除を皆で済ませ、お昼の礼拝に合わせて清めの水を入り口に用意していると、レナード神父が聖書を持ち祈りの準備をし始める。アダムは早速動物の話をして見る。
「神父様、子供達に動物の世話をさせたいのですが」
「ん、ああ、あの野良犬のことかい?」
「あ、いえ、あの犬は家に帰って行ったのですが、命の尊さを学ぶのに動物の世話をさせるのもいいかなと思って、出来れば山羊とかが良いと思うのです」
「うーん、そうだねぇ、それはいいけど、そうなると敷地の問題もあるからねぇ……」
迂闊だったと一瞬でアダムは後悔をした。
考えればすぐ分かったのに、目先の事しか見えてなかったことに、自分の発言の失念を言葉にした。
「そうでした。すいません、動物を飼うのは簡単なことではないですよね」
「いや、本当は良いことだと思うよ、私の方こそすまないね……、こんな辺境の教会だと寄付金も少ないし……」
「そんな、僕の方こそ……ごめんなさい」
山羊を買うとなると動物小屋もいるし、それなりの設備を整える必要がある。シドに言えば直ぐに建ててくれるだろうけど、子供達に悪影響が及んでしまうので、それは避けたいところだった。
今住んでいる自分達の新しい住まいも、シドが勝手に増築して立て直してしまったし、子供達が欲しがる物を直ぐに与えてしまうので、その辺りのことで、シドと揉めたことがある。
取りあえず、アダムは神父に謝罪をし、動物の件は一旦保留にした――。
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