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絹毛の姫様
#02
しおりを挟む謁見が終わってからは、慌ただしい日々だった。
テーブルマナーもさることながら、ダンスに、楽器に、読み書き、ありとあらゆる習い事をさせられた。
一番驚いたのが、男性器を象った造形物を銜えて喉奥まで入れることだった。こんな事までしなければいけないのかと悲しくなったが、ダーヴィンに褒めてもらいたいと懸命に練習をした。
慣れとは恐ろしい物で、何時からか、それを銜え舌を絡めていると、自分の下腹部がジンと熱を持つようになった。
当然、どうしてだろう? と疑問を持つが、そうなってしまうと堪らなくなってしまうし、閨に関する本にも興奮すると男性器はそうなると書いてあり、処理の仕方も丁寧に書かれていた。
もちろん、この練習は自室で一人行うので、つい熱を持つ自身の性器を触りたくなってしまうが、以前、謁見の時『床入りまで自分で慰めたりしないようにな』とダーヴィンに言われた言葉を思い出し、蒸気してくる熱を必死で堪え、陛下との約束を破ってはいけないと、コクリと喉を鳴らし、懸命に練習を熟した――。
月日が流れ、十五歳の誕生日、従兄のウリックが、お祝いに来てくれた。
幼い容姿だったリュシアも成長し、周りから密かに『絹色のお姫様』と呼ばれるようになった。
決して女顔で美しいという意味で付けられた呼称では無く、銀色に輝く腰まである長い髪が絹糸のように、ふわふわとそよぎ、光沢を放っているからだった。
陛下の側妻だからと言う理由で姫様と呼ばれていることが嫌で、「僕をお姫様と呼んだら口を聞かないから!」と仕えている侍女達に警告をし、その言葉がリュシアの耳に入らないように周りも気を使ってくれていた。
それなのに、従兄のウリックはあっさりと、その言葉を口にする。
「絹色のお姫様、今宵も美しいな」
「ウリック従兄さん! 僕はお姫様じゃない!」
「まあ、まあ、そんなに怒るなよ。可愛い顔が台無しだ」
ぷくっと頬を膨らましたリュシアを見て、ウリックは楽し気な声を出し笑う。彼は自分より三歳つ年上で、風魔法の使い手の中でも高魔力を誇る実力者だった。
女性からは『紳士で美丈夫』と評判で、ウリックが屋敷にくると侍女達が皆そわそわし、ぽっと頬を染めていることが多かった。
自分から見れば、ダーヴィン陛下の何十倍も劣ると思うのに何処がいいの? と疑問しか浮かばなかった。
「今年が最後だな」
「何が?」
「……分かってるくせに」
ツンと額を突かれて、ウリックが顔を近付けて来ると、風魔法でリュシアの髪をクルクルと頭上で纏め上げ、ちょこんとお団子のように頭部に鎮座させた。
子供の頃から新しい魔法を覚える度に、ウリックに悪戯をされてきたので、この程度のことは虫が止まったくらいにしか思えず、気にもならなかった。
それに、実際は、魔法が使えない自分を楽しませたかったのだと分かっていたし、言葉とは裏腹に彼なりの思いやりを多少は感じていた。
「来年は、こんな風に会うことも出来なくなるんだな……」
「……うん」
ウリックに感慨深くそんなことを言われて、リュシアも寂しくなった。
次の誕生日は十六歳だし、側妻となり王宮入をするのだから、滅多なことが無い限り王宮からは出られない、当然ウリックとも気軽に会うことは出来なくなる。
リュシアが長椅子に腰掛けながら、「年に一回くらいなら会えるよ?」と小さく呟けば、ウリックは正面の椅子に腰掛け「年に一回ね」と声を漏らし、そのまま言葉を続けた。
「まあ……、何か困ったことが起きたら俺に言えよ」
「うーん……?」
「なんだよ、不満な声出して」
「不満じゃなくて、僕の悩みは陛下が解決してくれるから、必要ないかな? って思っただけ、陛下に解決出来ないことをウリック兄さんに解決出来るとは思えないし」
その返事を聞き、「憎たらしい」と言ったウリックは、リュシアの団子頭を魔法で解くと、そのまま髪の毛で目隠しを作り視界を奪った。
「もー、見えない! 解いて」
「俺に何でも相談すると約束しろ」
約束しないと目隠しを解いてもえないので、リュシアは「約束する」と返事する。その返事を聞き、機嫌が直ったウリックは、魔法を解いてくれた。
目隠しに使われていた髪がスルっと落ち、子供っぽい嫌がらせをするウリックに、「相変わらずだね」とリュシアは溜息を吐いた。
「けど、お前、本当に側妻なんて大丈夫なのか?」
「どうして?」
「だってなぁ……、男同士の交合は凄く大変らしいし、いくら陛下が神聖魔法で治癒してくれるとはいえ、理性を保ったまま性交出来る男なんていない、しかも陛下はまだ若くてヤリたい盛りだ」
「……っ、従兄さん!」
真剣な顔で、そんなことを言われてしまい、リュシアは慌てふためいた。
ダーヴィンの使いの者がいたら、間違いなく不敬罪で捕らわれてしまうし、直接的な性交を匂わせる言い方を聞いて恥ずかしくなった。
リュシアが口を尖らせ抗議していると、ウリックは少し声のトーンを落として真剣な顔を見せた。
「普段、態度にも言葉にも出さないけど、リュシアの両親だって心の底では心配していると思う」
「そうかなぁ……」
眉を寄せたウリックが、「もちろん、俺も心配している」と溜息交じりに言う。
受巣を持って生まれただけで、陛下の側妻になるなんて馬鹿々々しいと、昔は顔を合わせる度に言われたけど、ウリックも大人に近付くにつれて受巣に関しては何も言わなくなった。
心配してくれるのは、単純に嬉しいけれど、リュシアは全然平気だった。
本音を言えば、ダーヴィンに早くこの身を捧げたいと思っていたし、彼のために様々な習い事をしたのだから、お披露目したいし、褒めてもらいたい、と心の中はダーヴィンへの想いで一杯になっていたからだ。
「もしさ、もしも……、お前がどうしても嫌だって言うなら、俺が一緒に国を出てやるよ」
「えー、そんなことしたら、絶対怒られるし、僕は嫌じゃないよ」
「……そんなこと言って、当日になって泣き出して『やっぱり僕、逃げたい』って言われても無理だからな?」
鼻を軽く鳴らし、ウリックはそう言うが、そんな日は来ないとリュシアは強く思う。陛下から逃げたいなんて絶対に思わないし、嫌なわけないのに……、と愁いを帯びた吐息を零した。
「そう言えば、結局、王妃様には会ってないのか?」
「うん、一度も会ってない」
初披露目の後日、王妃との謁見が日程に組まれていたが、具合が悪くなったと連絡が来て、一度も会う機会が無かった。
「やっぱ、あれか、お前の存在はちょっと妬ましいのかもな」
「う……、そうなのかな」
「普通さ、夫に公認の側妻が出来るなんて、誰だって嫌だろう?」
「確かに……」
それに関しては多少なりと、リュシアも気にしていた。
だから、ウリックに言い当てられてチクっと胸が痛む。けれど、盟約に関して自分の口から異議申し立て出来るはずもないし、陛下が盟約を撤廃しない限り、どうにもならないことだった。
ふと、王妃が水魔法の使い手だということを思い出し、ウリックにその話をして見る。
「王妃様は水魔法の使い手だよね?」
「ああ、代々、王族の妃は水の使い手からと決まってる。神聖魔法と相性がいいし、余程のことがない限り、他の属性の女は娶らない」
水魔法の使い手に生まれた娘は幼い頃から精神教育を受け、王家に嫁ぐことをだけを叩き込まれるが、男に生まれた場合も王宮勤めを任命されることが多かった。
風は開発に役立つ魔法なので、幼少の頃は遊びが中心で、ウリックも含め、風魔法使いは悪戯好きが多い。
土は博識で知性を活かした物作り、火は武術に長けており戦いに特化している。全ての魔法属性は役割が決まっており、上手く共存できるように各自使命が授けられているため、四属性に優劣は無かった。
指先からしゅるしゅると渦巻を起こし、ウリックは、「考えて見れば――」と話を続ける。
「王妃だって政略結婚のようなものだし、陛下に愛情なんてないのかもな、だとすると、お前のことも気に留めてない可能性もあるな」
「そうだといいけど……」
側妻が成人と同時に王宮入すると聞かされ、王妃としての立場や、葛藤があるだろうし、しかも男の側妻など、どう接すればいいのか悩むのは当然だ。
けれど、ウリックの言う通り、気に留めていない可能性もある。どちらにしても、自分は側妻なのだから王妃から虐げられても仕方がないし、それでも構わないと思っていた――――。
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