魔法の盟約~深愛なるつがいに愛されて~

南方まいこ

文字の大きさ
25 / 43
愛しの番

#25

しおりを挟む
 
 それから月日が流れ、出産を控えたリュシアは、隣町のゲルマンの所に泊まり込んでいた。
 セレスが自分の元を去る時、自分達が本当は魔法王国から逃げて来たことや、リュシアがどういう立場の人間なのかを、ゲルマンに説明してくれた。
 わけありなのは、彼も分かっていたので、それに関しては驚きはしなかったが、リュシアが魔法王国ベルヴィルの国王陛下の側妻だと知り、それは大事おおごとだとゲルマンは頭を抱えていた。
 セレスは生まれて来る子供が成長して手がかからなくなるまで、ゲルマンの所で面倒を見て欲しいと言い残すと、リュシアの元から去っていた。

「リュシア……」
「はい?」

 診療所の周りをリュシアが掃除しているとゲルマンに呼ばれる。

「あまり動き過ぎるなよ、それにそんなことしなくてもいい」
「ですが、ただで御厄介になるわけには……」
「それに関しては旦那……、じゃなくて従者が大量に金を置いてったからいいと言っただろ? しかも、知らない間に壁の修復まで……」

 いくらセレスがお金を置いて行ったとはいえ、居候には違いないのでリュシアはそのことをゲルマンに伝える。

「いいえ、それはセレスのお金で、僕のお金じゃありませんし、壁の修復も気にすることではありません」
「……頑固だな、似た者同士とは、お前達のような人間を言うんだろうな」

 苦笑するゲルマンから、セレスと似ていると言われたことに、リュシアは微笑した。
 午前中の診察が終わり、昼食の準備をしにゲルマンの自宅へと戻ると、塩が足りなくなっていることに気が付いたリュシアは、買いに出かけることにした。
 馴染みの露店へ出向き調味料を買い足し、診療所へと戻ろうとして、見知った姿に足が止まった。
 
 ――え……、ウリック……従兄にいさん?

 青碧色の髪に、魔法ローブに身を包んだウリックが、ゲルマンと何か揉めているのが見え、早く逃げなきゃいけないと頭が警告する。
 咄嗟に羽織りを頭から被り、リュシアは踵を返すと、急いで町の中心へ向った。

 ――どうしよう……。
 
 今、戻れば、捕まって国に戻されるのは言うまでもない。
 自分一人ではやり過ごすのは無理だと判断したリュシアは、馬車を見つけると隣町まで行って欲しいと伝えた。

「ノルマントなら、100ルークだよ」
「あ、手持ちは無いのですが、送って頂いた先で、お支払いでも良いでしょうか?」
「うーん、本当は先払いだけどね……、いいよ」
「ありがとうございます」

 妊婦だと分かったからなのか、馬車の主は快く引き受けてくれた。
 急いで馬車に乗り込むと、馬車が走り出す。
 診療所の周辺を通り過ぎる際、小窓からこっそり様子を伺ったが、ウリックの姿はもう無かった。
 どちらにしても、この町に居ては見つかってしまう可能性の方が高いし、じっとはしていられなかった。
 こんな時ばかり頼るのは申し訳ないけど、ハンナに助けを求めて一旦やり過ごすことをリュシアは考えた。
 ふと、ノルマントへ向かう道ではない気がしたが、気のせいかも知れないと思い直す。しばらくして、小窓から外の様子を見るが、やはり道が違うと思い、馬車の主に声を掛けたが、聞えてないようだった。
 どうすれば良いのかも分からず、馬車が停まるのをひたすら待っていると、ようやく停車した。

「着きましたよ」
「え……、ここノルマントじゃないです……」

 断崖絶壁に建てられた大きな屋敷が目の前に見え、後を振り返ると緩やかな坂道の一本道だった。

「ここは収集家の家でね、珍しい物を買い取ってくれるんだ」
「え……」
「絹毛なんて珍しいから、相当高く買ってくれそうだ」  

 リュシアは随分前に、珍しい髪色は売り物になるから、気を付けろと言われたことがあったのを思い出した。
 最近は診療所の周辺しか移動範囲がなく、人口も多くないことから、髪の毛のことをすっかり忘れていた。
 セレスにあれだけ注意を受けていたのに、薬を飲むのを忘れていたことを今更のように後悔した。

「妊婦のようだし、ササっと髪を切られるだけで済む、さあ行こう」

 男がリュシアの腕を引っ張るが、本当に髪を切るだけなら、ここで切ればいいと思い、それを男に伝える。

「髪の毛が必要なんですか? それなら、ここで切ります」
「……っ首から上が必要な場合もあるんだよ」

 男の首から上という言葉を聞き、ぞっとする。
 咄嗟にリュシアは男の腕を振り切り、転がるように坂道を下った。急に動いたからなのか、お腹にキンっと痛みが走る。

 ――ごめん、今だけ我慢して……。

 リュシアは、お腹を両手で抱え逃げるが、直ぐに追いつかれてしまう。息を切らした男の形相はかなり怒っており、振りかざした手が見え、殴られると覚悟して目を瞑った瞬間、そのままバシっと叩かれた。
 力いっぱい殴られたせいで、耳鳴りと脳震盪が起きて、リュシアは地面に体を打ち付けた。

「痛ぃ……!」
「素直に言うこと聞いていれば、痛い思いをせずに済んだんだ」

 殴られた衝撃で片方の肩が外れてしまったようで、激痛で視界が歪んだ。男は、「ったく、手間かけさせんな」と怒りのままリュシアの腕を捻り上げた。
 大人しく言うことを聞いたからと言って、命が助かる保証はないことぐらい、世間知らずな自分でも理解していたし、だから何としても逃げ出したかった。
 けれど、リュシアより遥かに大きい男の体格の差に勝てるわけもなく、ずるずると引き摺られるまま、屋敷へと連れていかれる時、リュシアは馬車を見て、一か八かで馬に向かって足元にあった小石を蹴飛ばした。
 それが上手く当り、馬が驚いて立ち上がると暴れ出し、「どうした?」と男が慌てて馬車へと駆け寄る。
 男の意識が馬へ向いているうちに、急いで逃げ出したが、その先は崖で道がなかった。
 どうしよう……、とリュシアが考えていると、男の怒号で、「おい! 危ない!」と聞こえた。
 その瞬間、身体にぶつかる重い衝撃を受けて、ふわりと身体が浮いた――――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

悪役令嬢の兄、閨の講義をする。

猫宮乾
BL
 ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。

処理中です...