1 / 1
キショウテンケツ
しおりを挟む
男は凡夫だった、何も取り柄も持ち合わせず、一人三十路を迎え、自らの非凡さを信じる若さすら失いかけていた。
「別に死んでも良い」
死にたいわけではないが、心残りや生への執着もない。
何か大きなことを成す筈だったというボンヤリとした未練があるが、一度でも明確に何かを成し遂げようと画いた事もないのだ。
日々変わらぬ時を過ごし、与えられた仕事は新卒でも1日で覚えられるようなものばかり、やりがいはなく業務効率を上げたところで昇進や昇給もなく、それをよしとしてのうのうと生きる同僚に睨まれるだけだ。
やる気が無いなりに、足並みを揃え息を潜めなければならない。
出世を知らぬ底辺に処世術など必要なさそうなものだが、
ある日の帰路、絡まれている女性を見かけた、腕を掴まれ因縁を付けられているようだ。暴力とは無縁の男は、当然目をそらす。
頭の中では色々と妄想にふけるもので、油断している背後から蹴りかかるだとか、持っている鞄で頭を殴りつけるとか、いやそれよりそこの居酒屋の看板が良さそうだ、とか。
そうこう思案しているうちに自宅の玄関の前に立っている。
即席麺に湯を注ぎながら、風呂場で頭を洗いながら、もういつから洗っていないかわからない枕に頭を沈めながら、また考える。
あのときは女性だったから助けられなかった、下心があると思われそうだとか、2人は付き合ってて痴情のもつれで俺なんかが手を出したら逆に女性が怖がるかもしれないだとか、家に付いてからの思考は言い訳に転じていた。
こうしていつの間にか眠りにつき、また1日が終わる。
翌朝、男は寝過ごし慌てて家を出た。そのようなときに限って忘れ物をしてしまうもので踵を返し家に向かう。そして些細な不幸もまた続くもので、つまづき、膝を擦りむく。
ズボンごしに血が滲み濡れている感覚があるが、急いでいるのだ「怪我しているのだろうが、黒いズボンで助かった。血が目立たない」としか考えない。今は遅刻への恐怖に脳を支配されている。職場に着いたらエレベーターで自分のデスクへ向かうか、それとも階段の方が早いか、左手でドアをあけタイムカードを取る右手はスムーズに使えるように鞄は脇に抱えようだとか。
なんとか間に合い、息を切らす姿に10年も同僚をやっている男から嘲るような笑顔を向けられる、それにへへっと愛想笑いをし、息を整えながら膝に手をついて怪我していたことを思い出す。
そしてまたこう思う「ズボンが破れていなくて良かった」と、
その夜、男はシャワーを浴びるまで怪我していたことを忘れていたが、ふとまた昨日の事を思い出す。
子供の頃は膝を擦りむいただけで悲しくて怖くてこの世の終わりのようだった、母親や優しい友達がどんなになぐさめてくれても怪我は治らないし、痛いのも悲しいのも終わらない。人の痛みだと思って簡単に言いやがってと、なぐさめてくれている相手を睨みつけたり悪態を付いたりもしたはずだ。
それが、たかだか遅刻への恐怖で痛みなど感じず悲しみも怪我の恐怖も無かった。
ということは「死んでも良いと俺は思っている、そして痛みも気にしなければ大したことはない。次、また同じようなことがあれば、きっと次は助けよう。でも女性だとやはり面倒だ、男の人が絡まれていたら助けよう。そして男同士、酒を飲もう。断らないはずだ、助けてくれた人間の飲みの誘いを。」妄想は止まらない、しばらく無かった承認欲求が脳を満たしていく。
男の妄想は、いつしか使命感に変わっていた。
ただこの歳までうだつの上がらない男は何かにつけて言い訳をしてしまう。そんな自らの性格をもちろん理解しているがゆえに、自分を追い込むシチュエーションを構築する。
助けるなら男がいい、でもその後酒を飲むのであればあまりに年上だとなんとなく説教されそうだし、逆に若いと恩着せがましい。
同い年くらいで明らかにやられている状況、あとから「助けて貰わなくてもなんとか出来た」などと言われると悔しいし、自分の決意が無駄になる。
敵に襲いかかる時は、殺してしまうような攻撃はダメだ、反撃されて自分が死ぬのはかまわないが刑務所で余生を過ごすのは辛すぎる。長らく連絡すら取っていないとはいえ両親や親戚にも迷惑がかかる。
そして明らかな悪でないといけない、その判断基準は難しい。
積み重ねた細かなシチュエーションや条件は、そう起こる事ではない、そう思っているからこそ「絶対」やると決意したのだ。
だがその起こりえないはずであったシチュエーションは翌夜には訪れる事になる。
すべての条件のうち最も重要で難しいだろうとふんでいた「明らかな悪であること」が簡単に満たせてしまったからだ。
絡んでいる輩は、先日女の腕を掴んでいた男だった。
絡まれている男は年の頃は自分と同じくらい、ほかの条件も満たしている。
「いけ」
「いってしまえ」
「とべ」
自殺する者が自らにかけるであろう言葉が頭に浮かび、持っていた鞄で全力で頭を殴り、絡まれていた男の手を掴んでメチャクチャに逃げる。
倒したかどうかは関係ない、長引けば負ける、勝ち負けは重要ではないが構築したシチュエーションや条件を満たすのに負けはいただけない。酒も飲みに行けない、下手すれば暴行でこちらが逮捕される可能性もある。
想定しうる全ての状況において逃げだけが勝ちであり条件を満たすのだ
通勤で使う道、明日からこの道は使えない、これからは毎日遠回りする事になるが仕方ない。いっそ駅も一つ遠くするか?最寄り駅は男やその仲間に待ち合わせされるかもしれない。
また妄想で頭を満たしてた事に気づいたのは、もう走れないと息を切らしながら適当な店に入った時だった。
手首を強く握られた男も同じく息を切らしていた。
楽しい夜になった、英雄になった気分だ、助けた男はAと名乗り、男を褒め称えた。
ついつい酒が進み、どうやって家に帰って来たのか覚えていない。気付けば翌日の夕方だったが、とても起きられない、電話には職場から大量の着信があっているのだろう。
動けるようになった頃、日は完全に落ちていた。
「1日寝てたな」
独り言が大きく部屋に響く。何か食べないといけない、冷蔵庫を開くが大した物はない。
適当に着替えてコンビニへ出かけようとすると携帯が無いことに気付き、焦るがそのまま昨日の店に行くことにした。
酔う前だから店の場所はわかるが、店の名前もわからないし、なにより携帯が無いのであれば店名がわかったところで連絡先を調べることも電話もできない。不便な世の中になったものだ。
店を訪ねると、店員から
「ちょうどお連れ様もお越しですよ」
と思いがけない反応をされ、そのまま席に通された。そこにはAが待っていた。
「やあ、昨日はありがとう。」
Aは昨日の礼を改めてしたいと思ったが連絡先を交換していなかったのでこの店に来れば会えるかもしれないと訪れたらしい。
男が携帯を忘れていた事もわかり、そのまま店で待てば来るなら今夜だろうと。
昨日のことはあまり覚えていないが、助けたのは賢く機転の利く礼儀正しい男だったのかとまた誇らしくなった。
Aも再会を喜んでいるように伺える。
「昨日の話だけど~」
感謝や男を賞賛する言葉が続くものだろうと男は思っていたが、続く言葉は想像と違っていた。
「いつやる?異星人殺し。君のような同胞との出会い、本当に嬉しいよ。」
Aはかまわず続ける。
すぐにわかったAは狂っている。
地球には異星人がいて奴らの血は青いだとか、暴力的だとか。
昨日は高揚していたし、大量の酒も手伝って上手く話が噛み合っていたのかもしれない。
あまりに突飛なAの話にジョークなのかとも過るが、その表情は真剣であり嬉々として語る様はAの気が触れている事を証明するに容易かった。
だが、男もまた決めていた。
「シチュエーション、、、」
「なに?」
男の独り言にAは一瞬言葉を遮られるが、また異星人殺しの計画を語り出した。男の決めていたシチュエーションは、可能なら助けた相手と友達になること、それからその友達の助けになろうと。
「早速いこう!早い方がいい!武器も用意してきたんだ!今いこう!」
話はスムーズに進む。
報復を恐れあの通りを警戒しているように、異星人も男とAを探して躍起になっているはず。あの場所に行けば必ず異星人がいる。
いつかほとぼりが冷めればあの道を通ることもあるかもしれないとは思っていたが、まさか翌日にまた行くことになるとは思わなかった。
しかしもう店を出て足は現場へ向かっている、
昨日も倒したんだ、こんどは仲間もいる。異様な状況にまたしても高揚した男だったが
すぐに後悔する事になる。
現場にたどり着く前に見つかった。見つけたのか見つかったのか、そして敵も1人ではなかった。
すぐに人気のない場所へ連れて行かれる2人。
「昨日はふざけたこと言いやがって 」「おまえらいかれてるよ」罵声を浴びせられながらうらぶれた貸し倉庫へと連れてこられた。
人通りはない。そもそも連中が溜まり場にしている為夜は人が近づかないのだろう。
そしてどうやら元々Aが失礼なことを言ったようだ、つまり異星人だなんだという話である。
「地球は長いのか?板に付いてるな」この状況でも煽り続けるAは男達を本当に異星人だと確信しているようだった。
男達の怒りの発言は全てAからすれば上手い演技で異星人であることをごまかしているとしか受け取っておらず、男達からすれば煽り続けるイかれた男とその仲間だ、と。
男は悟っていた、もう今夜殺されるか運が悪ければ障害が遺り家族に迷惑をかけるのだろう。相手は何人だろうか。5人?7人はいる。絶対に勝てない。死ぬ今日死ぬ
突き飛ばされ、通常であればよろめく程度であろうが、死を悟り身体に力が入らない男はそのまま倒れこみ顔面から地面に突っ込む。土と草の味が口に広がる。
倉庫を照らす外灯に小さな蛾がちらつくのを見て、綺麗だなと思う。
そんな自分をやけに冷静な自分自身が客観視している。
土と草の味、蛾の踊り、次の瞬間訪れるであろう痛みへの恐怖、明日も仕事を休むのか、と頭を過るが明日は日曜だからどうせ休みだったかと鼻で笑う。
死を覚悟した脳は本人の力の及ばないスピードで回り続け、さらに加速し全ての情報を同時に処理しようとする。
その全てが無駄になる
Aは取り出した柄の長いハンマーで躊躇なく男達の1人の頭を叩き割った。ほとばしる血は、想像に容易く赤いものだと疑わなかったがAは笑みがこぼれるのを我慢できないといったひきつった顔で
「ほっほら!!なっ?やっぱり思った通りだ!コイツらの血は青い!!!」
Aは次々と男達を急襲していく
「こいつも!こいつもだ!ほら!」
獲物だと思っていた相手に突然牙を剥かれ、腰を抜かした者もいるが容赦なくハンマーを打ち付けていく。
逃げ場がないようにしていた7人は自らの狩り場で全員が絶命した。
あるいは虫の息なのかもしれないが、区別は付かない。
男は口の中の土の味と血をまとめて地面に吐き出しながやっと立ち上がる。
外灯に照らされたその血を見てAが言った
「奴らの血か?」
原題「色盲のキチガイ」
コンプライアンスの問題により「異星人殺し」に変更。
完
「別に死んでも良い」
死にたいわけではないが、心残りや生への執着もない。
何か大きなことを成す筈だったというボンヤリとした未練があるが、一度でも明確に何かを成し遂げようと画いた事もないのだ。
日々変わらぬ時を過ごし、与えられた仕事は新卒でも1日で覚えられるようなものばかり、やりがいはなく業務効率を上げたところで昇進や昇給もなく、それをよしとしてのうのうと生きる同僚に睨まれるだけだ。
やる気が無いなりに、足並みを揃え息を潜めなければならない。
出世を知らぬ底辺に処世術など必要なさそうなものだが、
ある日の帰路、絡まれている女性を見かけた、腕を掴まれ因縁を付けられているようだ。暴力とは無縁の男は、当然目をそらす。
頭の中では色々と妄想にふけるもので、油断している背後から蹴りかかるだとか、持っている鞄で頭を殴りつけるとか、いやそれよりそこの居酒屋の看板が良さそうだ、とか。
そうこう思案しているうちに自宅の玄関の前に立っている。
即席麺に湯を注ぎながら、風呂場で頭を洗いながら、もういつから洗っていないかわからない枕に頭を沈めながら、また考える。
あのときは女性だったから助けられなかった、下心があると思われそうだとか、2人は付き合ってて痴情のもつれで俺なんかが手を出したら逆に女性が怖がるかもしれないだとか、家に付いてからの思考は言い訳に転じていた。
こうしていつの間にか眠りにつき、また1日が終わる。
翌朝、男は寝過ごし慌てて家を出た。そのようなときに限って忘れ物をしてしまうもので踵を返し家に向かう。そして些細な不幸もまた続くもので、つまづき、膝を擦りむく。
ズボンごしに血が滲み濡れている感覚があるが、急いでいるのだ「怪我しているのだろうが、黒いズボンで助かった。血が目立たない」としか考えない。今は遅刻への恐怖に脳を支配されている。職場に着いたらエレベーターで自分のデスクへ向かうか、それとも階段の方が早いか、左手でドアをあけタイムカードを取る右手はスムーズに使えるように鞄は脇に抱えようだとか。
なんとか間に合い、息を切らす姿に10年も同僚をやっている男から嘲るような笑顔を向けられる、それにへへっと愛想笑いをし、息を整えながら膝に手をついて怪我していたことを思い出す。
そしてまたこう思う「ズボンが破れていなくて良かった」と、
その夜、男はシャワーを浴びるまで怪我していたことを忘れていたが、ふとまた昨日の事を思い出す。
子供の頃は膝を擦りむいただけで悲しくて怖くてこの世の終わりのようだった、母親や優しい友達がどんなになぐさめてくれても怪我は治らないし、痛いのも悲しいのも終わらない。人の痛みだと思って簡単に言いやがってと、なぐさめてくれている相手を睨みつけたり悪態を付いたりもしたはずだ。
それが、たかだか遅刻への恐怖で痛みなど感じず悲しみも怪我の恐怖も無かった。
ということは「死んでも良いと俺は思っている、そして痛みも気にしなければ大したことはない。次、また同じようなことがあれば、きっと次は助けよう。でも女性だとやはり面倒だ、男の人が絡まれていたら助けよう。そして男同士、酒を飲もう。断らないはずだ、助けてくれた人間の飲みの誘いを。」妄想は止まらない、しばらく無かった承認欲求が脳を満たしていく。
男の妄想は、いつしか使命感に変わっていた。
ただこの歳までうだつの上がらない男は何かにつけて言い訳をしてしまう。そんな自らの性格をもちろん理解しているがゆえに、自分を追い込むシチュエーションを構築する。
助けるなら男がいい、でもその後酒を飲むのであればあまりに年上だとなんとなく説教されそうだし、逆に若いと恩着せがましい。
同い年くらいで明らかにやられている状況、あとから「助けて貰わなくてもなんとか出来た」などと言われると悔しいし、自分の決意が無駄になる。
敵に襲いかかる時は、殺してしまうような攻撃はダメだ、反撃されて自分が死ぬのはかまわないが刑務所で余生を過ごすのは辛すぎる。長らく連絡すら取っていないとはいえ両親や親戚にも迷惑がかかる。
そして明らかな悪でないといけない、その判断基準は難しい。
積み重ねた細かなシチュエーションや条件は、そう起こる事ではない、そう思っているからこそ「絶対」やると決意したのだ。
だがその起こりえないはずであったシチュエーションは翌夜には訪れる事になる。
すべての条件のうち最も重要で難しいだろうとふんでいた「明らかな悪であること」が簡単に満たせてしまったからだ。
絡んでいる輩は、先日女の腕を掴んでいた男だった。
絡まれている男は年の頃は自分と同じくらい、ほかの条件も満たしている。
「いけ」
「いってしまえ」
「とべ」
自殺する者が自らにかけるであろう言葉が頭に浮かび、持っていた鞄で全力で頭を殴り、絡まれていた男の手を掴んでメチャクチャに逃げる。
倒したかどうかは関係ない、長引けば負ける、勝ち負けは重要ではないが構築したシチュエーションや条件を満たすのに負けはいただけない。酒も飲みに行けない、下手すれば暴行でこちらが逮捕される可能性もある。
想定しうる全ての状況において逃げだけが勝ちであり条件を満たすのだ
通勤で使う道、明日からこの道は使えない、これからは毎日遠回りする事になるが仕方ない。いっそ駅も一つ遠くするか?最寄り駅は男やその仲間に待ち合わせされるかもしれない。
また妄想で頭を満たしてた事に気づいたのは、もう走れないと息を切らしながら適当な店に入った時だった。
手首を強く握られた男も同じく息を切らしていた。
楽しい夜になった、英雄になった気分だ、助けた男はAと名乗り、男を褒め称えた。
ついつい酒が進み、どうやって家に帰って来たのか覚えていない。気付けば翌日の夕方だったが、とても起きられない、電話には職場から大量の着信があっているのだろう。
動けるようになった頃、日は完全に落ちていた。
「1日寝てたな」
独り言が大きく部屋に響く。何か食べないといけない、冷蔵庫を開くが大した物はない。
適当に着替えてコンビニへ出かけようとすると携帯が無いことに気付き、焦るがそのまま昨日の店に行くことにした。
酔う前だから店の場所はわかるが、店の名前もわからないし、なにより携帯が無いのであれば店名がわかったところで連絡先を調べることも電話もできない。不便な世の中になったものだ。
店を訪ねると、店員から
「ちょうどお連れ様もお越しですよ」
と思いがけない反応をされ、そのまま席に通された。そこにはAが待っていた。
「やあ、昨日はありがとう。」
Aは昨日の礼を改めてしたいと思ったが連絡先を交換していなかったのでこの店に来れば会えるかもしれないと訪れたらしい。
男が携帯を忘れていた事もわかり、そのまま店で待てば来るなら今夜だろうと。
昨日のことはあまり覚えていないが、助けたのは賢く機転の利く礼儀正しい男だったのかとまた誇らしくなった。
Aも再会を喜んでいるように伺える。
「昨日の話だけど~」
感謝や男を賞賛する言葉が続くものだろうと男は思っていたが、続く言葉は想像と違っていた。
「いつやる?異星人殺し。君のような同胞との出会い、本当に嬉しいよ。」
Aはかまわず続ける。
すぐにわかったAは狂っている。
地球には異星人がいて奴らの血は青いだとか、暴力的だとか。
昨日は高揚していたし、大量の酒も手伝って上手く話が噛み合っていたのかもしれない。
あまりに突飛なAの話にジョークなのかとも過るが、その表情は真剣であり嬉々として語る様はAの気が触れている事を証明するに容易かった。
だが、男もまた決めていた。
「シチュエーション、、、」
「なに?」
男の独り言にAは一瞬言葉を遮られるが、また異星人殺しの計画を語り出した。男の決めていたシチュエーションは、可能なら助けた相手と友達になること、それからその友達の助けになろうと。
「早速いこう!早い方がいい!武器も用意してきたんだ!今いこう!」
話はスムーズに進む。
報復を恐れあの通りを警戒しているように、異星人も男とAを探して躍起になっているはず。あの場所に行けば必ず異星人がいる。
いつかほとぼりが冷めればあの道を通ることもあるかもしれないとは思っていたが、まさか翌日にまた行くことになるとは思わなかった。
しかしもう店を出て足は現場へ向かっている、
昨日も倒したんだ、こんどは仲間もいる。異様な状況にまたしても高揚した男だったが
すぐに後悔する事になる。
現場にたどり着く前に見つかった。見つけたのか見つかったのか、そして敵も1人ではなかった。
すぐに人気のない場所へ連れて行かれる2人。
「昨日はふざけたこと言いやがって 」「おまえらいかれてるよ」罵声を浴びせられながらうらぶれた貸し倉庫へと連れてこられた。
人通りはない。そもそも連中が溜まり場にしている為夜は人が近づかないのだろう。
そしてどうやら元々Aが失礼なことを言ったようだ、つまり異星人だなんだという話である。
「地球は長いのか?板に付いてるな」この状況でも煽り続けるAは男達を本当に異星人だと確信しているようだった。
男達の怒りの発言は全てAからすれば上手い演技で異星人であることをごまかしているとしか受け取っておらず、男達からすれば煽り続けるイかれた男とその仲間だ、と。
男は悟っていた、もう今夜殺されるか運が悪ければ障害が遺り家族に迷惑をかけるのだろう。相手は何人だろうか。5人?7人はいる。絶対に勝てない。死ぬ今日死ぬ
突き飛ばされ、通常であればよろめく程度であろうが、死を悟り身体に力が入らない男はそのまま倒れこみ顔面から地面に突っ込む。土と草の味が口に広がる。
倉庫を照らす外灯に小さな蛾がちらつくのを見て、綺麗だなと思う。
そんな自分をやけに冷静な自分自身が客観視している。
土と草の味、蛾の踊り、次の瞬間訪れるであろう痛みへの恐怖、明日も仕事を休むのか、と頭を過るが明日は日曜だからどうせ休みだったかと鼻で笑う。
死を覚悟した脳は本人の力の及ばないスピードで回り続け、さらに加速し全ての情報を同時に処理しようとする。
その全てが無駄になる
Aは取り出した柄の長いハンマーで躊躇なく男達の1人の頭を叩き割った。ほとばしる血は、想像に容易く赤いものだと疑わなかったがAは笑みがこぼれるのを我慢できないといったひきつった顔で
「ほっほら!!なっ?やっぱり思った通りだ!コイツらの血は青い!!!」
Aは次々と男達を急襲していく
「こいつも!こいつもだ!ほら!」
獲物だと思っていた相手に突然牙を剥かれ、腰を抜かした者もいるが容赦なくハンマーを打ち付けていく。
逃げ場がないようにしていた7人は自らの狩り場で全員が絶命した。
あるいは虫の息なのかもしれないが、区別は付かない。
男は口の中の土の味と血をまとめて地面に吐き出しながやっと立ち上がる。
外灯に照らされたその血を見てAが言った
「奴らの血か?」
原題「色盲のキチガイ」
コンプライアンスの問題により「異星人殺し」に変更。
完
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる