カジャタン・ペンシュー

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懺悔

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結婚して19年目、そのときの赤ん坊が先日高校を卒業し就職した。大学に行くのも推したが本人は職人肌で出世だなんだより早く実践投入されるのを希望し地元から離れた金属加工の会社に勤めた。
二人目は授からなかったので、子育ても終わり妻との生活も二人きりになる。
これからどう生きていくかとしていたら離婚の申し出を受けた、何も夫婦生活や育児に失態などなかったが、面白くもなかったらしく、子供が就職した隣町にワンルームを借りることにしたのだと言う。
話し合って説得して、というのも出来たのだろうが、、、俺に言いくるめられたとまた10年後に離婚をつきつけられても気分が悪いし、なんせもうそんなに冷め切られていたのならと離婚届にサインをしすぐに役所に届け出受理された。
荷物をまとめるのを手伝い、車に積み込んであげながら、二人でこの家に引っ越してきた時に、同じように車から家に運んだものを、逆に車に積み込むのは物凄く寂しく辛く何度か涙が出たが汗を拭うふりをしてごまかした。
部屋に彼女が借りるアパートの契約書があったので「大切なの忘れてるよ」と助手席に座る彼女の膝に乗せ、そのままアパートへと発信した。
途中自宅にスマホを忘れていることを思い出したが、逆に好都合だとそのまま向かう。
運転が苦手な彼女と同じように高速は使わず、アパートへとつくとすっかり夜中だった、あとの大きな家具はすでにその近くのかぐやから運び込まれていてちょっとした引っ越しだが俺が三度車と部屋を往復すると終わった。
そして彼女のスマホを部屋に置き、山へと向かった。
彼女を埋めに。
山へ着くと出来るだけ登り茂みの奥へと向かう。少しだけひらけた場所があったのでそこを浅く掘り彼女を埋めた。衣服は脱がせ、歯はその場で全て折って、石で砕いてそのあたりにまいた。
彼女を埋めた上にカップめんに魔法瓶に入れたお湯を入れ、ちゃんと3分待って、それをぶちまけた。
土の中、余りに深いと微生物が少なく肉体の分解に時間がかかる、臭いの強い食べ物を撒くことで雑食性の動物やカラスなども寄ってくる。
これで完全白骨化するのに数ヶ月しかかからないだろう。
車を彼女のアパートに戻し
息子に「引っ越し終わった荷物車に乗せるのお父さん手伝ってくれた。遠いから運転怖かった」とメッセージを送り
もう朝日が出ていたので、ローカルバスなどを乗り継ぎ自宅に帰り、その頃は昼だった。
スマホには別段なんの連絡も無く、疲れていたので家にあったお菓子をいくつか食べて寝た。
程なくして、2日ほどたってからだろうか
息子から連絡があり、母親と連絡が付かないとのこと。それはそうだろう死んでるのだから、こいつは昔からそうだ、近所の悪ガキにいじめられたときも、中学で先輩に、目を付けられてカツアゲされていたときも、急に平和になったよかったとぽやぽやしていた。
自分の息子なのにこうも、、、いやまあそういうのは時代遅れなのか。
『引っ越してからは連絡してない。俺からも連絡しようか?お母さん嫌がらないかな?』
『大丈夫一応連絡して欲しい!』
『わかった』
死人にメッセージを送るのもなんだかバカな話だが
『美琴さんメッセージしてごめん、お兄ちゃんが連絡つかないって心配してたから、気付いたら電話かメールしてあげて、俺には返事しなくて良いから』死んでるからどうせできないし

翌日、電話がかかってくる
「お父さん仕事?今忙しい?」
「んや、あと半年で俺も定年だから最近は残った有給結構使わせてもらってる。明日も休みだから、ゴロゴロして映画見てた。そういえばさっきマル(犬)がお兄ちゃん探して部屋のドアカリカリしてたよ」
「そうなんだ、俺も落ち着いたら一回帰るからマルの好きなガム買ってくるよ。ところでお母さんからなんか連絡あった?」
「いやー?俺には返事しなくていいからお兄ちゃんには連絡してあげてーて言ってるし、なんも。そっちもないの?」
「うん。」
「なんだろ?事故ったりしてないかな」
「いや、それは大丈夫。引っ越しの時はついたよって連絡あったから。」
「お兄ちゃんのアパートから近い?様子見に行ってくれないかな?」
「行ってピンポンしたけど出ないんだよね」
しばらく沈黙
「お父さんが警察に言おうか?」
「んー、、、、」
多分離婚したのは母親の一方的な意見だということも理解していて、俺に迷惑をかけるのは良くないと思っているのだろう
「いや、いいよ俺が近いから警察には俺から連絡する。」
「そか、もういっかいメッセージはしとくけど何かあったら俺にも教えて。」
「わかったごめんね、マルの好きなガムのパッケージ写真送っといて!違うの食べないでしょマル」
「わかったー」
電話を切り、まず犬のガムの写真を撮り息子に送る。妻の携帯へ『お兄ちゃん心配して警察に相談するって言ってるよ、なんか大げさな話しになったら大変だし気付いたら連絡してあげてね』
翌日朝一番に下4桁が0110の番号から電話が、すぐに警察だと理解し電話をとる
「はい?」
「あ、朝早くにすみません。こちら○○警察署のシバタと申します。」
「いえ、今日は休みなので。妻の件ですか?」
「あ、ご存じでしたか。」
「何度か息子から連絡がないと言われていて昨日警察に連絡すると言ってたので」
「ああ、そうですか、最後に会われたのがご主人なものでどうしても一度お話をと思いまして。息子さんからお電話番号もお預かりして、本来ならこちらが出向くべきなのですが他県で急を要すので取り急ぎお電話で失礼いたしました。」
「いえいえ、あ、私もさっき妻と申したのですが実は離婚したばかりでして。」
「あ、そうなのですね。息子さんからはそのような話を伺っていなかったもので。」
「息子の就職と独り立ちを機に、離婚をと言われまして。息子について行く形で私は犬と取り残された有様で。自炊もまだ何日か目ですが、すでにお弁当を買ってきてる始末ですよ。」
すでに警察の声は私に嫌疑を向けているのはわかる、突然離婚を切り出された元旦那が逆上して元嫁を殺す。昼のサスペンスで何万回と見たような話だ。電話の向こうでほかの声がヒソヒソと聞こえる気がする
「そうでしたか、戸籍上他人と言うことであればご協力を無理強いは出来ないのですが」
「いえいえ、何でも出来ることはいたしますよ、ただこちらの家を妻、、、元妻が出てからは当然会ってないですし連絡も付いてないんです。そもそも向こうが離婚を切り出したので連絡が来ることもないでしょうし、、、」
「何か変わった様子や、向こうというかこちらにこられてどなたかに会うとか、パートとかお勤めされる予定であったり何でも良いのでわかることがありませんか?」
「いえ、正直離婚はショックでしたし、離婚届を書いてからは何を話して良いかもわからず。ほとんど会話は無かったです。あ、犬の予防接種の日付が妻の引っ越したあとなので忘れずに行くようにと言われたくらいで、あとは引っ越しの手伝いをしているときに、いるものいらないもの、向こうで買うもの、捨てる物の確認とか。」
「なるほど、」
「今は思いつかないので何か思い出したりすれば、そちらへ、、、えっとシバタ様宛に連絡します」
「わかりました。ご協力ありがとうございます。状況が状況なもので、お呼び立てすることがあるかもしれません。」
あ、これは暗に疑われてるてことだな
「えっああわかりました。明日から週末までは仕事なので電話がつながりにくいと思います。勤め先は~~   」
勤め先の住所と電話番号を伝え
「連絡いただいたら休み時間か終業後にかけ直しますので出来たら会社へは緊急の時だけにしてください。土日また休みなので息子のアパートに行くように予定しておいて、そちらの警察署にも一度顔を出しましょうか」
「わかりました。いえ、今のところは。」
電話を切り、映画の続きを見る。息子へは警察から連絡があったことだけメッセージをした。捜索願なども出すだろうし、あとは状況が動いてから対応すればいいだろう。
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