『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜

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迷い込んだ料理人

第13話 噂をすれば......売り切れはゆるしまへんでぇ

屋台を始めて4日目の朝、広場に向かう道を歩きながら、タクミは肩に掛けた鍋の重さを確かめた。
昨日は昼前に売り切れたので、今日は少しだけ量を増やしている。それでも、増やしすぎは禁物だ。余れば無駄になるし、味も落ちるからだ。

「なんかさ、最近ちょっと人増えてない?」

隣を歩くミリアが、背伸びするように前を見た。

「広場か?」

「うん。朝からいる人、多い気がする。前は、こんなに人いなかったもん」

広場に集まっている人は、買い物のついでという雰囲気ではなく、何かを待っているような人もいる。
屋台の机を置くと、すぐに数人がこちらへ視線を向けた。

「確実に、見られてるな」

タクミが、あからさまな視線に、ぼそりと言う。

「私達のこと完全に待ってるよね?」

ミリアは、予想もしていなかった出来事に笑いが込み上げてくる。だが、準備をする手は止めず椀を並べ始める。

タクミも、かまどに火を入れ、鍋を温める。湯気が立ち上り始めると同時に、広場の空気が少し変わった気がした。匂いに引かれるように、人が近づいてくる。

「お、待ってたぞ!」

最初に来たのは、すっかり顔なじみになった農夫だ。

「いつものうまい一杯を頼む」

「はいよ」

銅貨を受け取り、椀を渡す。農夫は当然のように受け取り、そのまま近くのベンチへ向かった。
昨日までは立ったまま食べる人が多かったが、今日は座ってゆっくり食べる姿が目立つ。

「なんかさ、ほんとに店になってきた感じしない?」

「だな。それに、そう見えるなら、悪くない」

次に来たお客は見覚えのない若い男だ。服装からして、村の外から来たらしい。

「これ、噂になってた屋台かな?」

「噂?どの噂かはわからないが、一応屋台だな」

タクミは、前日から噂の話を聞いているので思い当たる節があったが、確定ではないのではっきりとは返さない。

「街道の途中で聞いたんだ。なんでも温かい煮込みがあるってね」

ちらほら噂が流れはしているとは思っていたが、街道の人通りが多い場所で噂になっているとは思わなかった。

「そうか。この店で間違いないと思う。一杯、銅貨3枚だ」

「へぇ~、安いな」

男は椀を受け取り、一口すすって目を丸くした。

「おお、思ったよりちゃんとしてる」

その言い方に、ミリアが少しむっとした顔をしたが、タクミは気にしない。

「旅人向けかと思ったら、しっかり飯だな。こりゃ、噂になるわけだ」

「飯だからな。食えない物を売る気はないぞ」

男は、ただの屋台じゃなくて本気でやってるんだなと感心しながら去っていく。
そして、屋台の前には途切れない程度の列ができる。昨日より少し多い。だが、混乱するほどではない。

「......人、多い」

ルイが、椀を補充しながらぽつりと言った。

「あぁ、嬉しい悲鳴だな」

「私は、ちょっと楽しいかも」

普段あまり感情を表に出さないルイが、話し始めたので、ミリアは驚いたようにルイを見る。

「ルイ、そういうこと言うんだ」

「言う」

タクミは、忙しさとは真逆のほのぼのした空間に、タクミは笑った。
 
それからしばらくして、見慣れた商人がやってくる。

「お、今日も繁盛だな」

「まぁな。ありがたい限りだ」

タクミと商人は、お互い軽く笑みを浮かべながら話す。

「このままいけば、村の名物になるかもな」

「大げさだ」

「いやいや、旅人はこういう話好きだぞ。街道沿いのうまい屋台ってな」

商人は、順番が来ると、すぐさま椀を受け取り、一口飲む。

「うん、安定してる。いい味だ」

「昨日も言ってたな」

「毎日同じ味が出すってのは、本当に難しいんだよ。街でも、味の安定してない店が多い」

商人の表情は、冗談半分ではなく真剣そのものだった。

「で、どうだ。街、考えたか?」

商人は、どうしてもタクミを街に誘導したいようだ。

「まだだな」

「ブハッ、即答かよ」

街にいけるチャンスをあっさり断るタクミがおもしろく、商人は大笑いした。

「ここが回ってる間は、ここでいいんだ」

商人は、予想通りかといった様子で肩をすくめる。

「まあ、無理にとは言わないさ。ただ......ほら、言ったそばから、もう村以外のやつらが来てるぞ」
 
商人は、言った通りだろと言わんばかりの顔をする。
だが、あながち間違いではなく、そこには見知らぬ顔が数人もいた。荷物を背負った旅人らしい。

「ほらな、噂ってのは勝手に広がるもんだ」

そう言って飲み終えた椀を返し、去っていく。
そして、昼が近づく頃、鍋の中身はまだ半分ほど残っていた。
昨日より量を増やした分、余裕がある。

「ん~、今日は売り切れないかもね」

ミリアは、少し悩ましげな様子で答えた。

「それでいいんだ。余裕があるくらいが丁度いいしな」

昨日のように量を調整すると言ったお客に不満を持たせる接客よりもいいと考えていた。

「でもさ、昨日はちょっと気持ちよかった」

「売り切れか?」

「うん。人気ある感じがするもん」
 
ミリアの子どもみたいな素直な喜び方に、タクミは思わず微笑ましくなる。

「売り切れは、確かに気持ちいいが、食えなくなる客のことを考える必要があるんだ」

「確かに......そうか~」

列の後ろから声が聞こえた。

「すみません、まだありますか?」

振り向くと、旅人らしい女性が立っていた。少し疲れた顔だが、鼻をひくひくさせてる様子から匂いに惹かれて来たのが分かる。

「あるぞ。はいよ。お待ちどうさん」

椀を渡すと、女性はまだあることに、ほっとした。

「はぁ~よかった。ずっと歩いてて、温かいもの食べたかったんです」

この言葉から余計に、この屋台は、もう村人だけのものではなくなり始めたと感じたのだった。
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