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第六話 萌加が『見た』
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「まあ奥原の都合も分からないし、戸川がまた具合悪くなっても可哀想だし、取り敢えず盆踊りは保留でいいんじゃないの。グループメッセージ、出来れば見ろよな」
「そうだね、保留がいいよ。私ホント、いま公園にいるのすら怖くなってきたもん。あやのちゃんの都合も分からないしさ。忙しそうだから私達から会いに行って、例えば順番に手伝ってあげるとかもありじゃない? そういう話もグループメッセージで出来るから、ミナちゃんも出来れば見るようにしてみて」
興奮して立ち上がる萌加を、左右から腕を取るみたいにして小枝子と裕太がまとめに入る。
小柄な萌加は、兄と姉に諌められる年少者みたいに見える。腕を取られて膨れているから余計だ。
――ていう感じでグループメッセあたしら揃ってスルーしてたっぽいよ
あやのとは毎日、個人的にメッセージを送り合っている。
グループメッセージを放置しているというのは、陰口になる気がして今まで言っていなかったが、ニコイチ的反応をしていたと知った嬉しさでミナはさっそく話題に出してしまった。
風鈴が鳴る下でハチワレ猫のような生き物が寝転がる「チリーン」というスタンプが返ってきた。あやのの好きなマニアックな漫画の中のキャラクターだ、ということしかミナには分からない。が、揃ってスルーしていた自分たちと重なって、愉快だとは思った。それを選ぶあやののセンスも好きだ。
――一日開かないだけでめっちゃ未読たまるから、すでに怖くて開けない状態。
――イヤとかじゃないんだけどね。
二連続のメッセージの後、しろくまのような生き物と先程の猫が、お酒だろうか、缶を持って「ハーーッ……」と顔をしかめているなんとも言えない味のスタンプが送信された。
――イヤっぽい顔でわら
――とりあえずあたしはグループの方みるようにするからさ 大事っぽい連絡あったら教えるよ
――とりあえず今年の盆踊りは無ししょ?
――みんなあやのに会いたいから手伝いにこっちから行こうかって話もでたんだけど
かえって迷惑だよね、と続く吹き出しを送信しようとしたときだった。萌加から着信があって、画面が切り替わってしまう。ミナの指は反射的に受話器のアイコンをスワイプして通話に出ていた。
「どしたん」
部屋の時計を見上げると九時をまわっている。萌加から最近聞いている話では、アツシ先輩と毎晩ラブラブ通話をしているはずだ。アツシ先輩に関わる重大な危機か、もしくは惚気か、もしかしてシちゃったとか、シそうとか、そういう話かもしれない。
どちらにしても面倒くさいけど、興味深い話題ではある。と萌加の言葉を待つも、荒い息の合間に、「……た、……ッてた」と弾けるタ行の音が聞こえるだけだ。背後には車の走行音がして、外に居るらしいというのは分かった。
「ほんとにどした? 外? なんか怖いことあった? いま安全なとこに居る? どこ居る?」
急に現実的な嫌な想像がめぐってきて、矢継ぎ早に質問をすると、ようやく呼吸を整えたらしい萌加が、仕上げに大きく深呼吸をしてから話しはじめた。
「見た」
「見た? なにが?」
「もえも見たの。コンビニ行こうと思って、ついでにちょっと松の下寄っていこうかなって、行ったの。そしたらね、全身に雪が吹き付けたみたいな兵隊さんが、居たの」
嘘だー! と叫びそうになったミナはなんとかそれを飲み込んだ。今の今まで、今日口から発したでまかせのことすら忘れていた。でまかせのはずなのに、萌加は『見た』と言う。
「見間違いじゃなくて?」
「間違えないよ、だってすごい、はっきり見えたし。ミーナの言う通りだったの」
電話口の声は囁きの域におさえられてはいたが、興奮からか息が多く、シュッシュと歯から漏れる音が耳障りだ。
萌加は怖いからと家につくまで通話を続けたがったが、なんとなくその音を聴いていたくなくて、風呂に呼ばれた、と言ってミナは通話を終わらせた。
萌加が「見た」その日中に、いつメンのグループメッセージには興奮した様子でのメッセージが投下された。
風呂から上がったミナはスマホの通知の光るのを見て、萌加だろうと直感し、事実そうだった。萌加はミナが電話を切ったこと、一人で心細く夜道を帰ったことについても、不満を表していた。
それこそアツシ先輩と通話しながら帰れば良いのになぜそうしなかったのかは不思議だ。
肩にかけたバスタオルに、毛先から垂れたしずくが染みて寒くすらある。
通話を終わらせる言い訳に入浴を使ったミナだが、言葉にしてみると実際に風呂に入りたいような気がしてきて、追いだきも待ちきれずシャワーのみで入浴を済ませていたのだった。
夏休みに入ってから生活リズムの崩れていた娘が、日付の変わらないうちにせかせかと入浴を済ませたことに、母親は「いつもこうならいいのに」と笑って野球の録画を見ていた。
体が冷えるのを感じて窓を閉めると、部屋にはミナの呼吸音とスマホの振動音だけが残った。まだグループラインは続いているのだ。
「そうだね、保留がいいよ。私ホント、いま公園にいるのすら怖くなってきたもん。あやのちゃんの都合も分からないしさ。忙しそうだから私達から会いに行って、例えば順番に手伝ってあげるとかもありじゃない? そういう話もグループメッセージで出来るから、ミナちゃんも出来れば見るようにしてみて」
興奮して立ち上がる萌加を、左右から腕を取るみたいにして小枝子と裕太がまとめに入る。
小柄な萌加は、兄と姉に諌められる年少者みたいに見える。腕を取られて膨れているから余計だ。
――ていう感じでグループメッセあたしら揃ってスルーしてたっぽいよ
あやのとは毎日、個人的にメッセージを送り合っている。
グループメッセージを放置しているというのは、陰口になる気がして今まで言っていなかったが、ニコイチ的反応をしていたと知った嬉しさでミナはさっそく話題に出してしまった。
風鈴が鳴る下でハチワレ猫のような生き物が寝転がる「チリーン」というスタンプが返ってきた。あやのの好きなマニアックな漫画の中のキャラクターだ、ということしかミナには分からない。が、揃ってスルーしていた自分たちと重なって、愉快だとは思った。それを選ぶあやののセンスも好きだ。
――一日開かないだけでめっちゃ未読たまるから、すでに怖くて開けない状態。
――イヤとかじゃないんだけどね。
二連続のメッセージの後、しろくまのような生き物と先程の猫が、お酒だろうか、缶を持って「ハーーッ……」と顔をしかめているなんとも言えない味のスタンプが送信された。
――イヤっぽい顔でわら
――とりあえずあたしはグループの方みるようにするからさ 大事っぽい連絡あったら教えるよ
――とりあえず今年の盆踊りは無ししょ?
――みんなあやのに会いたいから手伝いにこっちから行こうかって話もでたんだけど
かえって迷惑だよね、と続く吹き出しを送信しようとしたときだった。萌加から着信があって、画面が切り替わってしまう。ミナの指は反射的に受話器のアイコンをスワイプして通話に出ていた。
「どしたん」
部屋の時計を見上げると九時をまわっている。萌加から最近聞いている話では、アツシ先輩と毎晩ラブラブ通話をしているはずだ。アツシ先輩に関わる重大な危機か、もしくは惚気か、もしかしてシちゃったとか、シそうとか、そういう話かもしれない。
どちらにしても面倒くさいけど、興味深い話題ではある。と萌加の言葉を待つも、荒い息の合間に、「……た、……ッてた」と弾けるタ行の音が聞こえるだけだ。背後には車の走行音がして、外に居るらしいというのは分かった。
「ほんとにどした? 外? なんか怖いことあった? いま安全なとこに居る? どこ居る?」
急に現実的な嫌な想像がめぐってきて、矢継ぎ早に質問をすると、ようやく呼吸を整えたらしい萌加が、仕上げに大きく深呼吸をしてから話しはじめた。
「見た」
「見た? なにが?」
「もえも見たの。コンビニ行こうと思って、ついでにちょっと松の下寄っていこうかなって、行ったの。そしたらね、全身に雪が吹き付けたみたいな兵隊さんが、居たの」
嘘だー! と叫びそうになったミナはなんとかそれを飲み込んだ。今の今まで、今日口から発したでまかせのことすら忘れていた。でまかせのはずなのに、萌加は『見た』と言う。
「見間違いじゃなくて?」
「間違えないよ、だってすごい、はっきり見えたし。ミーナの言う通りだったの」
電話口の声は囁きの域におさえられてはいたが、興奮からか息が多く、シュッシュと歯から漏れる音が耳障りだ。
萌加は怖いからと家につくまで通話を続けたがったが、なんとなくその音を聴いていたくなくて、風呂に呼ばれた、と言ってミナは通話を終わらせた。
萌加が「見た」その日中に、いつメンのグループメッセージには興奮した様子でのメッセージが投下された。
風呂から上がったミナはスマホの通知の光るのを見て、萌加だろうと直感し、事実そうだった。萌加はミナが電話を切ったこと、一人で心細く夜道を帰ったことについても、不満を表していた。
それこそアツシ先輩と通話しながら帰れば良いのになぜそうしなかったのかは不思議だ。
肩にかけたバスタオルに、毛先から垂れたしずくが染みて寒くすらある。
通話を終わらせる言い訳に入浴を使ったミナだが、言葉にしてみると実際に風呂に入りたいような気がしてきて、追いだきも待ちきれずシャワーのみで入浴を済ませていたのだった。
夏休みに入ってから生活リズムの崩れていた娘が、日付の変わらないうちにせかせかと入浴を済ませたことに、母親は「いつもこうならいいのに」と笑って野球の録画を見ていた。
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