7 / 34
第七話 楽しませるための嘘
しおりを挟む
――証拠写真でもないと信じらんないよ
萌加の 怒濤のメッセージの連なりに挟まる形で、裕太のアイコンが呟く。
――戸川の話聞いて思い込んだだけだろ? 普通のおっさんだよ
――正直あれも想像みたいなもんだと思うし 歴史好きだから
萌加が連ねる「でも」とか「ええー」だとかの短い吹き出しを、裕太の長い吹き出しが力づくで抑えようとしているみたいに見える。
――本当だったら怖いし嘘であって欲しい気持ちもある…
じっと様子を見守っていたらしい小枝子が放つ一言は、萌加とミナのどちらに向けられているのだろうか。
そもそも小枝子は集団全体としての気分の移り変わりに敏感なところがある。
小枝子がはっきり発言したということと、裕太の長い吹き出しが萌加を圧倒しつつある景色には、積極的に相関がある。
とまで考えていたところで、萌加の吹き出しが猛烈な勢いで放たれ始めた。
嘘を嫌う萌加に、「嘘であって欲しい」は禁句なのだ。小枝子は人の心の 機微には詳しいが、なにしろ萌加との付き合いが短い。
――もえちゃんの事と違うよ
ごめんね、と宇宙人のキャラクターが汗をかくスタンプには【さえ】と名前が入っている。
名前入りスタンプという文化はミナ達には無かった。可愛いね、と言ったら、転勤族だから名前覚えてもらいやすいのがいいの、と返ってきて、それがやけに大人っぽく聞こえたのを覚えている。
と 悠長に思い出している場合ではなくて、小枝子の発言はつまりミナを嘘つき呼ばわりしているということだ。
裕太の「想像みたいなもん」「歴史好きだから」もはっきりとミナに向けられたもので、嘘と決めつけているも同然だ。
実際、嘘なわけだが、それを指摘される流れはきっぱり、くっきり、まざまざ、何でも良いがとにかくばっちりと不快だった。
――怖がらせてごめんだけど見えちゃうのは本当だよ
まず短めの吹き出しで 牽制する。それから長文の作成に入った。
――嘘だって思われるから今まで言わなかったの。結構勇気出して言ったんだけど。もえまで見えるようになっちゃうなんて思わなかった。怖い思いさせてもえにはホントごめん。さえちゃんも怖いよねごめん。
ずるい返信だ、と思いながらも、さり気なく流れを変えるには謝るふりをしながら正当性を主張するしかなかった。黙っていては嘘つきあつかいに終わってしまう。
送信してみると、すぐに既読が4件ついた。送信者であるミナを除く四人が読んだということで、つまり今、グループメッセージのメンバー全員がこの流れを見守っているということだ。
あやのが読んでいるということだ。
ミナはずるい返信をして良かったと反射的に思った。あやのの前で嘘つき呼ばわりされて、それをあやのはただ見守るしかなかったという状況だったのだ。
振り返ってみるとそれは本当に恐ろしいことであると思えた。
慌てて再度、 怒濤のメッセージ画面を見返すと、始めの萌加の「見た」発言のところで「びっくり」という企業キャラクターのパンダの無料スタンプが貼られていた。
ミナとあやの二人だけのおそろいで使っているキャラクターのスタンプでも、あやのがよくミナに送ってくるマニアックな漫画のスタンプでも無いので、流し見している時には気付けなかった。
スタンプから感情は細かく読めないが、この話を興味深く追っているのは間違いがなさそうだった。
――ミーナが嘘つきなんて思わないよ! もえはちゃんと見た! ごめんもいらない
泣き顔の顔文字をつけて萌加が答えるのがほほえましい、だってミナは見たことなど無い。
――うちもミナは嘘なんかつかないと思うよ。
――あーやマジそれ!
青空に向けて二つの腕が伸びて、ピースしているアイコンが喋りだす。ミナとあやのの腕だ。あやのがアイコンに使っている写真だ。
五年生の夏にあやのの家族と一緒に海に行った時に撮ったものだ。
夏といえども海は冷たく、泳ぐよりもジンギスカンが主な目的だった。
新しい水着を買ったというあやのが、無理に腰まで入って、唇を蒼くして上がってきたのを覚えている。
「だから言ったしょ」と言う母親に 膨れてみせるあやのを、肉の煙でいぶされながらあやのの父親が笑って見ていたのもよく覚えている。
いい家族だったはずなのだ。
それよりも、とミナは思う。
あやのの援護は心からのものだと思えた。
萌加が興奮のままに送ったメッセージと、挟まれる裕太と小枝子の言葉だけで、なんと把握したものかと見守っていたのだろう。
そこでミナ自身が告白をしたことにより、当然のものとしてミナの言葉を信じてくれた。
そういう理解でいいはずだと励まされたのは、続くあやののメッセージによるものもあった。
――怖いし、言って良いのか分からないけど、見えるのは羨ましいかも。ちょっとワクワクするの、無い?
生真面目に句読点をつけるあやのの打つ文章が好きだ、とまず思う。遅れて感動が来る。
ずっと沈んでいて、グループメッセージを開く余裕もなく、ミナとのやり取りも減りつつあったあやのが、「ワクワクする」と言ってくれている。
萌加の見たものは思い込みだろうし、ミナの言葉は単純に嘘なのだが、それがあやのを楽しませるならそれは一概に責められるものではないだろうと、言葉に自信がつく。
そしてあやのの信じる限り、信じさせ続けてあげたいし、それが正しいと見なすことにした。
萌加の 怒濤のメッセージの連なりに挟まる形で、裕太のアイコンが呟く。
――戸川の話聞いて思い込んだだけだろ? 普通のおっさんだよ
――正直あれも想像みたいなもんだと思うし 歴史好きだから
萌加が連ねる「でも」とか「ええー」だとかの短い吹き出しを、裕太の長い吹き出しが力づくで抑えようとしているみたいに見える。
――本当だったら怖いし嘘であって欲しい気持ちもある…
じっと様子を見守っていたらしい小枝子が放つ一言は、萌加とミナのどちらに向けられているのだろうか。
そもそも小枝子は集団全体としての気分の移り変わりに敏感なところがある。
小枝子がはっきり発言したということと、裕太の長い吹き出しが萌加を圧倒しつつある景色には、積極的に相関がある。
とまで考えていたところで、萌加の吹き出しが猛烈な勢いで放たれ始めた。
嘘を嫌う萌加に、「嘘であって欲しい」は禁句なのだ。小枝子は人の心の 機微には詳しいが、なにしろ萌加との付き合いが短い。
――もえちゃんの事と違うよ
ごめんね、と宇宙人のキャラクターが汗をかくスタンプには【さえ】と名前が入っている。
名前入りスタンプという文化はミナ達には無かった。可愛いね、と言ったら、転勤族だから名前覚えてもらいやすいのがいいの、と返ってきて、それがやけに大人っぽく聞こえたのを覚えている。
と 悠長に思い出している場合ではなくて、小枝子の発言はつまりミナを嘘つき呼ばわりしているということだ。
裕太の「想像みたいなもん」「歴史好きだから」もはっきりとミナに向けられたもので、嘘と決めつけているも同然だ。
実際、嘘なわけだが、それを指摘される流れはきっぱり、くっきり、まざまざ、何でも良いがとにかくばっちりと不快だった。
――怖がらせてごめんだけど見えちゃうのは本当だよ
まず短めの吹き出しで 牽制する。それから長文の作成に入った。
――嘘だって思われるから今まで言わなかったの。結構勇気出して言ったんだけど。もえまで見えるようになっちゃうなんて思わなかった。怖い思いさせてもえにはホントごめん。さえちゃんも怖いよねごめん。
ずるい返信だ、と思いながらも、さり気なく流れを変えるには謝るふりをしながら正当性を主張するしかなかった。黙っていては嘘つきあつかいに終わってしまう。
送信してみると、すぐに既読が4件ついた。送信者であるミナを除く四人が読んだということで、つまり今、グループメッセージのメンバー全員がこの流れを見守っているということだ。
あやのが読んでいるということだ。
ミナはずるい返信をして良かったと反射的に思った。あやのの前で嘘つき呼ばわりされて、それをあやのはただ見守るしかなかったという状況だったのだ。
振り返ってみるとそれは本当に恐ろしいことであると思えた。
慌てて再度、 怒濤のメッセージ画面を見返すと、始めの萌加の「見た」発言のところで「びっくり」という企業キャラクターのパンダの無料スタンプが貼られていた。
ミナとあやの二人だけのおそろいで使っているキャラクターのスタンプでも、あやのがよくミナに送ってくるマニアックな漫画のスタンプでも無いので、流し見している時には気付けなかった。
スタンプから感情は細かく読めないが、この話を興味深く追っているのは間違いがなさそうだった。
――ミーナが嘘つきなんて思わないよ! もえはちゃんと見た! ごめんもいらない
泣き顔の顔文字をつけて萌加が答えるのがほほえましい、だってミナは見たことなど無い。
――うちもミナは嘘なんかつかないと思うよ。
――あーやマジそれ!
青空に向けて二つの腕が伸びて、ピースしているアイコンが喋りだす。ミナとあやのの腕だ。あやのがアイコンに使っている写真だ。
五年生の夏にあやのの家族と一緒に海に行った時に撮ったものだ。
夏といえども海は冷たく、泳ぐよりもジンギスカンが主な目的だった。
新しい水着を買ったというあやのが、無理に腰まで入って、唇を蒼くして上がってきたのを覚えている。
「だから言ったしょ」と言う母親に 膨れてみせるあやのを、肉の煙でいぶされながらあやのの父親が笑って見ていたのもよく覚えている。
いい家族だったはずなのだ。
それよりも、とミナは思う。
あやのの援護は心からのものだと思えた。
萌加が興奮のままに送ったメッセージと、挟まれる裕太と小枝子の言葉だけで、なんと把握したものかと見守っていたのだろう。
そこでミナ自身が告白をしたことにより、当然のものとしてミナの言葉を信じてくれた。
そういう理解でいいはずだと励まされたのは、続くあやののメッセージによるものもあった。
――怖いし、言って良いのか分からないけど、見えるのは羨ましいかも。ちょっとワクワクするの、無い?
生真面目に句読点をつけるあやのの打つ文章が好きだ、とまず思う。遅れて感動が来る。
ずっと沈んでいて、グループメッセージを開く余裕もなく、ミナとのやり取りも減りつつあったあやのが、「ワクワクする」と言ってくれている。
萌加の見たものは思い込みだろうし、ミナの言葉は単純に嘘なのだが、それがあやのを楽しませるならそれは一概に責められるものではないだろうと、言葉に自信がつく。
そしてあやのの信じる限り、信じさせ続けてあげたいし、それが正しいと見なすことにした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる