嘘つきミーナ

髙 文緒

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第十五話 小枝子に起きていること

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 小枝子と裕太がいつメンの集まりから遠ざかってから、半月近くが経とうとしていた。

 中学校の裏の何もない公園は、木が少なくて日陰もないが、その分虫も少ない。遊具もないので子供が居なくていい。それに盆も過ぎて、日中の気温も過ごしやすくなってきていたから、日陰にこだわる必要もない。
 風のある日の午前中は、涼しいくらいだ。

 公園と道路をへだてる柵に腰かけながら、三人は雲の流れの早いのを感心したように見上げていた。
 萌加はアツシ先輩と盆踊りに行った話をしている。その話に怪異の影は微塵もなくて、ただひたすらに青い春だった。張り切って着ていった浴衣の帯がきつかったとか、鼻緒が擦れて痛かったとか、アツシ先輩がそれに気付いてくれたとか。
 夜店でかき氷を頼んで、舌が染まるのを避けたい萌加はカルピスの味を選んだとか、アツシ先輩はブルーハワイで、ブルーハワイって結局何味? と言いながら結局一口もらって舌が青くなったとか。

 そろそろ止めないとキスでもしそうな流れだ。あやのが興味津々の様子のなか、萌加の話をさえぎっていいものかと迷っていたときだった。

 五人だけのグループメッセージに久々の投稿があった。

 ――馬渡まわたりがヤバい
 ――助けて
 ――戸川どこいる?

 裕太の連投が三人のスマホを同時に震わせる。
 顔を見合わせると、取りあえずミナが代表して返信をかえした。

 ――中学の裏の公園

「ヤバいってどういうことだろうね」

 あやのが呟く。
 ミナの脇腹を萌加がつついて、口笛を吹くようにして唇を尖らせてみせた。唇はクリアなベージュのリップでおおわれていて、ラメは入っていなかった。

「なんだろ。なんであたし名指しなんだろ」

 脇腹をつかれた意味が分からないまま、あやのの言葉にだけ反応を返す。

「そんなのミーナが霊感少女だからに決まってんじゃん。つ、ま、り、さえぴに何か怪異現象が起こったってことだよ」

 萌加が今度はピーヒョロ笛をくわえるジェスチャーまでして言うので、やっとミナはイオンでの会話を思い出した。

 まさかそんなわけは、と思いたい気持ちもあったけれど、到着した裕太の話によりその願いは否定された。
 つまり、明確に小枝子が呪われ、そして「見て」いるということが語られたのだった。

「一昨日から全然連絡つかなくて、家に電話かけたんだよ。そしたら馬渡のお母さんが出てさ、体調不良だから出られないっていうんだよ。風邪ですか? って聞いてもはっきりしなくてさ、イヤな予感がして家に行ったんだよ」

 そうして裕太がしつこく母親から聞き出した結果、ずっと兵隊が付いてくるといってノイローゼ状態なのだという。

「それって見えたどころじゃなくない? 家に出た人って今までいないよね」

 ミナにしがみつきながら、あやのが言う。

「いわゆる取り憑かれてる状態ってこと?」

「で、裕太は見たの? さえぴに憑いてる奴」

「具合はどうなの? 熱とか、怪我とか。ご飯食べられてるかとか」

「本当に兵隊さんだった?」

 ミナと萌加で裕太を囲って口々に問うと、裕太は靴を地面にこすって後退し、その場で小さく足踏みをした。
 風に巻き上げられた砂利がミナ達の顔をおおい、反射的に目をつぶることになった。

 萌加が腕で唇にくっついた砂を拭って、手の甲についたそれを手のひらでこすり落とす。ミナは口に入った砂利を噛んでしまい、顔をしかめた。
 一瞬でおさまったミニ砂嵐の後に薄く目を開けると、額に張り付いた裕太の前髪からのぞく目は、砂のせいか充血していた。

「見てない。部屋入ったらすげー目で睨まれて『でてけ!』って叫ばれた。でも兵隊は見てない。変な紐みたいなのがぐちゃぐちゃに体に絡みついて、毬? みたいなのがベッドから転がってた。それがこっちに転がってくるから、怖くて部屋から出てきた。熱も怪我もないけど、死ぬんじゃないかってくらい食って、その後吐いて気絶したみたいに寝るって聞いた。風呂入れようとしても暴れて駄目だって」

「それってなにかきっかけあったの?」

 喋るとジャリジャリするのが気持ち悪い。それでもミナは代表して確認しなくてはならなかった。

「一昨日家に帰ってからだって。昼にプール行った時はそうでもなかった」

「プール? あの坂の途中の市民プール? あそこの裏、霊園じゃん!」

 萌加が声を上げた。

「え、でもそれだけで憑かれるとかある?」

 ミナの後ろであやのが訊ねると、萌加がぐるりと首を向けた。

「あるよ! あーやもイオンで男の子が怪我したの見たしょ」

「でもなんでさやちゃんだけいきなり……他に家まで付いてきた霊なんか居なかったのに」

「それはさあ」

 言いかけて、萌加はわざとらしく口をつぐんでミナに目配せしてみせた。拭った際に唇からはみ出したらしいリップグロスが、よだれみたいに横に伸びているのが不快で、ミナは目を逸した。

「とにかく、さやちゃんのうち行こう。心配だよ」

 あやのの声に、裕太も即座にうなずいた。確かに、原因についてこのまま公園で話していてもらちが開かない。四人は顔を見合わせると一斉いっせいに駆け出した。

「戸川が見てくれたらなんか分かるんだよな?」

「分かるよ! だってミーナの力ずっとでしょ?」

 先んじて萌加が勝手に請け負ってしまったことで、ミナは何も言わずに駆けることしか出来なくなった。
 厚底のスニーカーで走りにくそうにしている萌加を追い抜いて、あやのの腕をとって走る。二人が裕太に追いつこうというところで、小枝子の家に到着した。

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