嘘つきミーナ

髙 文緒

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第十八話 言霊少女のちから

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 あやのの見たものは裕太が見たと言ってるものと同じだろうか。それをあやのも思い込みから見ているのだろうか。
 思い込みだけで小枝子はあそこまでおかしくなったのだろうか。

 でもノイローゼなら、あるいは、あるかもしれない。

「予約に時間がかかるってさえちゃんのママが言ってたの、ノイローゼとか診てくれる精神科とかだったのかな。入院になったら多分そういう検査もしてもらえるよね」

「医者に治せるかよ! 戸川も見たろ、なんかバケモンが憑いてるの、なんとかしてくれよ」

 出来るだろ、なんとか。と絞り出すように言って、裕太は空になったグラスを握りしめた。
 出来るわけないし見てもいない。だが信じさせてしまったのはミナだ。
 何か小枝子のために出来ることを、提案するだけでも裕太の心の救いになるのかもしれない。獣めいた臭いとふるまいを思い出しながら、ミナはまた付けなれた霊感少女の面に手を伸ばした。

「あれは、動物霊だね」

 落ち着き払った口調を作る。

「でも見た目すごく植物っぽかったけど」

「それはね、動物の霊が植物の体を借りてる。旧校舎の霊もつたの形を借りてるんだと思うの!」

 あやのの言葉に、萌加が断定口調で言う。

 萌加の突然の助け舟に、霊の姿を見ていないミナとしては戸惑うしかなかった。それでも萌加の言葉を借りて、動物霊と旧校舎の蔦の話を繋げてみることにした。
 言葉は、よどみなく流れだした。

「そう、実体を持つのは蔦に集まる霊なの。霊園のわきの土地に、旧歩兵連隊の小さながある。その陰に病気の猫がいるのが見える……。旧校舎の霊もっている蔦を借りて現実に体を得ているの。だから今回もそれだと思う。助けてほしいって言ってる。さえちゃんは優しいからきっと猫と波長があっちゃったんじゃないかな」

「猫を助けたら馬渡まわたりは治るのか」

「生霊だからね、本体を保護して病院に連れて行ってあげたらいいと思う。病気で体が動かなくて、何も食べられてないみたい。さえちゃんもすごく食べて、お風呂嫌がって、それで吐いて寝るって言ってたしょ。混乱して土まで食べてたから、きっとすごくお腹が減ってるんだと思う」

 目をつぶり、手を空にさまよわせて言葉を連ねていく。よくここまででまかせが出るものだと思う。

「なるほど、さえぴに憑いてるのは猫ちゃんの生霊だったのか。そうだね、きっと猫ちゃんを助けたらさえぴの呪いもとけるはず! 病気の猫ちゃんが居る碑のところにこれから行こ!」

 萌加の復唱がうるさい。でまかせを丁寧に追うものだから、自分がいかにおかしなことを言っているのかを、再確認させられるみたいだ。
 それでもミナの言葉を疑ってくれる者はおらず、すぐにでも猫探しに行こうという方向で話はまとまった。

 あやのの提案で大きめの洗濯ネットやタオルを携えて、四人は霊園に向かった。
 盆の後で、枯れた花と腐った水の臭いがそこら中の墓から漂ってきていた。
 きちんと回収されているものもあるが、霊園の管理にまかせて供えっぱなしの墓参者も少なくないようだ。

「こういうの、ちゃんと片付けないとだめってうちのばあちゃんはよく言ってる」

「ほんとそれ!」

 あやのが群がる虫を扇いでちらしながら言うと、萌加が力強く同意した。

「俺んちは墓参りってしたりしなかったりだけど、放置だったかも」

 そう呟く裕太は少し気まずげだ。
 霊園を通り抜ける際、萌加は珍しい家紋をながめてはふらふらと歩いた。
 裕太は先を急いで、性急に場所をたずねてくる。
 ミナは先頭に立ち、入り口にあった看板の地図を思い出しながら歩く。
 ミナの横には猫捕獲グッズを両手に抱えて進むあやのがいた。

 果たして、碑の裏に猫はいた。
 居なければよかったのに、とミナは思った。
 眼病だろうか、それとも喧嘩の傷が化膿したのか、腐敗した皮膚で片目と鼻がむき出しになって繋がっていて、ぐちゃぐちゃとした顔をしていた。

 よく見ると、体や脚のところどころ毛が抜け落ちて皮膚が見えている。ピンクのところと、白いところがあった。
 いよいよミナは自身の言葉のちからを確信するしかなくなった。

 霊感少女ならぬ言霊少女としてのちからを。

 あやのが上からタオルでくるむと、猫はあっさりと保護された。あやのは赤ん坊にするようにして猫を持ち上げ、胸に抱いた。
 猫は大人しかったが、ネットに入れようとすると警戒して暴れる気配を見せた。かえって危ないということで、タオルでくるむのみにして、動物病院まで運ぶことになった。

 病院は少し離れたところにある。事前にあやのがスマホで営業時間を確認していた。十四時半から午後の診療開始、予約不要。
 ナビを示すあやののスマートホンを借りて、ミナが道案内をすることになった。表示されるルートに従い、霊園裏の坂をのぼる。途中日陰が途切れ、日差しは丁度ミナたちの目を正面から射る角度で差し込んでいた。
 誰も喋らなかった。黙りこくって歩くには、明るすぎる道だった。

「暑くない?」

 猫を抱くあやのにそうたずねると、ぬるい、と返ってきた。
 ナビが言うには、動物病院には学校の裏を通る道が近いらしい。

 学校の敷地を区切る柵の向こう、旧校舎があるところを通りがかったときだった。
 猫が、それまでのぬいぐるみのような大人しさから一転して、驚くべき俊敏しゅんびんさでタオルから抜け出し、旧校舎の裏手の小さな窓から入り込んでしまった。

「ヤバい、逃げる!」

 言うが早いか、裕太は柵を乗り越えて追っていった。少し高い位置にある窓だったが、裕太も猫に負けない運動神経の持ち主だ。あっという間に、猫を追って中に入り込んでしまった。
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