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第二十三話 告白
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【嘘を認めてみんなに謝って、嘘つきだって言ってもらえ。嘘つきは嫌いだって言ってもらえ。】
萌加の言葉を思い出しながら、ミナは中学校裏の公園で真上に来ようとしている陽を浴びていた。久々に日差しの強い日で、頭頂の分け目の部分が焼かれるのを感じる。首から絶えず汗が吹き出て、Tシャツの襟元を引きあげて汗を吸い込ませる。
手元のスマホも汗で湿っていた。クラスのグループメッセージを開いては閉じ、何を書いたものか迷っている。
書くべきことは決まっているし、タイキに起こった怪異を思えば迷っている暇など無いはずだった。
それでもミナは思いきれず、昨夜からずっと、動きの鈍くなったグループメッセージを開いて眺めることしか出来ていない。
「珍しいじゃん、ひとり?」
「裕太もね」
後ろから掛けられた声と、いびつな影の形で裕太と分かった。
「左手、いつ治るの」
「もうそろそろ外していいんだけど、診察が来週なんだよ」
「ダルいね」
「ダルいし痒い」
「誰か探してたの?」
「誰か居たらいいなとは思って来た」
ミナの座るベンチの端に腰かけると、裕太はアームスリングを外して包帯の上から肘を掻いた。
「馬渡は家に戻ってるよ。前よりマシだけど、薬出されてぼうっとしてる。ずっと眠いってさ。猫が死んだらもう呪いは解けないんだろ? どうしたらいいか分かんないよ。クラスの奴らも盛り上がるだけ盛り上がってさ、見舞いにも来ないし。来られても困るだろうけど。なあ、新学期始まっても、その後も、馬渡はずっとぼうっとしてなきゃなんないのかな。ひとが変わっちゃったみたいで怖いんだよ」
一人で抱えきれなくて限界だったのだろう、裕太は一息に話し始めた。そうだった、あやのの心配と自己保身で頭がいっぱいだったが、小枝子もまだ危ない状況にあることは変わらない。
裕太を目の前にして、ミナの覚悟はかたまった。嘘を告白して、嘘つきだと、嫌いだと言ってもらう。対面でだ。
そうしてもなお払いきれない負債を負っている。
「これから言うこと、聞いてくれる? いや、聞いてください。あたしはみんなに謝らないといけない。裕太の怪我もさえちゃんの呪いも、みんながおかしくなったのも、あたしのせいです。なにも見えてなんかいなかったし、全部でまかせ、嘘なの。でもそれが本当になっちゃったのは、もえの『言葉』にちからがあるからで……つまり、えと、分からないかもしれないけど、あたしの嘘をもえが繰り返して口に出したら本当になっちゃう、んです」
「分からないけど、つまり何? 霊が嘘ってこと? 俺も見たのに?」
「そうなの。本物の霊になっちゃったのはもえの言霊のちからで、あたしのちからではない。でも始めに嘘をついたのはあたしだから、あたしのせいです。嘘つきのあたしのせいでみんなに迷惑をかけてしまいました」
「茅原が繰り返して、言葉にしたら……」
裕太が顎に手をあてて、ずっと遠くを見た。白い肌を陽光に炙られる白樺が、公園の敷地沿いに等間隔に並んでいる。
柵のようになったその隙間から、道を走っていく車が見えた。右から左へ、左から右へ。突然流れがとまって、左から右へ走る車は列を成す。信号が切り替わったのだろう。
「どうしたら良いかもえに聞いたら、嘘を告白して、嘘つきって言ってもらって、嫌われろって。そうしたら、怪異が収まるって、もえが『言葉』にした。だから裕太、あたしを嘘つきだって言って、嫌ってください。これからクラスのグループメッセージでも告白するけど、裕太とさえちゃんは本当にひどい形で巻き込んでしまったから、裕太にはまず正面から怒られたい」
うーん、と裕太は視線を遠くにやったまま呟いた。列になっていた車が、また動き出した。
「ひとつ気になることがあるんだけど、」
ミナの頭が大きく揺すられる。首の後ろに布の食い込む痛みがあった。
裕太の右手がミナの襟首を掴んで、引き寄せていた。目の前の裕太の目はいつかのように充血していた。
「馬渡が呪われたのも、つまり具体的に馬渡になにか起こるって言ったってこと?」
「そうです。曖昧にしてごめんなさい。もえから、さえちゃんがあたしのこと悪く言ってるって聞いて、つい……言いました。さえちゃんも呪われるようになれば、見えるようになるって。そうなればいいって、言いました」
「ふざけんなよ!」
勢いよく突き飛ばされて、ミナはベンチから転げ落ちた。砂利が巻き上がって、口に入る。
砂を噛む感覚も、あの日と同じだ。決定的な間違いを犯して、物語が加速したあの日。
「茅原の言葉のちからってのも信じにくいけど、それとは関係なく俺は戸川に怒るよ。だって呪われちゃえって、それってはっきり悪意だ。仲間にそんなこと言うなんて思わなかった」
「軽率で最低でした。許してなんて言えないし、怒られてあたりまえだと思う。それでももえの言う呪いを解除する言葉にすがるしかないから、私のことをはっきり嘘つきって言ってください」
砂利に手をついて、ミナは裕太の足に謝った。
「嘘つき、嘘つきだよ。サイテーの嘘つきだ! 頼まれなくたって、嫌いんなる」
萌加の言葉を思い出しながら、ミナは中学校裏の公園で真上に来ようとしている陽を浴びていた。久々に日差しの強い日で、頭頂の分け目の部分が焼かれるのを感じる。首から絶えず汗が吹き出て、Tシャツの襟元を引きあげて汗を吸い込ませる。
手元のスマホも汗で湿っていた。クラスのグループメッセージを開いては閉じ、何を書いたものか迷っている。
書くべきことは決まっているし、タイキに起こった怪異を思えば迷っている暇など無いはずだった。
それでもミナは思いきれず、昨夜からずっと、動きの鈍くなったグループメッセージを開いて眺めることしか出来ていない。
「珍しいじゃん、ひとり?」
「裕太もね」
後ろから掛けられた声と、いびつな影の形で裕太と分かった。
「左手、いつ治るの」
「もうそろそろ外していいんだけど、診察が来週なんだよ」
「ダルいね」
「ダルいし痒い」
「誰か探してたの?」
「誰か居たらいいなとは思って来た」
ミナの座るベンチの端に腰かけると、裕太はアームスリングを外して包帯の上から肘を掻いた。
「馬渡は家に戻ってるよ。前よりマシだけど、薬出されてぼうっとしてる。ずっと眠いってさ。猫が死んだらもう呪いは解けないんだろ? どうしたらいいか分かんないよ。クラスの奴らも盛り上がるだけ盛り上がってさ、見舞いにも来ないし。来られても困るだろうけど。なあ、新学期始まっても、その後も、馬渡はずっとぼうっとしてなきゃなんないのかな。ひとが変わっちゃったみたいで怖いんだよ」
一人で抱えきれなくて限界だったのだろう、裕太は一息に話し始めた。そうだった、あやのの心配と自己保身で頭がいっぱいだったが、小枝子もまだ危ない状況にあることは変わらない。
裕太を目の前にして、ミナの覚悟はかたまった。嘘を告白して、嘘つきだと、嫌いだと言ってもらう。対面でだ。
そうしてもなお払いきれない負債を負っている。
「これから言うこと、聞いてくれる? いや、聞いてください。あたしはみんなに謝らないといけない。裕太の怪我もさえちゃんの呪いも、みんながおかしくなったのも、あたしのせいです。なにも見えてなんかいなかったし、全部でまかせ、嘘なの。でもそれが本当になっちゃったのは、もえの『言葉』にちからがあるからで……つまり、えと、分からないかもしれないけど、あたしの嘘をもえが繰り返して口に出したら本当になっちゃう、んです」
「分からないけど、つまり何? 霊が嘘ってこと? 俺も見たのに?」
「そうなの。本物の霊になっちゃったのはもえの言霊のちからで、あたしのちからではない。でも始めに嘘をついたのはあたしだから、あたしのせいです。嘘つきのあたしのせいでみんなに迷惑をかけてしまいました」
「茅原が繰り返して、言葉にしたら……」
裕太が顎に手をあてて、ずっと遠くを見た。白い肌を陽光に炙られる白樺が、公園の敷地沿いに等間隔に並んでいる。
柵のようになったその隙間から、道を走っていく車が見えた。右から左へ、左から右へ。突然流れがとまって、左から右へ走る車は列を成す。信号が切り替わったのだろう。
「どうしたら良いかもえに聞いたら、嘘を告白して、嘘つきって言ってもらって、嫌われろって。そうしたら、怪異が収まるって、もえが『言葉』にした。だから裕太、あたしを嘘つきだって言って、嫌ってください。これからクラスのグループメッセージでも告白するけど、裕太とさえちゃんは本当にひどい形で巻き込んでしまったから、裕太にはまず正面から怒られたい」
うーん、と裕太は視線を遠くにやったまま呟いた。列になっていた車が、また動き出した。
「ひとつ気になることがあるんだけど、」
ミナの頭が大きく揺すられる。首の後ろに布の食い込む痛みがあった。
裕太の右手がミナの襟首を掴んで、引き寄せていた。目の前の裕太の目はいつかのように充血していた。
「馬渡が呪われたのも、つまり具体的に馬渡になにか起こるって言ったってこと?」
「そうです。曖昧にしてごめんなさい。もえから、さえちゃんがあたしのこと悪く言ってるって聞いて、つい……言いました。さえちゃんも呪われるようになれば、見えるようになるって。そうなればいいって、言いました」
「ふざけんなよ!」
勢いよく突き飛ばされて、ミナはベンチから転げ落ちた。砂利が巻き上がって、口に入る。
砂を噛む感覚も、あの日と同じだ。決定的な間違いを犯して、物語が加速したあの日。
「茅原の言葉のちからってのも信じにくいけど、それとは関係なく俺は戸川に怒るよ。だって呪われちゃえって、それってはっきり悪意だ。仲間にそんなこと言うなんて思わなかった」
「軽率で最低でした。許してなんて言えないし、怒られてあたりまえだと思う。それでももえの言う呪いを解除する言葉にすがるしかないから、私のことをはっきり嘘つきって言ってください」
砂利に手をついて、ミナは裕太の足に謝った。
「嘘つき、嘘つきだよ。サイテーの嘘つきだ! 頼まれなくたって、嫌いんなる」
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