嘘つきミーナ

髙 文緒

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第二十二話 ひとのせいにしたら駄目だよ

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 萌加の家に突然押しかけたミナに、萌加の母親はどこかおっとりとした様子で驚いてみせた。

「もえちゃんと約束してたりした? あの子抜けてるところあるから、忘れてるのかも」

 そうたずねられて口ごもっていると、死角になる壁から抜け出るようにして萌加が現れた。

「もえちゃんお友達来てるわよ」

 見て分かることをわざわざ言う母親の横をすり抜けて、萌加はさっさとサンダルをつっかける。

「ちょっと青春してくるね」

 そう母親に告げてミナの腕をとり、引っ張るようにして連れ出した。

「もえにどうしてもお願いしたいことがあるの」

 家々の明かりと駐車場の看板で十分に明るい道を、さらにオレンジ色の街頭が照らしていた。家を出てすぐにミナの腕を離していた萌加は、確かな目的地があるような足取りで先を歩いている。
 ミナと同じようなTシャツにショートパンツという部屋着姿だが、薄手のシャツを上に羽織っていた。風呂上がりらしく、毛先の触れる肩の部分がしずくにより濃い色に変わっている。
 そう言えば、衝動的に飛び出して来たものの、夜は冷えるものだと思い出す。思い出したら急に寒い気がしてきて、ミナは両腕で体を抱きかかえるようにして、二の腕をこすった。

「コンビニ行こ」

 振り向いて萌加が言った。

「そんな場合じゃないの、あやのんちが大変なの。ラインブロックしてもいいけど、この相談だけは聞いてもらわなきゃと思って凸ったんだから」

「まあそろそろ、あーやにもなんかあるかもね。佳境かきょうってやつだ」

 萌加の歩く速度が上がる。足元はミナと同じPVC製のクロックスもどきのサンダル。いつも履いている厚底スニーカーよりも歩きやすいようだ。

「ねえ、佳境ってどういうこと? 本当に物語にしようとしてるの? 実際みんな怪我したり病気になったりしてんだよ?」

「まあ、まあまあ」

「聞いてよ、あやのの弟くんが急に喋りだして、それで今は熱出してるって。それであやのは、弟くんの枕元に立つつたの兵士を見たっていうんだよ」

「劇的だね」

 必死に説明するミナを萌加は取り合わない。苛立ちのまま後をついて行くうち、萌加の家から一番近いコンビニに行くには、遠回りになる道を行っていることに気づいた。
 これは、例の松の木の前を通るルートではないか。

「分かる? あやのは何もしてない、あやのの弟くんだって勿論何もしてない。それなのに『全部お前のせいだ』って、赤ちゃんだよ? 赤ちゃんが話したんだよ? この呪いももえの計画のうちなの?」

「『全部お前のせいだ』か、いいね、そう誰かのせい。。ミーナは全部もえのせいって言いたいでしょ? もえが悪い。もえの言葉のちからが悪い。それは本当にそうかもね」


 あっはは、はは、は……。


 萌加がやけくそめいた笑い声を上げて、自転車ですれ違った男の人がわざとらしくハンドルを切って二人を避けて行った。
 とぎれとぎれに笑う萌加が指さした先、車道を挟んだ向かいの道に松はあった。

「すべての始まりの場所だね」

 萌加はずり落ちたシャツの肩を直しながら言った。

「あのときもえが『見た』なんて電話してくるから。メッセージで回したりするから」

「ひとのせいにしたら駄目だよ。ぜんぶ、自分のせいだよ」

 対向車線のライトが一瞬切り取っていった萌加の顔は、涙をこらえる幼児のように歪んでいた。

「ハーゲンダッツのキャラメルナッツクッキー」

「なに?」

「助けてほしいんでしょ、相談料」

 そう言うと、萌加は松への道を渡ることなく、緑色に光るコンビニの看板に向けて歩き出した。

 わざわざ松を見るために、萌加の家から大きくコの字のルートを辿っている。無駄に歩かされた距離を思いながら、コの字の底辺を作る大通りを歩いた。冷たい風が正面から吹き付けていた。

「あたしのせいなのは反省する。でももえに言葉のちからがあって、それで物語っていうのを作ってるなら、あやのの弟くんは助けてあげてよ。さえちゃんも治してよ。街を戻してよ」 

「知らないよ、もえはミーナの言葉を繰り返しただけ。もえは嘘つきは嫌い。嘘の怖さを知らないで生きてこられた人は嫌い」

「でも赤ちゃんがピンチなんだよ? 助けるべきでしょ?」

「赤ちゃんねえ」

 萌加が吐き捨てるようにして言う。

「分かった、じゃあね、大事なことを教えてあげる。

【嘘を認めてみんなに謝って、嘘つきだって言ってもらえ。嘘つきは嫌いだって言ってもらえ。】

 それが条件だよ。いい? 言葉にしたからね」

「分かった……みんなに謝って、嘘つきって言ってもらえばいいんだね。それで助かるんだよね?」

「ちゃんと守らないと駄目だよ。守らないとまた、嘘つきだよ」

 ハーゲンダッツを食べ終えた萌加は、舌で唇を舐め取ると、「捨てといてね」と空の容器とアイススプーンを押し付けて帰って行った。
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