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ep15.証言①
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<——羽山弥生の証言——>
「芽衣子はとても良い子でした。誰にでも優しくて、いつも前向きで。……逆恨みや嫉妬もなかったと思います。だってそういうのは同レベルの人間でしか行わないでしょ?」
「私? 私だってそうですよ。芽衣子に嫉妬なんて恥ずかしい」
「……嘘です。嘘、私、彼氏がいることだけは優越感抱いてました。芽衣子、好きな人は居たけどバイト先の人だからって告白できずにいたんです。ただ……その、あんまりうまくいってなかったみたいで。死ぬ直前は悩んでいたように思いました。あの時話を聞いていればと思うと……、後悔しても遅いんですけど……」
「その好きな人について?そこまではわからないですね……。何回聞いても歳上の社会人としか教えてくれなくて……。あ、家には呼んだことあるみたいです。家族にも合わせたとかいってました」
「バイト? 無難な塾講ですよ」
〈——証言終了——〉
後日。葛西から与えられたボイスレコーダーを聴いて俺は頭を抱えた。
「結局たいして何もわかんなかったな」
「いいや、わかったよ」
「なにが?」
「全てはきみにかかってるって言うこと」
もう一度情報を整理し直そうか。葛西は姉の学習椅子に腰をかけると、懐からノートとペンを取り出した。
「まず、彼女は塾講師をしていた。彼女の彼氏である日記に出てくる『先生』は同じ塾の講師である可能性が高いだろう。その塾の名前と支部はクリアファイルに契約書に近いものが残っていたから、もしかしたら同僚を当たれば何か情報が得られるかもしれない」
そこは任せてくれ、葛西はそう言うと何かをノートにメモをして懐にしまい直した。
「日南くんはとにかくその男を思い出してくれ、きみはその男に会ったことがあるんだろう?」
「……一人、姉さんが男を連れてきたことがある」
記憶を辿ればうっすらと男のシルエットが見えてくる。暗い髪にパーマを当てていて、背の高い男だった。それと、体臭と混ざったウッド系のムスクの香りがいい香りで印象的だったのを覚えている。
「雰囲気は覚えてるけど……顔はなにも……」
「イメージだけでいい、忘れないでくれ」
葛西はそうしていくつかの書類とノートを勝手に鞄に入れると、椅子から立ち上がり俺を見下ろした。
「借りるよ」
「あ、あぁ……」
「仕事は時間はかかるがきちんとする、安心してくれ」
そうして、葛西は部屋を出ていく。姉の部屋にはポツンと自分だけが残された。
(何だよあいつ……)
数日前までは不安定すぎて笑っちまうくらいだったのになんだ急に元気になって。
(仕事してるとスイッチ入るタイプなのかな……)
きっと世の大人にはそういうスイッチが付いている人間もいるのだろう……と思う。
(俺には仕事経験なんてないからわかんねえけどな)
何だったらバイト経験だってない真の社会不適合者なのだ。そこら辺のニートと一緒にしないでほしい。
(ただ……別の視点って言うのは大事だな)
姉の匂いを塗り替えるくらい毎日のように姉の部屋にいたと言うのに、社会経験のない自分には契約書から勤務先を特定するなんて見当もつかなかった。一人じゃ姉の友人までにもたどり着けなかったと思う。
(俺も何か出来ないのかな)
部屋を当てもなくうろうろしていてもなにも始まらない。俺は自分の不甲斐なさにため息をつきそうになるが、記憶を掘り返してあることを思い出した。
『何回聞いても歳上の社会人としか教えてくれなくて……』
姉は恋愛に対しては秘密主義者だった。家にあの男を連れてきたのだって、実際の事実がどうだったのかはわからないが、彼氏としてはなく勉強の仕方を教えてもらう為とか、あまり覚えていないがそんなような名目だったと思う。そして男が帰った時、姉が自分だけにこっそり教えてくれたのだ。
『あのね、先生と今日初めてプリクラ撮ったんだ』
確かそのプリクラは携帯の裏に貼り付けていたはず。
姉の携帯は親が持っていたはずだ。
すぐに動き出そうとして、はたと気づく。今まで引きこもっていた期間、家での事なんて興味も持たなかったから何も知らない。
引きこもりも大概にしなきゃ姉さんに呆れられるな、とりあえずは親が帰ってきてから携帯の所在は聞くとして、俺は自室に戻った。
「芽衣子はとても良い子でした。誰にでも優しくて、いつも前向きで。……逆恨みや嫉妬もなかったと思います。だってそういうのは同レベルの人間でしか行わないでしょ?」
「私? 私だってそうですよ。芽衣子に嫉妬なんて恥ずかしい」
「……嘘です。嘘、私、彼氏がいることだけは優越感抱いてました。芽衣子、好きな人は居たけどバイト先の人だからって告白できずにいたんです。ただ……その、あんまりうまくいってなかったみたいで。死ぬ直前は悩んでいたように思いました。あの時話を聞いていればと思うと……、後悔しても遅いんですけど……」
「その好きな人について?そこまではわからないですね……。何回聞いても歳上の社会人としか教えてくれなくて……。あ、家には呼んだことあるみたいです。家族にも合わせたとかいってました」
「バイト? 無難な塾講ですよ」
〈——証言終了——〉
後日。葛西から与えられたボイスレコーダーを聴いて俺は頭を抱えた。
「結局たいして何もわかんなかったな」
「いいや、わかったよ」
「なにが?」
「全てはきみにかかってるって言うこと」
もう一度情報を整理し直そうか。葛西は姉の学習椅子に腰をかけると、懐からノートとペンを取り出した。
「まず、彼女は塾講師をしていた。彼女の彼氏である日記に出てくる『先生』は同じ塾の講師である可能性が高いだろう。その塾の名前と支部はクリアファイルに契約書に近いものが残っていたから、もしかしたら同僚を当たれば何か情報が得られるかもしれない」
そこは任せてくれ、葛西はそう言うと何かをノートにメモをして懐にしまい直した。
「日南くんはとにかくその男を思い出してくれ、きみはその男に会ったことがあるんだろう?」
「……一人、姉さんが男を連れてきたことがある」
記憶を辿ればうっすらと男のシルエットが見えてくる。暗い髪にパーマを当てていて、背の高い男だった。それと、体臭と混ざったウッド系のムスクの香りがいい香りで印象的だったのを覚えている。
「雰囲気は覚えてるけど……顔はなにも……」
「イメージだけでいい、忘れないでくれ」
葛西はそうしていくつかの書類とノートを勝手に鞄に入れると、椅子から立ち上がり俺を見下ろした。
「借りるよ」
「あ、あぁ……」
「仕事は時間はかかるがきちんとする、安心してくれ」
そうして、葛西は部屋を出ていく。姉の部屋にはポツンと自分だけが残された。
(何だよあいつ……)
数日前までは不安定すぎて笑っちまうくらいだったのになんだ急に元気になって。
(仕事してるとスイッチ入るタイプなのかな……)
きっと世の大人にはそういうスイッチが付いている人間もいるのだろう……と思う。
(俺には仕事経験なんてないからわかんねえけどな)
何だったらバイト経験だってない真の社会不適合者なのだ。そこら辺のニートと一緒にしないでほしい。
(ただ……別の視点って言うのは大事だな)
姉の匂いを塗り替えるくらい毎日のように姉の部屋にいたと言うのに、社会経験のない自分には契約書から勤務先を特定するなんて見当もつかなかった。一人じゃ姉の友人までにもたどり着けなかったと思う。
(俺も何か出来ないのかな)
部屋を当てもなくうろうろしていてもなにも始まらない。俺は自分の不甲斐なさにため息をつきそうになるが、記憶を掘り返してあることを思い出した。
『何回聞いても歳上の社会人としか教えてくれなくて……』
姉は恋愛に対しては秘密主義者だった。家にあの男を連れてきたのだって、実際の事実がどうだったのかはわからないが、彼氏としてはなく勉強の仕方を教えてもらう為とか、あまり覚えていないがそんなような名目だったと思う。そして男が帰った時、姉が自分だけにこっそり教えてくれたのだ。
『あのね、先生と今日初めてプリクラ撮ったんだ』
確かそのプリクラは携帯の裏に貼り付けていたはず。
姉の携帯は親が持っていたはずだ。
すぐに動き出そうとして、はたと気づく。今まで引きこもっていた期間、家での事なんて興味も持たなかったから何も知らない。
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