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ep27.証拠
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「……なんだ、これ」
なんなんだ、この日記は。本当に姉が書いたものなのだろうか。
これが事実ならば、姉は星川のストーカーだったという事じゃないか。そんなことがあるはずがない。だって姉はいつだって正しい。姉がそんな犯罪を犯すはずがない。
「……大丈夫、姉さんは疲れてたんだ。だからこんなものを」
だけど、少なくともここに書かれていた俺の行動は事実だ。確かに俺はあの日、姉に声をかけた。興味がないから顔までは覚えていないけど姉は誰かと一緒にいたはず。あれが星川だったのか。
(……そうだ、携帯)
姉のスマートフォンの中身を見れば真実がわかるはずだ。
ああ、そうだ。もしかしたら姉は精神を病んでしまっていたのかもしれない。
丁度、スマートフォンの最低限の充電が終わり、電源が付いた。俺は飛びつくようにスマートフォンを確認する。パスワードは姉の誕生日だ。ずっと見ていたからそのくらいわかる。
メールボックス……には何もない。メッセージアプリの方か。
アプリを起動して星川の名前をトーク履歴から探す。すぐに見つかった。死んだ日の当日に連絡を取り合っている。星川と連絡先を交換したのは、日記が本当ならば自殺した日からそう遠くない日だ。俺は一番上をタップしてその日まで遡った。
『これからよろしくお願いします』
星川はスタンプで返す。
日付が変わる。俺と星川がきちんと出会った最初の日。家庭教師一日目。
『今から行きます』
『弟と一緒に待ってます』
『つきました。インターホン押すね』
時間が経って、夜。
『新くんから聞いたよ。明日誕生日なんだって? お祝いの品を持っていくね。ところで、僕が新くんに会ってる間、どこに行ってたの?』
『バイトですよ』
日記を信じるなら、これは嘘だ。姉はこの時、星川の家に合鍵を作って侵入している。
家庭教師二日目。
『新くんに誕生日プレゼントを預けたよ。家に帰ったら受け取ってね。それと、疑って申し訳ないけど、もしかして僕の家に入ったりした?』
『片付けておきましたよ。ダメじゃないですか。あんなに部屋を汚くしたら。一緒に暮らしたら私が片付けるから良いですけど。早く両親に挨拶してくださいね。あと、私カモミール嫌いなんです。飾らないでください。明日、代わりの花を買ってきますね!』
女の子らしい可愛いスタンプ。
星川はそれに返信する。
『今回は警察沙汰にしないけど、もう来ないで欲しい』
『何言ってるんですか? 彼女が部屋に行くのは当たり前の事じゃないですか』
『きみと交際した覚えはない』
『歳の差なんて気にしなくていいですよ』
星川、既読無視。
翌日、家庭教師三日目の夜。
『私、カモミール嫌いだって言いましたよね!? アレはどういうことですか!? 私のこと嫌いだって言いたいんですか!?』
『嫌いじゃないけど、もうきみと関わることはしないつもりだ』
『私は先生の彼女なのに!』
『そんな事実はない。お金は新くんに渡したから受け取って』
『私のこと好きになってください』
『無理だ』
『恋人はいないんでしょう!?』
『歳下に興味はないんだ』
『私を選んでくれないなら死にます』
星川が電話を入れる。通話履歴、およそ二時間三十分。
翌日の夜、十時頃。
『昨日も言いましたけど先生のことが好きなんです。付き合ってください』
『すまない』
『諦めませんから』
自殺前夜。
『先生、ずっと一緒にいられる方法見つけました。先生の側にいるために死にます』
星川が電話を入れる。通話履歴およそ一時間。
自殺当日。
『私を選ぶか、選ばないか決まりましたか?』
およそ一時間後、追撃。
『先生?』
五分後、追撃。
『先生? ねえ』
三分後、追撃。
『ねえ』
すぐに電話をかける。不在着信。
『ブロックしたんですか?』
すぐに電話をかける。不在着信。
『先生』
不在着信。二時間後、追撃。
『机の上に家の鍵があります。私の部屋に来てください』
ここでトーク履歴は途切れている。
最後のメッセージが送られた時間から一時間後に俺に連絡が入る。
疑うまでもなく、姉に非があった。星川はストーカーの被害者だった。
なんなんだ、この日記は。本当に姉が書いたものなのだろうか。
これが事実ならば、姉は星川のストーカーだったという事じゃないか。そんなことがあるはずがない。だって姉はいつだって正しい。姉がそんな犯罪を犯すはずがない。
「……大丈夫、姉さんは疲れてたんだ。だからこんなものを」
だけど、少なくともここに書かれていた俺の行動は事実だ。確かに俺はあの日、姉に声をかけた。興味がないから顔までは覚えていないけど姉は誰かと一緒にいたはず。あれが星川だったのか。
(……そうだ、携帯)
姉のスマートフォンの中身を見れば真実がわかるはずだ。
ああ、そうだ。もしかしたら姉は精神を病んでしまっていたのかもしれない。
丁度、スマートフォンの最低限の充電が終わり、電源が付いた。俺は飛びつくようにスマートフォンを確認する。パスワードは姉の誕生日だ。ずっと見ていたからそのくらいわかる。
メールボックス……には何もない。メッセージアプリの方か。
アプリを起動して星川の名前をトーク履歴から探す。すぐに見つかった。死んだ日の当日に連絡を取り合っている。星川と連絡先を交換したのは、日記が本当ならば自殺した日からそう遠くない日だ。俺は一番上をタップしてその日まで遡った。
『これからよろしくお願いします』
星川はスタンプで返す。
日付が変わる。俺と星川がきちんと出会った最初の日。家庭教師一日目。
『今から行きます』
『弟と一緒に待ってます』
『つきました。インターホン押すね』
時間が経って、夜。
『新くんから聞いたよ。明日誕生日なんだって? お祝いの品を持っていくね。ところで、僕が新くんに会ってる間、どこに行ってたの?』
『バイトですよ』
日記を信じるなら、これは嘘だ。姉はこの時、星川の家に合鍵を作って侵入している。
家庭教師二日目。
『新くんに誕生日プレゼントを預けたよ。家に帰ったら受け取ってね。それと、疑って申し訳ないけど、もしかして僕の家に入ったりした?』
『片付けておきましたよ。ダメじゃないですか。あんなに部屋を汚くしたら。一緒に暮らしたら私が片付けるから良いですけど。早く両親に挨拶してくださいね。あと、私カモミール嫌いなんです。飾らないでください。明日、代わりの花を買ってきますね!』
女の子らしい可愛いスタンプ。
星川はそれに返信する。
『今回は警察沙汰にしないけど、もう来ないで欲しい』
『何言ってるんですか? 彼女が部屋に行くのは当たり前の事じゃないですか』
『きみと交際した覚えはない』
『歳の差なんて気にしなくていいですよ』
星川、既読無視。
翌日、家庭教師三日目の夜。
『私、カモミール嫌いだって言いましたよね!? アレはどういうことですか!? 私のこと嫌いだって言いたいんですか!?』
『嫌いじゃないけど、もうきみと関わることはしないつもりだ』
『私は先生の彼女なのに!』
『そんな事実はない。お金は新くんに渡したから受け取って』
『私のこと好きになってください』
『無理だ』
『恋人はいないんでしょう!?』
『歳下に興味はないんだ』
『私を選んでくれないなら死にます』
星川が電話を入れる。通話履歴、およそ二時間三十分。
翌日の夜、十時頃。
『昨日も言いましたけど先生のことが好きなんです。付き合ってください』
『すまない』
『諦めませんから』
自殺前夜。
『先生、ずっと一緒にいられる方法見つけました。先生の側にいるために死にます』
星川が電話を入れる。通話履歴およそ一時間。
自殺当日。
『私を選ぶか、選ばないか決まりましたか?』
およそ一時間後、追撃。
『先生?』
五分後、追撃。
『先生? ねえ』
三分後、追撃。
『ねえ』
すぐに電話をかける。不在着信。
『ブロックしたんですか?』
すぐに電話をかける。不在着信。
『先生』
不在着信。二時間後、追撃。
『机の上に家の鍵があります。私の部屋に来てください』
ここでトーク履歴は途切れている。
最後のメッセージが送られた時間から一時間後に俺に連絡が入る。
疑うまでもなく、姉に非があった。星川はストーカーの被害者だった。
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