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秋、スタート前の絶望。
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東京、秋葉原を離れて一カ月が経った。
「染衣、いつまでいじけてるの。貴方もう大人でしょ」
ドアの向こうから母親の声がする。
母親が京都から秋葉原に染衣を迎えに来てからもうひとつきか、とくるんだ布団にさらに潜りこむ。
秋の京都は紅葉が綺麗らしい。こちらに来てから拝んでいないが。
カーテンはしばらく開けていない。部屋の換気もしていない。外の空気は吸っていない。
結局、何もできずに終わってしまった。
誰の何にもなれずに終わってしまった。
前の職場での立場は「サブライター」。
キャラクターのミニシナリオを書くのが主な仕事だった。
だけど、そんな数行で終わるシナリオに、しかもキャラに合ったシナリオに、自分の思想を入れる事なんて出来るはずもなく。上司からは可愛がってもらったが、仕事の評価は可もなく不可もなく。メインライターへの昇進もなく、イベント担当ライターにもさせてもらえずの日々だった。
同期と喧嘩別れもしてしまった。
同期の彼の才能に嫉妬して、企画コンペで自分に勝った彼に酷い言葉を言って仲直りせずに別れた。
もうめちゃくちゃだ。自分の人生は終わりだ。
家業には今更興味はない。やる気がなければ同業のお嫁さんに嫁いでもらうとも言われている。家庭を持ったら責任が生じてもっと息が辛くなるだろう。
もう、生きていても何にも希望が持てない。
でも自死する勇気もやる気もない。
自分はどうしようもなく臆病で怠惰だった。その結果が二十六歳、親の脛齧りクソヒキニート。毎日やってることといえば、寝るか、食べるか、未練がましくホワイトスピカの求人情報を見るか。それくらい。
「染衣、無理矢理会社を辞めさせたのは悪かったわ。でも、貴方のためなのよ。あんな弱小会社に勤めていても先はなかったでしょう?」
うるせえババアと気持ちを込めて枕をドアにぶん投げる。
蕎麦の実が入った重い枕が床に落ちて音を立てた。
「……今日お見合いがあるから、支度して」
甘やかされていた自覚はある。
でも、人生は頑張れば自分の思い通りになると思っていた。自分さえ努力すれば、努力を怠らず、前を向いて走っていれば、上手くいくと。諦めなければ大丈夫だと。
きれいごとだ。
実際は外的要因で簡単に積み上げていたものは砂の城のようにボロボロ崩れていく。
その外的要因のおかげで一時でも夢が見れたと、諦めるべきなのかもしれない。
素敵な思い出にするべきなのかもしれない。
ーーでも、忘れられない。
『松里の書くシナリオ、僕はすきだよ。僕は誰かに向けて書けないから、売れ線通りにしか書けないから、自分の軸を持ってるのはいいと思う。……羨ましい』
誰かに「すき」だと言われたこと。
結局、彼に見せたシナリオは没になってしまったけれど、休憩室でペラを見て笑ってくれた彼の表情が忘れられない。
彼は元気だろうか。もう確かめることも出来ないけれど。
ため息をついてベッドから降りる。
笑いが出る。幼少期から過ごしていた子供部屋。
机の横の壁には「ホワイトスピカ」の人気長寿ゲームのポスターと「夢は諦めなければ叶う!」とペンで書いた画用紙が張り付けられている。
「叶っても、その先続けられるかは別なんだよ……」
昔の自分に教えてやりたい。
お前の夢は叶うよ。
でも、その分絶望する。
この先が、見えないくらいに。
「染衣、いつまでいじけてるの。貴方もう大人でしょ」
ドアの向こうから母親の声がする。
母親が京都から秋葉原に染衣を迎えに来てからもうひとつきか、とくるんだ布団にさらに潜りこむ。
秋の京都は紅葉が綺麗らしい。こちらに来てから拝んでいないが。
カーテンはしばらく開けていない。部屋の換気もしていない。外の空気は吸っていない。
結局、何もできずに終わってしまった。
誰の何にもなれずに終わってしまった。
前の職場での立場は「サブライター」。
キャラクターのミニシナリオを書くのが主な仕事だった。
だけど、そんな数行で終わるシナリオに、しかもキャラに合ったシナリオに、自分の思想を入れる事なんて出来るはずもなく。上司からは可愛がってもらったが、仕事の評価は可もなく不可もなく。メインライターへの昇進もなく、イベント担当ライターにもさせてもらえずの日々だった。
同期と喧嘩別れもしてしまった。
同期の彼の才能に嫉妬して、企画コンペで自分に勝った彼に酷い言葉を言って仲直りせずに別れた。
もうめちゃくちゃだ。自分の人生は終わりだ。
家業には今更興味はない。やる気がなければ同業のお嫁さんに嫁いでもらうとも言われている。家庭を持ったら責任が生じてもっと息が辛くなるだろう。
もう、生きていても何にも希望が持てない。
でも自死する勇気もやる気もない。
自分はどうしようもなく臆病で怠惰だった。その結果が二十六歳、親の脛齧りクソヒキニート。毎日やってることといえば、寝るか、食べるか、未練がましくホワイトスピカの求人情報を見るか。それくらい。
「染衣、無理矢理会社を辞めさせたのは悪かったわ。でも、貴方のためなのよ。あんな弱小会社に勤めていても先はなかったでしょう?」
うるせえババアと気持ちを込めて枕をドアにぶん投げる。
蕎麦の実が入った重い枕が床に落ちて音を立てた。
「……今日お見合いがあるから、支度して」
甘やかされていた自覚はある。
でも、人生は頑張れば自分の思い通りになると思っていた。自分さえ努力すれば、努力を怠らず、前を向いて走っていれば、上手くいくと。諦めなければ大丈夫だと。
きれいごとだ。
実際は外的要因で簡単に積み上げていたものは砂の城のようにボロボロ崩れていく。
その外的要因のおかげで一時でも夢が見れたと、諦めるべきなのかもしれない。
素敵な思い出にするべきなのかもしれない。
ーーでも、忘れられない。
『松里の書くシナリオ、僕はすきだよ。僕は誰かに向けて書けないから、売れ線通りにしか書けないから、自分の軸を持ってるのはいいと思う。……羨ましい』
誰かに「すき」だと言われたこと。
結局、彼に見せたシナリオは没になってしまったけれど、休憩室でペラを見て笑ってくれた彼の表情が忘れられない。
彼は元気だろうか。もう確かめることも出来ないけれど。
ため息をついてベッドから降りる。
笑いが出る。幼少期から過ごしていた子供部屋。
机の横の壁には「ホワイトスピカ」の人気長寿ゲームのポスターと「夢は諦めなければ叶う!」とペンで書いた画用紙が張り付けられている。
「叶っても、その先続けられるかは別なんだよ……」
昔の自分に教えてやりたい。
お前の夢は叶うよ。
でも、その分絶望する。
この先が、見えないくらいに。
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