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秋、諦めきれない夢。
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「え……」
目の前の二人が固まる。それはそうか。本人から何も聞いていないのなら、まず切断時点で似た選択肢があることすら考えもつかないだろう。今から伝えることは叶にとってはただのお節介かもしれない。だが、夢には金銭的補助が不可欠だ。特に道具も場所もサークルも必要なものなら、その投資者であるこの夫婦には伝えた方がいいと判断した。
「叶くんなりに調べたんでしょうね、足がなくてもサッカーする方法。でも、自分がなりたかった華々しい世界ではなかった。だから拒絶する。本当にサッカーがやりたいのか、そうではなくて『サッカーをやる自分』が好きなのかわからなくなってる」
まあ、大きくなったら折り合いつけて自分で選ぶでしょうが、そう付け足してガリを摘んだ。
「どちらに転んでもやりたいことはやれる時にやらせてあげたほうがいいですよ。大人になって後悔すると拗らせますから。自分で選んだことが親の都合で出来なくなった、とかなら尚更」
後半は完全に自分の実体験だが、第二第三の染衣を生み出すよかましか、と緑茶を啜った。何気ない言葉だ。特に深い意味もない、実体験に基づいたアドバイス。だが、楓は反芻するようにその言葉を繰り返す。
「……あの子が、自分で」
「小学六年生なら進路だって自分で選ぶ時期でしょ。何かおかしいんですか?」
「……いや、あの、ちょっと驚いて。僕は何か壁にぶち当たったら諦めるタイプなので、自分の息子が壁にぶつかっても頑張ろうとするのが理解できなくて」
「楽しいんでしょ、サッカー」
諦めきれない気持ちはわかる。だって自分がそうだから。染衣と叶は鏡だ。外的要因で夢を奪われ、それでどうすれば良いかを模索している。ただ、圧倒的な違いは現実を知っているか知らないか。染衣はどうにもならないことがあると知っているから、もう夢は諦めた。
叶は実力があるようだから自分が「障害者である」ということを認めて、大舞台を諦めればサッカーは出来るだろう。ただ、その現実と折り合いをつけるのが難しいのだ。
誰だって大舞台でキラキラしたい。
隅っこの井戸ではなく、大海で輝きたい。
「じゃああの子は立ち直れるんですね!」
桃華がぱあっと明るくなる。
「それは知りません。小学六年生の狭い世界で未来のことを考えるのは無理があるでしょう。大人でも、これは可能性ないから次はこれ、って切り替えるのは難しいのに」
「そう、ですか……」
楓が植物が萎れたように元気をなくす。
隣にいる桃華は何か言いたげな顔をして、それから覚悟を決めたように口を開いた。
「……少し、自分語りをしても良いですか」
時間には余裕がある。
「寿司奢ってくれたし良いですよ」と言うと桃華は話し始めた。
「叶って、夢が叶いますように。って想いを込めてつけたんです。……私たちは、夢を諦めた側の人間だから」
目の前の二人が固まる。それはそうか。本人から何も聞いていないのなら、まず切断時点で似た選択肢があることすら考えもつかないだろう。今から伝えることは叶にとってはただのお節介かもしれない。だが、夢には金銭的補助が不可欠だ。特に道具も場所もサークルも必要なものなら、その投資者であるこの夫婦には伝えた方がいいと判断した。
「叶くんなりに調べたんでしょうね、足がなくてもサッカーする方法。でも、自分がなりたかった華々しい世界ではなかった。だから拒絶する。本当にサッカーがやりたいのか、そうではなくて『サッカーをやる自分』が好きなのかわからなくなってる」
まあ、大きくなったら折り合いつけて自分で選ぶでしょうが、そう付け足してガリを摘んだ。
「どちらに転んでもやりたいことはやれる時にやらせてあげたほうがいいですよ。大人になって後悔すると拗らせますから。自分で選んだことが親の都合で出来なくなった、とかなら尚更」
後半は完全に自分の実体験だが、第二第三の染衣を生み出すよかましか、と緑茶を啜った。何気ない言葉だ。特に深い意味もない、実体験に基づいたアドバイス。だが、楓は反芻するようにその言葉を繰り返す。
「……あの子が、自分で」
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「……いや、あの、ちょっと驚いて。僕は何か壁にぶち当たったら諦めるタイプなので、自分の息子が壁にぶつかっても頑張ろうとするのが理解できなくて」
「楽しいんでしょ、サッカー」
諦めきれない気持ちはわかる。だって自分がそうだから。染衣と叶は鏡だ。外的要因で夢を奪われ、それでどうすれば良いかを模索している。ただ、圧倒的な違いは現実を知っているか知らないか。染衣はどうにもならないことがあると知っているから、もう夢は諦めた。
叶は実力があるようだから自分が「障害者である」ということを認めて、大舞台を諦めればサッカーは出来るだろう。ただ、その現実と折り合いをつけるのが難しいのだ。
誰だって大舞台でキラキラしたい。
隅っこの井戸ではなく、大海で輝きたい。
「じゃああの子は立ち直れるんですね!」
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「それは知りません。小学六年生の狭い世界で未来のことを考えるのは無理があるでしょう。大人でも、これは可能性ないから次はこれ、って切り替えるのは難しいのに」
「そう、ですか……」
楓が植物が萎れたように元気をなくす。
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「……少し、自分語りをしても良いですか」
時間には余裕がある。
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