同人サークル「ドリームスピカ」にようこそ！

冬、再起。

「さて」

　自宅でパソコンと睨めっこを続けて早一時間。びっくりするほど何も浮かんでこなかった。

　というか、吉川にあれだけ大層な啖呵を切ってみたものの、実際どうする？

　イラストは外注するしかない。システム周りは自分でどうにかするしかない。BGMはフリー音源でいいだろう。だとしても時間がかかりすぎる。リリースは半年後とかで早い方になるだろう。姫路夫妻の仕事が早すぎたのだ。金に糸目はつけないとしてもまず絵師を探すところから始めて、そこからイラスト外注で半年。その後にシステムやって、ああ、その前に企画書、テキストも最後まで書かなきゃ。

「同人やること多い……」

　正直個人制作のお遊びだろと馬鹿にしていたが、作ってる人めちゃくちゃすごい。本当今まで馬鹿にしてごめんなさいと世界の制作者に土下座する勢いで謝りたい気分だ。

「てかテーマも決まらん、何も決まらん、そもそも叶くんはドリームスピカ名義のゲームなんてやらないんじゃないか……？　じゃあ宣伝も一から……？」

　気が遠くなる。叶がプレイしてくれそうなゲームをまず考えなければならないが、叶の好みがわからない。知ってることなんてアルバートが好きなことくらいで。

「RPGにするとシステムがむずくなるし離脱率も高くなる……」

　ホワイトスピカのスターリグレッドは所謂スマホRPGなので、叶の好みを狙い撃ちするならRPG要素を入れた方がいいかもしれない。ただ、それをやるとおそらくとんでもなく制作期間が延びる。

「三カ月も猶予はないのに……」

　春までに家を継ぐ覚悟を、が親の意見だ。

　四月には決めなさい、と言われている。会社を辞めさせた負い目があるからか春までは誰と付き合いをしても文句は言わない、ただ春にはお母さんの決めた人と結婚してもらいますからね、と言うのが母の意思だ。

　だから自由に動けるのはそれまで。それまでにゲームをどうにか完成させたい。四月には叶も中学校に入学する。新しい道に向かうにはいい機会だ。

「優しい話……ちゃんと諦め切れるような……」

「仕方がない」で諦めるのはダメだ。

　吉川に出会わなかった染衣みたいに納得納得できずに終わらせたら、一生引きずってしまう。だから、あの子に必要なのは新しい夢で。

「それがサッカーである理由はないんだよな……」

　染衣は、ホワイトスピカに入社を決める前何も夢がなかった。生きてさえいれば、裕福で何も問題ない生活が保障されていて。だから新しい夢を、というのがわからない。

「それに夢をこちらが提示するのも良くない気がする……」

　それこそ、やっていることは染衣の母親と同じだ。レールを用意してトロッコに乗せてそのまま蹴り上げて。そんなの自分の人生じゃない。自分が何をやりたいかは自分で決める。少なくとも今の染衣はそうだ。

　同人ゲームを作る、もう商業には戻れなくても、届けたい人のためにシナリオを書く。

　これは親の意志ではなく、染衣の意志だ。

「……いっそのことファンタジーにするか？　ファンタジーなら叶くんは好きそうだし……未来の押し付けにはならないだろ……」

　うん、ファンタジー。作画コストがとんでもなくなるがもうしょうがない。どうせ今はお見合いニートの身だし、必要ならドットでもなんでも打ってやろうじゃないか。

　そう方向性を決めた時、スマートフォンが震えた。

「桃華さんだ」

　発信源は姫路桃華。あれから初めての連絡だった。