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③篠原海の話
21話
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「じゃあ、いってきます」
「ぱぱ、いってらっしゃ、い」
園の前でまつりが手を振って篠原を見送ってくれる。
横には西京さんがまつりと一緒に手を振ってくれていて、新人らしい保母さんは西京の事をポーっと見つめている。残念だが諦めてほしい。彼は篠原の事が好きなようなので。
そこまで考えて思わず頬が熱くなってしまう。どうやら思っていたより自分はチョロかったらしい。少なくとも、一回抱かれて絆されてしまうくらいには。
今までの彼女はみんな押せ押せという感じの女性ではなく、一緒にいて落ち着くような静かな女性だったので、西京のようなタイプは初めてだった。案外彼のようなタイプの方が自分は合うらしい。
「おはようございます」
会社のデスクに着くとまた新しい一日が始まる。
今日は難しい仕事はないはずだが、先日の時短勤務解除から大幅に仕事が増えた。
今まで周りに迷惑をかけていた分、仕方ないかなとも思うところもある。
「篠原さん、あの」
「……はい?」
「篠原さんって中野さんと仲良かったですよね?」
昼過ぎ、食堂で西京特製の弁当を食べていると篠原の所に一人の女子社員がやってきた。秘書課の子ではない。
「仲良い……とはわからないですけど、どうしました?」
「それが……、朝から連絡が付かないんです。無断欠勤ってやつです。特に今日は急ぎの仕事がないから幸いだったんですけど、誰の電話にも出ないし、みんな心配してて。篠原さんならよく中野さんと話してますしわかるかなって……」
昨日の夜の記憶が蘇る。まさか、あの電話の主が本当に中野だったとしたら。それなら当たり前のように西京の事も把握しているはず。ならば危ないのは。
「……僕からも連絡してみますね、もし応答があったら営業に連絡します」
「お願いしますね」
去っていく女子社員を横目に、篠原はスマートフォンで電話帳を開く。そのまま自宅の番号をタップすると数コールで彼は出た。
「もしもし西京さん?」
「なんだ、篠原くん。自宅にかけてくるなんて珍しい。弁当の苦情なら受け付けないぞ」
「そうじゃないです! 今ウチにいますよね? 無事ですか、何ともありませんか?」
「何もないが……、何かあったのか?」
篠原は中野の不在を西京に話した。親友である彼なら、何かわかると思ったからだ。
安心したかった。あれは中野ではなく、今日も具合が悪く休んでいるのだと。
予想しているようなことは起こりえないのだと。
「……アイツは無断欠勤するような奴じゃない。オレからも電話をかけてみる」
珍しく低い声で西京はそう言った。
「それから」
続けられたのは『万が一』にも考えたくない言葉。
「あまり考えたくはないが、園に電話をかけてくれ。まつりさんはそこにいるのか」
背筋が寒くなる。まさか。
篠原は西京との通話をぶち切り、慌てて園に電話をかける。
「——もしもし!」
「ぱぱ、いってらっしゃ、い」
園の前でまつりが手を振って篠原を見送ってくれる。
横には西京さんがまつりと一緒に手を振ってくれていて、新人らしい保母さんは西京の事をポーっと見つめている。残念だが諦めてほしい。彼は篠原の事が好きなようなので。
そこまで考えて思わず頬が熱くなってしまう。どうやら思っていたより自分はチョロかったらしい。少なくとも、一回抱かれて絆されてしまうくらいには。
今までの彼女はみんな押せ押せという感じの女性ではなく、一緒にいて落ち着くような静かな女性だったので、西京のようなタイプは初めてだった。案外彼のようなタイプの方が自分は合うらしい。
「おはようございます」
会社のデスクに着くとまた新しい一日が始まる。
今日は難しい仕事はないはずだが、先日の時短勤務解除から大幅に仕事が増えた。
今まで周りに迷惑をかけていた分、仕方ないかなとも思うところもある。
「篠原さん、あの」
「……はい?」
「篠原さんって中野さんと仲良かったですよね?」
昼過ぎ、食堂で西京特製の弁当を食べていると篠原の所に一人の女子社員がやってきた。秘書課の子ではない。
「仲良い……とはわからないですけど、どうしました?」
「それが……、朝から連絡が付かないんです。無断欠勤ってやつです。特に今日は急ぎの仕事がないから幸いだったんですけど、誰の電話にも出ないし、みんな心配してて。篠原さんならよく中野さんと話してますしわかるかなって……」
昨日の夜の記憶が蘇る。まさか、あの電話の主が本当に中野だったとしたら。それなら当たり前のように西京の事も把握しているはず。ならば危ないのは。
「……僕からも連絡してみますね、もし応答があったら営業に連絡します」
「お願いしますね」
去っていく女子社員を横目に、篠原はスマートフォンで電話帳を開く。そのまま自宅の番号をタップすると数コールで彼は出た。
「もしもし西京さん?」
「なんだ、篠原くん。自宅にかけてくるなんて珍しい。弁当の苦情なら受け付けないぞ」
「そうじゃないです! 今ウチにいますよね? 無事ですか、何ともありませんか?」
「何もないが……、何かあったのか?」
篠原は中野の不在を西京に話した。親友である彼なら、何かわかると思ったからだ。
安心したかった。あれは中野ではなく、今日も具合が悪く休んでいるのだと。
予想しているようなことは起こりえないのだと。
「……アイツは無断欠勤するような奴じゃない。オレからも電話をかけてみる」
珍しく低い声で西京はそう言った。
「それから」
続けられたのは『万が一』にも考えたくない言葉。
「あまり考えたくはないが、園に電話をかけてくれ。まつりさんはそこにいるのか」
背筋が寒くなる。まさか。
篠原は西京との通話をぶち切り、慌てて園に電話をかける。
「——もしもし!」
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